七つまでは
四畳半の小さな部屋に、荒い息が響いていた。布団に寝かせられているのは、後少しで七歳を迎える予定の、平子の娘だ。数日前に高熱を出して倒れた娘は、未だ回復の素振りを見せていない。
「ななつまでは神の子、かァ」
危険極まりない出産を終えた直後に、浦原から何年生きられるかもわからないとは警告されていた。しかし、すくすくと育っていく娘を見て、その可能性を頭の隅に追いやってしまっていたことに、平子は何度目かもわからない苦笑を浮かべた。
ぬるくなった手拭いを交換しようと、そっと自分の娘に触れる。すると、平子の気配に反応したのか、眠っていた娘がゆるりと目を開けた。
「おかーさん」
「起きたんか。どないした?」
「こわい、こわいよ」
「せやなあ。ほら、おいで」
腕を伸ばして助けを求める娘を抱き上げると、子供は縋り付くようにして泣き出した。倒れて以来幼児退行を起こした娘は、こうして起きているときはずっと泣いているか怯えているかのどちらかだ。腕の中に閉じ込めるようにして抱きしめると、娘の嗚咽が体を通して響いてくる。
「や、ねるのや」
「大丈夫、オカンおるやろ」
「たすけて」
娘に悟られないように、ぐっと歯を食いしばる。内なる虚との戦いは、自分自身によってしか行えない。たとえ腹を痛めた実の母親であろうと、介入する手段はない。娘が勝つか負けるか、無責任に声をかけて見届けることしかできない。
体力を消耗しきってしまえば、娘の命も尽きるだろう。どうかそんな未来が訪れないようにと、平子は娘を抱きしめる腕に力を込めた。