並行して進め
禪院晴作者これは吹っ切れる?の続きです。
口岡明人が死亡した。それは、晴にとって良いことだった。間違い無いだろう。しかし、晴の中で何かが引っ掛かっていた。何かがこれではいけないと強く訴えている。心配に思った晴は、縛りを数時間で数千個近く追加していた。休まずに。特に五条悟の無下限呪術など、強力な術式には数多の縛りが追加されている。
しかし、心配ごとは晴れることなく、夜になってしまった。明人により部屋が破壊されてしまった晴は別の部屋を使っていた。一日で多くのことをやってのけた今日、縛りで体力は回復しているはずなのに、すぐに眠ってしまった。
晴は不思議な夢を見た。いや、夢とは言えない。あれは…
ーーーーーーーー存在しない記憶ーーーーーーーー
幾度となく、晴と宿儺が殺される記憶だった。しかも時系列がバラバラ。おそらく起きる未来や、先ほどの戦いで敗れる記憶。何通りも、明人は晴と宿儺を殺した。叫び声血の匂い、全て鮮明だった。そして明人は晴が見たこともない力を使っていた。あれは術式なのか?明らかに見たものと異なる。打って変わって、美しい風景になる。これには見覚えがあった。晴の生得領域だった。そして、おそらく明人に殺されてしまった別世界の晴達が口を揃えて言った。
晴は飛び起きた。冷や汗で体がびっしょりと濡れている。横で寝ていた宿儺も異変に気づく。
宿儺「晴、何があった?悪い夢でも見たか?ん?」
呪いの王と呼ばれる彼の声色はとても優しいものだった。晴以外が聞くこともないだろう。そして晴は全て話した。そのあまりにも現実から乖離して尚、現実味のある記憶を。
宿儺「…つまり、別世界の俺とお前はあの小僧に殺され、その記憶をお前に託した…というわけか」
晴「そう、そうよ。並行世界からやって来て殺しに来るわ。私達のこと、どんな手を使っても」
晴はその後寝なかった。また縛りを追加し続けた。口岡明人についての縛りをより、強く。数多の数の縛りをかける。
晴「『全並行世界の人間を全て殺すから、他の並行世界から口岡明人の侵入を禁止して』あと…あ、『全並行世界の人間を全て殺すから、全並行世界の口岡明人を殺して』とかかしら…あとは」
宿儺は止めない。彼女が懸命に努力するその姿を見ていたいから。ふと、晴が宿儺に言った。
晴「貴方にもあげるわ『死ぬから、両面宿儺に私が持つ全術式、並びにその使い方に関する記憶を魂に刻んで』」
宿儺の思考は一時停止した。というより、魂に刻まれた記憶を処理しようとしたからなのだが。そして宿儺は晴が持つ術式を全て手に入れた。彼ならちゃんと使いこなせるだろう。
晴「羂索にもやらないと。あいつなら上手く使えるでしょう?」
宿儺「あいつにやるのか…」
晴「いいじゃない、貴方が初めてなんだし」
宿儺「…というか、お前にこれを刻まれたせいで目的がなくなったな。伏黒恵という」
晴「…!確かに」
宿儺の目的、それは十種影法術を手に入れること、少年院で色々あったらしい。でも、晴が刻んでしまったので意味がなくなった。
宿儺「今すぐあいつのところへ行くか?」
晴「だめよ、彼にも準備ってものがあるんだから。もう少し待ちましょう」
後日、晴と宿儺は任務終わりにある所を訪れた。そこはアパートの一角。
晴「今羂索の事そのまま呼んじゃダメよ。傑って呼んであげて」
宿儺「あぁ、分かった」
扉を開ければビーチが広がる。そこには夏油傑の皮を被った羂索という友人。そして呪霊共。
傑?「あ、晴ー!久しぶりー!」
ウキウキで手を振る羂索。やっぱりあいつは狂ってる。
漏瑚「宿儺に禪院晴?!何故ここに…」
宿儺「こいつ(羂索)に用があるだけだ」
晴「話したいことはいーっぱいあるけど、とりあえずこれを刻まして」
魂霊呪法と脱縛術式の同時使用で、羂索にも全術式と使い方、そしてこれまであったことの記憶を刻む。数分間フリーズした後羂索が口を開く。
傑?「口岡明人…面倒なやつだったね。こっちの計画を邪魔しかねないから殺しておいて正解だ。それで、君の仮説にある並行世界の立ち入りについての縛りを入れたかい?」
狂っているが流石としか言えない。晴は縛りはかけたけど、貴方も一応かけておいて、と伝える。そして代償はでかい方が有利、ということも伝えておく。
傑?「分かった。こっちでもかけるし、この力は次の戦いに活かさせてもらうよ。というか大丈夫かい?ここまで来て」
晴「縛りがあるから…『両面宿儺、禪院晴は死ぬから、ここに来たことが絶対にバレないようにして』…と」
傑?「君は流石だねぇ…元々の使い手も顔負けじゃない?」
晴「貴方も人のこと言えないと思うけど?」
羂索の術式は夏油傑から取ったものやその他の人間の物もある。彼も同じ多くの術式を保有する存在なのだ。
傑?「じゃあまた会おう。ハロウィンに」
晴「えぇ、さよなら」
二人は扉を出て、外に出る。