不忘の瞳
日車目線
矛盾だらけだ。
俺は一体どうしてしまったんだろうか。
目を見れないと言って自ら逸らした視線を、また交えさせることを望むだなど。
そうしてちらりと彼を盗み見た一瞬。その一瞬、目が合った気がした。
瞬間、脳裏に浮び上がるあの媚態。
じりじりと理性や情動を灼かれるような、熱い瞳、声、吐息、そして胎の裡。
全てが鮮明に思い出される。
已むに已まれぬ事情からの行為だった。
当然、引きずるべきでは無い。
忘れるべきだ、と己を戒める。
彼だって思い出したくも無いだろう。
そう自分に言い聞かせる。
ああ、こんなにも忘れられないというのに。
下腹に蟠る熱を散らそうと裁判の判例を思い返していると、ふと視界の端にふらりとよろけながらどこかに向かう彼の姿が映る。
どうかしたのだろうか、と思うより早く足が向かっていた。
彼の元に辿り着くと、柱に背を預けて座り込み、俯いて自らを掻き抱く姿が目に入る。
「……大丈夫か?」
在り来りな言葉をかけると、彼はびくりと身を竦ませて緩慢に顔を上げる。
目に映るぽやんとしたあどけない表情に劣情を抱いてしまうなど、本当にどうしてしまったのか。
先程とは違い、視線が絡み合う。
じわじわと彼の白皙のかんばせが紅潮していく。
耳も紅くなっていくのを察したのか、耳に手を当てて顔を伏せ、か細く掠れた声で
「大丈夫だ……」
と言った。
顔を伏せたことにより晒された項まで紅く染まっているのを見留め、ごくりと喉が鳴る。
「そうか…」
と返した声も、笑えるくらいに掠れていた。