一輪咲いても花は花。
「パパ♡あ、んッ♡♡♡そこぉ♡もっと♡お゛っ♡お、ぐッ♡はいって?♡」
「パパ、ぱぁぱ?♡ちゅうして?」
「だッ、ぁ♡くる、来ちゃう♡パパ、ギュッてしてほしっ♡」
……この子、ロレンツォは情事の時だけは『パパ』と呼んでくる。
拾ってきた時は正直、内心期待をしていて一応養父としてそれらしい行動をしようと思っていたけども、彼自身は『父と子』という関係よりも『仕事相手』という関係の方が安心するみたいで。父親として接したら複雑そうな微妙な顔をしてきて。だから泣く泣くその気持ちを胸の奥にしまった。
「スナッフィー!」って毎日犬みたいにくっついてくるのはそれはそれで可愛らしいしね。
***
何故こんなにも爛れたインモラルな関係になってしまったのかを、すぅすぅと気絶して寝てしまったロレンツォの頭を撫でながら記憶をかき分け思い起こす。
思い起こせば、今思えばあの日のロレンツォは変だった。
どこが変かと言われると返答に困るが。
例えば、いつもは帰ってきた時に言ってくれる「ただいま」を言わなかったこと。
例えば、いつもは食べ残したりせずむしろおかわりを要求する夕食を残したこと。
例えば、いつもは一番風呂に入るのに先に入ってって俺を風呂場に押し込んだこと。
例えば、……その晩俺の布団に入ってきていきなり咥えてきたこと。
ロレンツォはたまに、極々たまに。
夜中のうちに俺の布団に入ってきて、朝日が昇る前に出ていくことがあった。
きっと当人的にはバレていないと思っているのだろうけど。
彼の心の、陰のあるやわいところを。
むやみやたらに突いてはいけないと大人として思ったから知らないふりをした。見てみぬふりをした。逃げた。
その日の夜もそうだった。
またか、って思いながら狸寝入りをしてたらいきなりロレンツォにスウェットを降ろされ咥えられて、びっくりして飛びあがろうとする時に、やっと両手がロレンツォの手と恋人繋ぎしていることに気づいて。
「な、なにを?」と強い口調で問おうとしても呂律の回らない口で聞いたら「スナッフィーはきもちよくだけなってればいーの♡」なんて回答にすらなってない返答が返ってきて。
動こうとしても動かなくてやっと薬を盛られたと理解できた。そしてロレンツォの口のやたらと上手くて、なんなら豊富な方である己の女経験と照らし合わせてもなかなか類を見ないテクで2回ほど出さされた。
でも、自由の聞かない体は気だるさは積もるのにご都合的なことに股間だけは痛いくらいにビンビンに勃ってしまってて。
ロレンツォはようやく口を離して、そして艶かしく口内の白を見せつけてから飲み込んで。
そうして俺の上に跨った。
「やめてくれロレンツォ」
「ん〜?男は守備範囲外?」
「俺とお前はそういう関係じゃ………」
「だぁー、じゃあ俺らってスナッフィーの中ではどういう関係なの?別に俺はなんでもいいんだぜ?父子でも、飼い主と犬でも、仕事の同僚でも、使い勝手のいい駒でも、あぁそう、都合のいい性欲処理の相手でももちろんOK」
「…ろ、ロレ」
「でもそんな関係を積み重ねても、俺はスナッフィーの新しい親友にはなれないし、その大切な親友の代わりにもなれない。事実俺を拾ったのはその親友の言葉に感化されたからだろ?」
「……」
「だから、んっ♡挿入っちまったな〜?♡
俺、俺ぁな?卑しくて欲しがりだからさ。
スナッフィーのトクベツになりたいの。 スナッフィーの1番じゃなくていいから。都合のいい肉便器でもなんでもいいから。トクベツにしてほしい」
SEX中にそう言ってくる迷い子のような目を見てどうしようもなく抱きしめたくなった。
というか“トクベツ”って言ったって。
もうすでに君は俺の宝物なのに。
期待を寄せている息子で、可愛い可愛い賢いワンちゃんで、優秀な仕事相手で、君がいることで戦術の幅が広がる一手になる。
でもそれじゃそれだけじゃ独りよがりだったようで。足りなかったみたいで。
この欲しがりで寂しがりで人を信じられないクソガキには1ミリも大切にしている事が伝わらないかったようで。
じゃあ君の思うことをしよう。
君の理想の最悪な大人になろう。
犯罪?そうだな。倫理観?そうだな。
でも俺はこのどうしようもなくバカな子を捨てられないんだ。
「じゃあ恋人同士になろう、ロレンツォ」
「…は?」
「確かに俺は遊び人だったけど、恋人は一度も作ったことないんだぞ?」
「じゃあなんで」
「君が特別だから」
「トクベツ…」
そう言うと花が開いたように笑ってきて。
あぁ、エフェボフィリアと言われても。この子の笑顔を見れるならどんな歪な関係にでもなろう。この子の心を守れるのなら喜んでムショにぶち込まれてもいい。
そしてようやく薬の抜けてきて自由の効くようになった体を起こして騎乗位のポーズをしていたロレンツォをあっさりとベッドに反転させて。
「恋人同士のSEX、だからな?」
と罪の苦くて甘美な味を噛み締めながら言うとナカがキュンキュンと締め付けてきて、この子は俺の事そういう意味で好きだったのか?と遅れてわかってきて。
可哀想に愛しいロレンツォ。
君の養父が、君の想い人がこんなどうしようもない大人で可哀想に。
***
にしても本当になぜパパなのだろうか。
君からその関係を捨てたのに。というか君と父子ごっこをしていた時さえもこんな事言ってこなかったのに。と思ってピロートークに聞いた事がある。
SEXしてる時だけは俺とスナッフィーは恋人だろ?だから、甘えたくて………とほんのり頬を染めた顔で言われても正直キた。
でもそれよりも、そんな事なんかよりも。こんな時くらいにしか甘えられない不器用で憐れで可愛いクソガキに胸を締め付けられてしまって、あぁ、確かあの時もそう。こうやって抱きしめてやったんだっけ。
ロレンツォ、どんな関係でも君は俺の大切な宝物なんだよ。どんな形でも大好きなんだよ。それこそ、こんな歪な関係も承諾してしまうくらいには。
俺が君の特別じゃなくなってしまっても、君はずっと俺の特別で可愛くて愛しい大切なロレンツォなんだよ。
そうして懺悔と後悔を重ねて。
今日もまた、罪を犯したベッドシーツの上で2人抱きしめあって目を閉じた。