上陸のアラバスタ
麦わら帽子の旗を追って辿り着いたのは、アラバスタ王国の港町『ナノハナ』だった。
往来は商人の声で賑わい、内陸部ではその多くが反乱軍へ加わっているという、若い男たちの姿もある。
アラバスタは近頃随分な状況だと聞いていたが、この町にはまだそれなりに余裕があるように見えた。
「キャプデン…鼻が…変なにおいがずるよ…!」
「ああ…『ナノハナ』は香水で有名な町だからな」
鼻の詰まったような声に振り向くと、そこには両手で鼻を押さえ、ペンギンとシャチに背を押されながら進むベポの姿があった。
どうにも鼻の利くおれたちの航海士には、この町の空気は合わないようだ。
物資の心配をせずに済むのは幸運だったが、このまま付き合わせるのは酷だろう。
「補給も済んだ。お前たちは先に…」
「そいつを抑えろ”麦わら”だァ!!」
戻っているかと尋ねる前に、海兵らしき男の怒号が辺りに響いた。
あいつは相変わらず、騒ぎを起こさずにはいられないらしい。
「お前たちは先に戻っていろ。おれはあとから合流する」
「アイアイキャプテン!」
鬼哭を受け取り、騒ぎを目印に姿を探す。
ドクトリーヌに見せてもらった手配書の文字を思い出し、ひっそりと笑みを浮かべた。
”神の天敵”か。あいつも、おれと同じ。
人混みをぬって追いついた先には案の定、慌ただしく出港する海賊船と海兵どもがいた。どうやらクルーの一人が足止めに残っているようだ。屋根を伝っていたあの煙の能力者がいるなら、おれも加勢した方がいいだろう。
鯉口を切ったところで、殿を務めるそいつに対峙した煙の海兵が、忌々しげに吐き捨てた。
「ポートガス…!」
その名には、覚えがある。
ポートガス・D・エース。"白ひげ海賊団"二番隊隊長。
なるほどつくづく”D”の名を持つ血は、数奇な運命を引き寄せるらしい。
即座に放たれた炎に合わせ、鬼哭で海兵を撹乱する。渦巻く怨霊たちに驚いた様子の男が、帽子を押さえながらこちらを振り向いた。
「お前は…」
「おれはトラファルガー・ロー」
癖のある黒髪にそばかす。敵船のただのルーキーを守る男の正体など、言われずとも分かりきっている。
「お前の弟の…友だちだ」