三分の一の確率で性別の違う自分と入れ替わる

三分の一の確率で性別の違う自分と入れ替わる


「そしたら、ハルトさんと交換したルリリちゃんの性別が変わっちゃったんですよ〜」


いつものように机に突っ伏していた彼の傍らで何気なく話した不思議な現象。

突然ガタガタっと飛び起き、明らかに動揺した顔で本当かどうかを問い詰め、倦怠な彼にしては珍しく大急ぎで部室を飛び出して行った。


「タロちゃん、今の話って……」

「本当に本当です〜!

 あの橋の近くでした!!」


自分が嘘を付いているのかと疑われているようで、少々怒り気味なタロに半信半疑な部員たち。

しかし飛び起きた彼……カキツバタはそれを間違いなく事実だと確信し、交換相手であるハルトのもとへ脚を急がせる。


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「時々、思うんだがね

 私とそっくりな人間が、全く別の生き方をする……そんな世界があるんじゃないかと」


朝から街中を走り回っていたカキツバタは通りすがりの会話の中ようやく落ち着きを取り戻し、ポケモンセンターの椅子に腰掛けていた。


自身の祖父が市長を務めるここソウリュウシティはこんな歴史的都市ではなかった。昨日までは。


状況が飲み込めず街を巡っている最中、以前父と喧嘩をしてしまったと話していた人物が、幼く未来を夢見ている姿で現れた。 

これだけなら単なる時間の移動だ。ジョウト地方のウバメのもり、シンオウ地方のテンガンざん、何らかのポケモンの影響の可能性がある。


ただ、ほとんどの住民は何ら変わりなかったのだ。

つまりここはパラレルワールド。自身の“身体の変化”もそう受け止めるしかない。


不思議な不思議な生き物、ポケモン。

雌のルリリが進化する際、三分の一の確率で性別が変わる場合がある。

では、ポケモンと暮らす人間はどうだろうか?


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「……であるからして、メガシンカは過去型、現在型と大きく分けられ……」


ブルーベリー学園に入学してしばらく経ってからだろうか。夢うつつに聞き慣れない単語を耳にしたのは。

居眠りから目覚め、次の授業、バトル学のテキストを引っ張り出しパラパラとめくっていると、巻頭の相性表に未知のタイプが書かれていることに気がついた。それが常識、当たり前であると。

時間や空間を超越する龍達すら無効だって?


……

…………

その頃から段々と眠るのが怖くなった。

目覚めたら突然世界が変わっている。

ルリリの性別変化現象も誰も知らない。


次は自分の記憶が消えてしまう予感すらしてきて、あっという間にカキツバタは睡眠障害を拗らせていった。


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「橋」は境界。

「眠り」は死んで生まれ変わる。

「三回」は……


女性や子供は境界を越えやすい。

やっと、やっとだ、何らかの情報を得れる可能性まで辿り着いた。


ハルトの居場所を聞き回っていると、どうやらアカマツと一緒にいるらしい。

何でも二人が試食を配り歩いて勝負している、だとか。


「食べ物」は仲間になること。

つまりどちらかを選ぶ。味ではなく、世界を。


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「おーす、ハルト 探したぜぃ」

「あ!カキツバタ先輩!

 今ハルトと新メニュー対決しててね!

 先輩もどう?」


いつもの白いコックコートからいい匂いがする。

こんな状態の自分を慕ってくれて、少々誤解されがちな時にも理解のある後輩。


アカマツ飯、好きだったなあ。

でももう選べねえのよ。


「わりぃなーアカマツ、オイラこちらさんに用があって来たんですわ」


ついこの間、相談してよね!と言ったばかりの彼の言葉を無下にするつもりは無かったが、だからといってこの好機を逃す気も無かった。


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ハルトの方の皿から軽くつまんで口に放り込んだあたりから記憶がない。


学園寮は似た作りの部屋の為、ここが誰の部屋かはハッキリと分からないが、アカマツの部屋ではないことは確かだ。おそらくハルトの部屋だろう。


ベッドから起き上がりここまで運んできたであろう部屋の主に一言礼を言わないとねぃ、と扉を開けようとした瞬間、戻ってきた部屋の主……ハルトとぶつかりかけた。


「おおっとキョーダイ、そんなに血相変えてどうしたんでぃ」

「センパイ!?大丈夫なんですか!?

 僕のやつ……気絶するほどだったんですよね!?」


妙な誤解と自責感がすれ違う。どこから話したらいいのやら。


「とりあえず落ち着いてくれいキョーダイ、味が合わなかったとかアレルギーってわけじゃないのよ〜」

「……本当ですか?」


確かに自分が作ったものを食べた相手が突然ぶっ倒れたりしたら勝負どころではない。正直悪いことをした。


「あの……タロセンパイに聞いたんですけど、カキツバタセンパイが僕のこと探してたって……」

「おー、それそれ!

 さっすがキョーダイ! 話が早くて助かるぜぃ」


怪訝そうな顔に切り替わったハルトが問い詰める。


「やっぱり、ルリリのことですか」

「せいかーい♡」


すんなりと本題に入れたことでつい笑みが溢れてしまう。

これでどうにもならにゃあ、オイラは本格的に諦めるしかない。


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パタンと扉を閉めたハルトは、残念そうな顔で話し始めた。


カキツバタの居たかつてのイッシュ地方を知っている人格が居ること。

ポケモンの影響で異世界へ行ってしまう人間は時々居ること。


「……ただ、確実に言えるのは

 ポケモンにしろ人間にしろ、戻る方法が無いってことですね」

「でもキョーダイのルリリは戻ったんじゃねーですかぃ?」

「それが、僕にも分からないんですよ」


まさかまさかである。基本的には一方通行。だとしたらあのルリリもなのか?と、頭を悩ませるカキツバタに、ハルトが疑問を投げかける。


「ねえ、センパイはどうして戻りたいんですか?」


キョーダイには答えられない理由であるカキツバタは、笑って誤魔化すことにした。


「出来る限りのことはしてみたかったのよー。ま、戻れねえと分かっちまったからにゃあ、腹括るっきゃねえな!」


嘘である。勿論それ程素早く切り替えられる出来事ではなかった。良く言えば根気強く、悪く言えばグダグダと待って得れた情報がこれだけなのだから。


「……僕は、怖いんです」

「? キョーダイ?」


軽くうつむいたハルトに、今度はカキツバタが不思議がる。


「僕は偶々タブララサ領域への影響が少なかったとはいえ、ある日突然世界や自分が変わっちゃうのは……怖い」


何かの専門用語だろうか。おそらくは脳の。

カキツバタはハルトの言葉に思い当たる節があった。


ハルトは時々何も話さなくなる。

声をかけても返事がない。


周りはチャンピオンだからなぁ、といった感じで、本人はバトルのことを考えると集中しすぎて周りの声が聞こえなくなっちゃう時があるんだ〜と笑っていたが、違う。違かった。


「……キョーダイは橋みてえだなぁ」

「は、橋……?」


無意識だった。自分でも何故こんな事を口走ったのか分からないが、思うままに言葉を連ねてみた。


「そ、世界を繋ぐ架け橋。

 誰かと誰かを繋ぐ大事な部分。だろぃ?」

「そうなの……かなあ?」


静かに一つの暖かな薫りを諦め、落ち込んだ顔を慰める。だからと言って何か解決するわけでも無いが。


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翌日、様々な噂の飛び交う中、噂の上塗りをするべくカキツバタは食堂にリーグ部四天王を集めて昼食を取っていた。


「カキツバタ先輩、昨日はびっくりしたよー!」

「いやーわりぃわりぃ。ツバっさん的には驚かすつもりはなかったんだがねぃ」


ただ単に喉に詰まらせた。それだけであると口裏を合わせて。幸い現場にそれほど人が居なかったので、ハルトとアカマツだけで話が済んだ。


「まったく。普段からちゃんと噛まないでいるから、急いだ時に詰まらせるんじゃないの?」

「同意。どんな食物であれ咀嚼を怠れば死に直結する。ハルトではなくカキツバタの問題」

「へえへえ。その通りでございやす」


相談はしたけど嫌われ役。これでいいのか?と、疑問に思いつつ箸を進める。

はっきりと気持ちの整理がついたわけではないが、ひとまずはこの日常を享受することにした。


── 一方で微々たる変化があったものの、カキツバタはまだ気がついていない。

主人公という強さの代償に抱える不安を理解出来る人間がどれほど貴重かを。


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