一緒に歩きませんか
スレ主ハッサクさんが悪い男というか割とクズ。
18で結婚できる世界です。
里を出る→音楽でやっていこうとするが挫折→トレーナー→四天王就任→教師就任、という捏造を重ねています。
ケガ描写あり。
チリちゃんの方言がよく分かってない。
最初は打算だった。
いい加減里に帰れと催促されるのが面倒で、家庭でも持ってしまえばこちらに骨を埋める覚悟を多少でも分かってもらえるのではないかと。
バトルをきっかけにちょうど良く懐いた子どももいたし、そこに漬け込んで恋愛関係に持ち込んだのは人に言えば嫌悪されることは分かっている。だから表向きはお互い惹かれあっての事だとしているが、察している人はいくらかいるようだ。
親のいない、愛を知らない彼女にとって優しくする大人というのは珍しかったようで、初めは警戒心もあったようだがいつの間にか小生がいなければ生きていけないほどに依存されていた。
歳の差とわずかな罪悪感から今に至るまで手を出していない事だけは褒めて欲しい。
出会った時から手持ちだったホシガリス--現在はヨクバリスには見抜かれているのか、長年同棲していても小生の言うことを聞くのは彼女の役に立つことだけだ。
一緒にゲットしにいってバトルをして進化したはずのイッカネズミも似たようなもの。ファミリーポケモンというだけあって家族らしくないトレーナーたちをよく思っていないのだろう。
唯一パフュートンだけは懐いてくれているが、おそらく食べ物をくれる人間だからという単純な理由だろう。
結婚をするつもりはなかった。
帰ってこない息子を諦めて親戚かどこかから後継を決めたころには用済みだから理由をつけて別れるつもりだった。しかし諦めの悪い里の者たちがいつまでもやってくるのでその機会はどんどん先送りされた。
そんなある日、帰宅したら彼女が記入済みの婚姻届を用意して待っていた。
「私ももう十八だから結婚できます。結婚してくれなきゃ死にます。でも自分で選んで死ぬのでハッサクさんが警察の御用になる事はないようにします」
利用しているのはこちらだが死なれるのは寝覚めが悪い。
一瞬だけ愛する女性を失って彼女が忘れられないから二度と恋愛をしないと誓ったフリが出来るのは良いなと思ったが理性が打ち勝ち、何とか言葉を搾り出す。
「……隣に立つのは強い方がいいのですよ。小生に勝てないどころかバッジを一つも持っていないあなたに務まりませ」
「バッジがあればいいんですか?」
被せるように言葉を発した彼女に狼狽えつつ頷く。考え込むそぶりを見せた後、何も言わずに席を立って部屋に入って行った。婚姻届は机に置かれたまま。
その翌日から暇さえあれば手持ちたちとバトルに明け暮れ、あれだけ小生と離れるのを嫌がっていたのに一人で出かけることも増えた。無茶な条件を出した事で愛想を尽かされ出て行く準備かと思っていたが、一年もしない内にリーグに現れたことには驚いた。
そこらのココガラにさえ負けるような素人だったのにまさか四天王として対峙する事になるのかと慄いたがあっさりチリの面接で落とされていた。ブチギレた様子のチリから面接の様子を録画したものを見せられて納得したが。
「バトルの腕はあると思うけどなんやいけすかんわ。勝って結婚するってなんやねん、花嫁修行の一環みたいに受けに来るなや! というかハッサクさんも手綱握ったってくださいよ!!」
「大変申し訳ないのですよ……」
いつものように料理を用意して待っていた彼女に今日の話をされると思ったが何もなく、結婚の話は落ち着いて考えた上で無かった事にされたのだろう。
そう思ってこちらから切り出す事もなく放置していたのがいけなかった。
アカデミー教師として迎えられ、様々な書類を用意する内に戸籍謄本が必要になった。役所で用意して貰えば見覚えのない欄が存在していた。
「……妻?」
日付を確認すればあの面接事件から数日後に出されたようだった。あの結果では足りない、結婚しないとも伝えていなかったのがまずかった。
帰宅して問い詰めればあっさりと筆跡を偽装して提出したことを認めた。
「強くなったからいいかなって思ったんです。訴えてもいいですよ、勝手に婚姻届出されたんだって。でも取り消されたって私はハッサクさんから離れない。視界に入れたくないなら幽霊になって取り憑いたっていい。書類上だけで繋がっててくれたらいいですから、浮気してきてもいいですよ。でも周囲の目もありますからそこだけ気をつけてもらえれば」
愛なんて綺麗なものじゃない。執着、依存、ドロドロとしたもの。ぞくりと背筋が震えた。小生が彼女を愛する気持ちは多少ばかり増えたかもしれないが、世間一般の夫婦に比べれば冷め切ったもの。
結局ずるずると婚姻関係を継続している。
結婚が発覚してから仕事が終わってから夜の散歩をしたり、休日にマリナードタウンで海産物を仕入れたりといわゆるデートのような事をするようになった。
書類を提出したので結婚していたことはバレてしまったし、年齢差もあって痛い腹を探られるのも困るのでカモフラージュも兼ねて。
ポピーには懐かれているようでたまに出会うと薄くだが笑みを浮かべるのだから嫌ではないのだろう。アオキも好意的だがあれは同じノーマルタイプを使う者としての親近感だろうか。対してチリとは面接のせいでお互いに良い印象がないようで避けあっている。
可愛らしい奥さんですね!と言われれば自慢の妻だと返すことぐらい社交辞令の一環でさらりと口から出てくるが、飲みの席で惚気るようなことはできそうにない。
どうせ自分が先に死ぬのだし口先だけの愛を伝えたってしょうがないだろう。
出ていきたい、別れたい、そう彼女が言えばいつでも手放す気でいた。慰謝料でも何でも望まれるものを渡すつもりであったし、ポケモンを渡せと言われない限り家でもなんでも渡してもいい。
でも。
「なんで小生を庇ったんですか……?」
野生ポケモンの縄張り争いなんて珍しくもない。基本は大人しくても混乱したポケモンが近くにいた人に対して技を放つ事だってよくある事だ。
暖かい日差しに少しばかり気を抜いていたから飛んできた技に気づけなかった。
どん、と突き飛ばされて膝を付き、何をするんだと言おうとしたが言葉が出なかった。技の衝撃で飛ばされたのか木に体を打ち付け力無く倒れている彼女の姿が目に入ったから。
技を飛ばしてきたポケモンの方はとっくにイッカネズミのネズミざんで地に伏せていた。多少どころでもなくオーバーキルだと思う。
どうしようもなく固まっていた小生を叩き起こしたのはヨクバリスで、頭から血を流して変な方向に曲がった四肢を晒す彼女を壊さないように必死で病院に運んだ。
一命は取り留めたが目を覚まさず、テーブルシティの病院に転院させた。目を覚ました時にすぐ駆けつけられるようにと手を回してくれたトップやクラベル校長に申し訳なく思いつつ毎日病院に通う。
誰も迎えてくれないがらんとした我が家に帰るたびに寂しさを感じた。いなくなっても気にならない存在だったはずなのに、おかしい。
「今日はいい天気です」
「少しだけ料理を練習しています」
「あなたにピアノを聞かせたことはあったでしょうか」
「掃除って大変なのですね……」
聞かせるような内容はないがなんとなく黙っているのも虚しいので返事のない会話を続けていた。
そういえばいつの間にか結婚していたし指輪を送っていないな。なんて思いつつ左手を触った時、ぴくりと動く感触がした。
「ん……」
まつ毛が震え、ゆっくりと目が開く。二ヶ月超ぶりにその瞳を見た。何か声をかけなければ、そう思うがはくはくと口が動くだけ。
「……やっと目が覚めましたか」
何とか絞り出した言葉は自分でも驚くほど冷たかった。
一瞬見開いた彼女の目からじわじわと涙が滲む。失敗した、と思った時にはいつもの静かな涙とは違って子どものような泣き声だった。
「っひぐ、なんで、わたしだってあいされたいのに……! もうやだ、はっさくさんきらい、すきになってくれないならもっとつきはなしてよ、なんできたいさせるの、うぁあん……!」
ずきん、と心が痛む。ずっとずっと彼女は好きでいてくれた。自分は何を返しただろうか。夫として金銭面では不自由させたことは無いつもりだが、愛情という意味では飢え死にするくらいには与えた記憶がない。なんて馬鹿だったんだろう。
愛すると言うことはよくわからない。今からでも間に合うだろうか。
「うぼぉ……! 小生、なんてダメな男だったんでしょう……! うぼぉおおい……!」
彼女を思って泣いたのなんて初めてだ。どうしようもなく涙が止まらなくて、先に泣き出した彼女の方が泣き止んで、偶然近くに訪れていたチリが駆け込んでくるまで泣いた。
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あー、チリちゃん彼女さんのこと嫌いやってん。結婚したのも同意ってわけじゃないって聞いたし、大将の方が振り回されるくらい執着されてて可哀想やーってな。面接でだいぶ大人気ない態度取ったし向こうさんからも嫌われてると思うし。
入院してるのに見舞い行くのは義務的なんやろなと思ってたんや。でも大泣きしてる大将見てちょっとだけ気持ち変わったわ。
あんたら二人とも不器用すぎるんよ。
あんまし良くない関係性から始まったんかもしれんけどそれだけで十五年やっけ、そんな長い事一緒になんておられへん。
そろそろ素直にならな。
結婚指輪とかないん? 無いんか……今更かもしれんけど退院したら選びに行くのどないやろ。別に指輪じゃなくてもええけど形あるもの渡したってバチ当たらんと思うで。
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退院したとはいえ今まで通りに家事や仕事をするのはまだ難しい。申し訳なさそうな顔をするのを押し留めて料理をする。
彼女に比べればへたくそもいいところの料理を美味しそうに食べてくれる姿が可愛らしかった。
「美味しいです」
「それはよかったです。サワロ先生に教えてもらった甲斐がありましたですよ」
彼女との関係性をよく思っていなかったらしい先生方も何故か最近気にかけてくれるようになった。不思議に思い話を聞いたら病院で大泣きした話をチリがトップに伝え、トップからクラベル校長、クラベル校長から教師陣へと伝わったそうだ。ついでにかジムリーダーの面々にも話が通ったらしく頭を抱えつつ感謝している。
そろそろ出かけることもできるだろうか。
「明日、買い物に行きませんか」
「食材ですか?」
「いえ、とても遅くなりましたが結婚指輪を」
買い物といえばその辺りで、季節の変わり目に服を多少買いに行く程度。おそらく考えにも及んでいなかっただろう。目を白黒させて、スプーンを取り落とす程度に驚いている。
「私でいいんですか」
「ええ、愛させてください」
「もう離してあげられません」
「離す気はないのでしょう?」
「重い女ですよ」
「十分知っていますよ」
「愛なんか知らないくせに」
「あなたこそ。でも小生は少しだけ知りましたよ」
「本当に、いいんですか」
「何度でも言いますよ」
頬に触れて、目を合わせる。
そういえば初めてだな、なんて思いながらキスをした。
【ダイス彼女】あなたはハッサクさんの彼女です
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