万花に惑いし凍てつき星

万花に惑いし凍てつき星



しんしんと雪が降り積もる。机の隙間に布団を嵌め込んだ、現代で言う所のコタツ。本来ならば平安時代にはまだ作られていないのだが、好奇心の塊である羂索が考案して時代を先取りした結果、それらしいものが一つだけできていた。

宿儺はそれに身を埋め、ぼんやりと屋敷の庭を眺めていた。いつもなら側にいる裏梅も今はいない。正月ということもあり、今日は休みをとらせていた。

別に、彼を鬱陶しく思ったわけでもなければ、宿儺が裏梅の忠誠心を蔑ろにしているわけではないし、彼を気遣ったわけでも無い。裏梅は宿儺の一部と言えるほど居て当たり前の存在だ。しかし、呪いの王・両面宿儺とて人の子である。一年365日の中で、たまには1人でいたい時もある。侮蔑も尊敬もなく、ただ己と環境しかない静寂の時間。普段は退屈だと断じる刻も久方ぶりであれば存外悪く無いモノだと思える。

「や。あけおめ宿儺」

その孤独の至福を邪魔しにきた愚か者に、宿儺はげんなりとした顔を浮かべた。

「なぜ正月にまで貴様の顔を見なければならんのだ」

「いやあ外は冷えるねえ。こんなに降るなんていつぶりだろう」

羂索は宿儺のイヤミを聞き流し、部屋に入るやいなや、すぐにコタツに入り込み暖を取り始める。

「おい。誰の断りを得て入ってきている」

「いいじゃないか。私もわざわざ住処から歩いてきたんだからさ。もう足が冷えて冷えて」

「そうか。ならここにくるという用も済んだだろう。さっさと帰れ」

「そんなケチ臭いこと言うなよ呪いの王。手土産もあるんだしさ」

羂索は草餅や干し柿、干物や酒などが入った麻袋を取り出した。

「どれも美味しかったからね。正月まわりついでのお裾分けさ」

「...そうか」

宿儺は麻袋に手を伸ばすが、しかし、羂索は宿儺が触れる直前にサッと袋を引き遠ざける。

「ただしこれを渡すにあたって条件がある。①私を追い出さないこと②私に構ってくれること。この土産を渡すのはどちらかかあるいは両方を飲むのと引き換えだ」

「...勝手にしろ。俺は相手はせんぞ」

「ありがとう」

これで心置きなく暖を取れるとホクホクとした表情を浮かべる羂索だが、ふとキョロキョロとあたりを見渡す。

「あれ?裏梅は?」

「奴には暇を与えてある」

「へえ。なんでまた?」

「たまには1人で静かな刻を過ごしたくなるものだ」

「あー、だから私が来た時に渋い顔したんだ。それは悪かったね」

「悪いと思うなら帰れ」

「ヤダよ。せっかく来たんだし。しかし、休みの日の裏梅かぁ。彼、年柄年中きみに奉仕してるようなものだし、いったい何して過ごすんだろうねえ」

⭐︎

宿儺様に暇を言い渡された。不思議ではあるが、その事には特に不満などないし、宿儺様とてたまには1人でいたい時もあるのだろう。とりあえず部屋の掃除や洗濯、食材・飲み水の確保などやれることはやってきた。なので特に心配などはない。ただ、ひどく時間を持て余している。部屋の整理も常に清潔に保っているし、自分の分で手の込んだ料理をすることもない。正月だからといって贅沢することもないし、両親の住む実家なんてものもない。自室で1人でなにをすればいいというのか...

暇を持て余した裏梅。その身体に刻まれた雄が、牙を剥き始める。

「っ...!?」

唐突だった。前触れもなかった。裏梅の雄がぐぐぐ、と頭を持ち上げ始める。勃起。やることのない裏梅の隙を突き、雄が精を放ちたいと暴れ始める。

「ぐ……なぜ、急にっ……」

裏梅は必死に下腹部に力を込め、快感を堪えようと堪える。しかし一度火のついた身体を止めることは容易ではなく、既に我慢汁があふれ始めていた。このままでは袴まで汚れてしまう。そう危惧する裏梅は慌てて袴を下ろし、その魔羅を露わにする。

裏梅は性欲が薄い。というのも、食事や鏖殺を愉しむ宿儺の姿を見ていれば、自然とそういった欲望が満たされていくからだ。だからこういった処理をすることも滅多に無い。ましてや、自分のモノに触れることなど、小用以外はほとんどなかった。

だが、今回ばかりはそうもいかないようだ。裏梅は右手で自身の魔羅をしっかりと握り、上下に擦り上げ始めた。普段このような自慰行為を行わない分、ぎこちない手つきだが、裏梅にそのようなことを気にする余裕などない。ただひたすら、早く終わらせることだけを考え続ける。

「ん……っ」

声を抑えつつも快感から鼻がかった声が溢れる。しかしまだ足りない。なにか刺激が足りない。


ーーーんちゅっ♡じゅるるる♡ちゅぱっ、んんっ♡


脳裏に過るのは、この前に穢された記憶。万(よろず)に捕らわれ、この肉棒をしゃぶり舐められたあの忌まわしき記憶。


「あっ……ん、はぁぁ」


裏梅はその記憶の情景をなぞるように魔羅を扱く。唾液が絡みつくいやらしい水音が脳内に響く。記憶を、思い出しながら裏梅は必死に魔羅を扱き上げる。しかし、それでもまだ足りない。もっと快感が欲しい。そう思った裏梅は、もう片方の手で胸に触れた。そして乳首をつまみ上げコリコリと刺激する。

「んんっ!あ……っ♡」

まるで女子のような矯声を堪えきれず漏らしながら、裏梅は自身を慰め続ける。乳首から快感が電流のように駆け巡り、身体の奥がキュンキュンと疼く。そして気付けば手の速度も早まっていく。裏梅の頭の中はもはや雄と雌が入り交じり、ぐちゃぐちゃになっていた。


「はぁっ……んんんっ!くっ……イクっ……!」


びゅるるるっ♡どぴゅっ、びゅるるっっ♡♡♡ 

裏梅の白濁液が床に飛び散った。


「はーっ、はーっ」

息を荒げ放心する裏梅。しかし、一度果てても裏梅の性欲は収まらず、身体の熱は上がる一方である。

「くそ……っ」

裏梅は袴を脱ぎ捨てる。そして我慢汁でぐちょぐちょになった褌をずらすと、いきり立った肉棒がぶるんと顔を出す。


裏梅はその巨根を再び扱き上げると、空いた手で乳首を刺激し始める。

「んあっ……はぁっ♡」


ーーーうふふ……かーわいい♡


再び裏梅の脳裏に万の声が過ぎる。あんな女に惚れているわけでもないのに。あの時、犯された快楽だけが離れてくれない。


「くそっ……くそぉっ!」


裏梅は激しく肉棒を扱き上げる。裏梅の腰がガクガクと震える。


ーーーいいわ、イっちゃいなさい♡


「ぐぅっ……あぁっ♡♡♡」


びゅくぅ♡びゅくっ♡どぴゅるるるっっ♡♡♡♡ 

裏梅の肉棒から先程より量の多い白濁液が噴き出した。


「......」


全てを出し終えた裏梅はぼんやりと天井を見上げて、しばらく放心すると、やがてあの女で抜いてしまった己を恥じるのだった。


⭐︎

「羂索。さっき言っていた『あけおめ』とはなんだ?」

「あれね、私が考えた略し方だよ。親しさと可愛らしさを兼ね添えた新しい新年の挨拶さ。きっと流行ると思うよ」

「俺が生きてる間は流行らせんぞ」

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