七五三概念

七五三概念



「やだぁーー!!」


ギャン泣きする娘。

今あたし達親子が居るのは着物のレンタルと写真撮影をやってくれる施設で、今日は娘の七五三に着ていく着物を借り、ついでに写真を撮ってもらう予定なのだが…。


「これ男の子用だから、娘ちゃんはあっちの綺麗なお着物にしようね?」

「やっ!!ママのおようふくとおなじがいい!!」


……娘が指差しているのは、黒字の布に立派な龍が刺繍された、男の子用の袴。

あたしが現役時代に着ていた勝負服に似ているからこっちを着たいと言って駄々を捏ねている。


「龍の刺繍が入った着物とかは…」

「すみません、当店では扱っておらず…」

「ですよね…」


大人用ならワンチャンあるだろうが、流石に七五三用でそんな厳つい着物は無いだろう。

次のお客さんも居るだろうし、今日は諦めて後日別の店に行った方がいいかな……。


「娘!この着物なんてどうだ?」

「?」


今まで会話に参加していなかった旦那が一着の着物を持って娘に見せる。

その着物は、黒をベースに白と赤の花の刺繍と、青とピンクの線の刺繍で彩られていた。

それを見た娘は、ピタリと泣き止んだ。


「ママの勝負服みたいで、カッコいいだろ?」

「……かっくいー!」

「じゃあコレを着てお写真撮ろうな?」

「うん!」


……すげぇ、断固として袴を着ると譲らなかった娘が、あっさり着物に乗り換えた。


「お待たせして申し訳ありません店員さん、この着物と…あと大きな赤い髪飾りがあれば、それを使わせて頂きたいのですが…」

「はい!髪飾りでしたら何種類かあるので、今持って来ますね!」

「ありがとうございます!」


店員さんはニコニコ笑って店の奥の方に行った。


「………」

「?どうしたエース」

「いや…やっぱアンタすげぇなって…あたし宥めてるだけで手一杯で、何も出来なかった…」

「そんな事ない、君が娘を見ていてくれたお陰であの着物を見つけられたんだから、助かったよ」


そう言って旦那はあたしの頭を撫でる。

もう、子供じゃないってのに。


(けどまぁ…嬉しいからいいんだけど)

「パパー!ママー!おかざりコレがいいー!」


トテトテとこちらに駆け寄って来て、娘がいつの間にか選んできた髪飾りを見せて来た。

真っ赤で大きな椿の周りに小さな赤い花が付いていて、その下に房が一つ垂れ下がっている。


「おお!ママが付けていた髪飾りとそっくりだな!着物にもピッタリだ!」

「えへへーママー!ママみたいにかっくいくなるー?」

「……ああ!もちろん!」


はにかむ娘を抱き上げて、旦那と一緒に店員さんが準備してくれている更衣室に向かった。


その後、化粧を施され、綺麗に着飾った娘をプロのカメラマンさんが写真に撮ってくれている後ろで、あたし達夫婦はストレージが一杯になるまでスマホで娘を撮りまくった。


終わり

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