一番想うあなたへ…

一番想うあなたへ…

モテパニ作者

芙羽ここねは黄昏ていた。

年頃の女子が悩む理由はいろいろあるが、今の悩みは特にらしいと言える物。

恋だ。

そしてそのお相手は…

ここね「ブラックペッパーさん…」

プリキュアとして戦う自分達の前に現れた謎の青年、まるで物語から出てきた騎士のような男の人だった。

気になり始めたのはちょっとした事、ブラックペッパーと出会ってすぐ。

〜〜〜

ゆい『ブラペのブラックペッパーって本名なのかな?』

らん『はにゃあ〜、あんなに真っ白なのにブラックなんて名乗ってるんだからそう考えた方がいいよね』

ここね『でも、偽名ならどんな理由あるのかな…?』

ゆい『うーん、あ!そういえばブラックペッパーとか胡椒ってスパイスの王様って言われてるよね。それにかけて王子様っぽく振る舞ってるのかも?』

らん『スパイスの王様かー、ならスパイシーなここぴーはお姫様?』

ここね『えっ!?』

ゆい『ここねちゃんがお姫様かー、綺麗なここねちゃんにはぴったりだね』

ここね『そ、そうかな///』

〜〜〜

きっかけはその程度、それから彼を意識し始めた。

パムパム「ここね、なにか悩み事パム?」

ここね「パムパム、…ねえパムパムは好きな人っている?」

パムパム「ここねパム。パムパムはここねが一番好きパム」

ここね「…ありがと、私も大好き」

パムパム「パム!…そういう質問をしてくるということは、ここねには好きな人ができたパム?」

ここね「…うん」

パムパム「そっかぁ、その人は幸せ者パム。ここねみたいな素敵な女の子に好かれるなんて。でももしふさわしい相手じゃなかったらパムパムが鍛え直してやるパム」

ここね「ふふっ、そうなったらお願いね」

パムパム「パム!パムパムは何があってもここねの一番の味方パム」

今はまだ一番身近な相手だけに話す秘密。いずれブンドル団との戦いに一区切りついたならその時はと、ぼんやりと考えていただけだった。

それから時は流れ、ブンドル団と戦いは続きそれに集中しながらもブラックペッパーにも少し意識を向けていた。

そして気づく、ブラックペッパーの視線の先にいる人物に。

彼はいつもキュアプレシャス、ゆいばかり見ていた。

しかしここねは知っている。

ゆいには幼馴染の彼がいる事を。

品田拓海、まだゆいと交際に至っていないが間違いなく最も近しい異性。

彼の事を語るゆいはとても楽しそうだし、彼もゆいを好ましく想っているように見える。

だからブラックペッパーの想いが叶う事は……

ここね「……私、最低だ」

考えているうちに気づく。

自分の想いが叶えるために想い人の想いが叶わない事を望んでいるなど。

だから、これはきっと罰だ…

クリスマスが近づいたある日の事、ブラックペッパーが突如正体を表した。

そしてそれはここねが望んでいなかった正体。

ヤムヤム『はわー!』

スパイシー『拓海先輩…!』

フィナーレ『品田がブラペだったのか!?』

皆一様に驚き、特にゆいはその場で泣き始め、その場は拓海にゆいを送らせて解散となった。

そして自分の部屋に帰ったここねは真っ先にベッドへ飛び込み、そして遅れて涙が出始めた。

パムパム「ここね…」

ここね「…なに?パムパム」

パムパム「ここねが好きだったのはブラペだったパム?」

ここね「…うん」

パムパム「ここねは、ブラペの正体を知って気持ちも消えちゃったパム?」

ここね「………ううん」

正体を知ってから改めて拓海という人物を思い返す。

正直に言えば彼と特別なにかした覚えは無かった。彼にとって特別な相手がゆいだとわかっていたし、ゆいにとっても特別な相手なのが察せたから…

しかしだからこそわずかな思い出に色がつき始める。

キャンプでふざけて着火剤を渡し合って彼から着火剤を渡された時少しだけ触れ合った手、自分が苦手なピーマンを克服するために調理を頑張ってくれたこと。

それらがとても特別に思えてきてしまう。

現金な話だ、当時他の相手を想っていた時意識しなかったのに本人だと知ればこうやって目を向けるのだから。

パムパム「…だったら!ここねが先に告白しちゃえばいいパム!あの二人はまだ付き合ってないんだからここねにだってその権利はあるパム!ここねだったら拓海だってきっと…」

ここね「パムパム、私を思って言ってくれてるのはわかるけどそれは無理だよ…」

パムパム「どうしてパム!?」

ここね「だって私、ゆいの事も好き。初めてで一番のお友達…そんなゆいの大切な関係に踏み込めない…」

パムパム「……(ここねは本当に優しくて素敵な子パム。でもだからこそ気持ちを諦めなきゃいけないなんて間違ってるパム。パムパムは諦めないパム、だってパムパムはここねの一番の味方なんだから)」

そう決意するもパムパムが取れる行動は少ない、いや無いと言ってもいい。

ここね自身がゆいと拓海の関係を壊す事を望んでいない以上その方向に動くわけにはいかない。

パムパム「(いっそここねとゆい二人同時にくっつくようにするパム?いやそんな誘いに乗るような男ここねにふさわしく無いパム)」

なによりパムパム自身の理想も高かった。

ここねの想いを完璧に叶えるなら拓海がどうしても二人いなければならない。

それから時間は流れ、ブンドル団との戦いも終わりパムパムもクッキングダムに帰らなければいけなくなり、諦めの気持ちが出始めたその時。

ある事件が起こる。

怪盗ジェントルーが再び現れた事件だ。

最初は事態収束に集中していたが、落ち着き今回の原因を知るうちにパムパムの中で点と点がつながっていく。

パムパム「(これパム!)」

ジェントルー事件解決から少し時間を置き、パムパムは動き始める。

〜〜〜

ローズマリー「パムパムの様子がおかしいですって?」

メンメン「そうだメン。僕たちに内緒でなにか調べるみたいメン」

コメコメ「このあいだもブンドル団の三人になにか聞きに行ってたコメ」

ローズマリー「三人っていうとセクレトルー、ナルシストルー、それからジェントルーかしら?」

コメコメ「そうコメ。なに聞いてたかまではわかんないコメ」

ローズマリー「そう、パムパムに限って変なことしてるとは思わないけどそれなら少し探ってみようかしら」

マリちゃんはそれからブンドル団のメンバー達に事情を聞いていく。

セクレトルー「パンのエナジー妖精となにを話していたかですか?わたくしどもが作ったスペシャルデリシャストーンについて少々。とはいえあれの作成はゴー、こほんフェンネル氏主導でわたくしはあくまでサポートでしたので深い内情までは話せておりませんが」

ナルシストルー「パン妖精との話だと?プリキュアとの戦闘データなどについてだな。この前のジェントルーの件でサルベージしたデータは全てクッキングダムに提出したから調べるならそちらを調べろと言ってやったさ」

じえ

ジェントルー「パムパムとの話トル?べつにおかしな話はしてないトル。普段の日常生活どうしてるとかたわいもない話トル」

ローズマリー「(いったいなにを知ろうとしているの?パムパム)」

マリちゃんは一通り話を聞くも要領を得ずパムパムへ直接話を聞きにいく。

パムパムは最近書庫にいる事が多くそこに向かうと案の定そこにいた。

パムパム「マリちゃん?ここになにか用事パム?」

ローズマリー「いえ、ここじゃないわ。最近パムパムがなにか調べてるみたいだからそれを知りたかったのよ、もし話せるなら話してみて、協力できるかもしれないわ」

そう、マリちゃんもコメコメもメンメンも何かを疑っているわけではない。

単に友達が悩んでいるならそれを解決してあげたいと思っているだけだ。

相談してくれないからそれとなく探ろうとはしたが。

パムパム「パム、確かにそろそろ話してもいい頃合いかもしれないパム。マリちゃん実は協力してほしい事があるパム」

ローズマリー「なにかしら?」

パムパム「実は、パムパムスペシャルデリシャストーンを制御できるようになりたいパム!」

ローズマリー「ええっ!なんで急に!?」

パムパム「急じゃないパム。このあいだのジェントルーの一件があった以上今後だってなにか起こるに決まってるパム。なのにクッキングダムに調整できる人間が一人もいないのは問題パム」

ローズマリー「それは…」

そう、ブンドル団によって作られたスペシャルデリシャストーンは出力は素晴らしいが安定性が欠けている。

だからこそきっかけ一つで暴走するし、力を大きく使うと消滅に至ってしまう。

その繊細な調整ができるのは天才たるシナモンとその血を継ぎデリシャストーンを実践で振い続けた拓海だけでその二人はあちらの世界にいる。

ジェントルーの事も考えるといずれ解決しなければならない問題だった。

ローズマリー「わかったわ。クッキングダムを思うパムパムのその気持ちとっても嬉しい。私にできる事ならなんでも協力しちゃうわよ」

パムパム「ありがとうパム、マリちゃん」

笑顔でお礼を言うパムパムだったが、その裏では…

パムパム「(ごめんパム。マリちゃん)」

〜〜〜

パムパムが申し出たのはクッキングダムに保管されている二つのブンドル団製スペシャルデリシャストーンで実際にその力を試したいというものだった。

本来ならまず許可が出ないが近衛隊長であるマリちゃんの説得とプリキュアと協力した実績によって許可が降りる。

コメコメ「パムパム頑張るコメー」

メンメン「パムパムならきっと大丈夫メン」

仲間達も応援してくれている。

きっとこれからする事は信じてくれた三人への裏切りだろう。

それでもパムパムはやると決めた。ここねのために。

パムパム「パムー!!!」

エナジー妖精の力を解放しそれをスペシャルデリシャストーンに注ぐ。

約束通りならここから抑えにいくのだが…

ローズマリー「(すごい力、でもパムパムなら抑えられるわ)パムパム今よ!抑えて!」

パムパム「…マリちゃん」

ローズマリー「パムパム…?」

パムパム「コメコメ、メンメン」

コメコメ「コメ?」

メンメン「メン?」

パムパム「………さよなら」

その言葉をきっかけにスペシャルデリシャストーンはさらに眩い光を放ち皆目を瞑る。

そして次に目を開けそこにいたのは…

〜〜〜

ここねはその日部屋に篭っていた。

あれから時間は経ち未だ交際までいっていないもののゆいと拓海は進展していた。

マリちゃんがいなくなった後みんなの集まりに拓海が呼ばれる事も増えていった。

それはいい、ここねも拓海といると楽しい。

でも、こうして一人になるとどうしても寂しくなってしまう。

ここね「(もう諦めたはずなのに)」

なのにいつまでも引きずっている。

優しさに触れた時、横顔を見た時。

何度も気持ちが再燃しようと燻り始める。

今はパムパムも横にはいない。

部屋にいる間まるで誰もかもいなくなってしまったように思えてきてしまう。

そんな静寂をハートキュアウォッチの音が破る。

ここね「!、もしもし?」

ローズマリー『ここね!よかった繋がったわ。大変な事が起きてしまったのよ!今からそっちに…』

???「ここね」

声がして誰かがいるのに気がつく。

警戒して顔を上げるとそこにいたのは。

ここね「ブラックペッパー…?」

ブラックペッパー「ああ。ここね、君に会いにきた」

なにが起きているのか分からなかった。

だが少し冷静さを取り戻し尋ねる。

ここね「拓海先輩なんでここに!?来るなんて聞いてないし、そもそもここは私の部屋…」

ブラックペッパー「私は品田拓海ではない」

ここね「え…?」

ローズマリー『ここね!聞こえてる!?』

ここね「あっ…」

余りの衝撃にマリちゃんからの通信を忘れていた。

ローズマリー『…ブラペはそこにいるのね、いいわ。みんなを集めてちょうだい。みんなにも言わなきゃいけない』

〜〜〜

拓海「なんでブラックペッパーがいるんだよ!?」

一番驚きを見せたのはやはりブラペの正体である拓海本人。

当然だろう、目の前に自分がいるのだ。

らん「はにゃ〜!なにこれドッペルゲンガー?」

あまね「ドッペルゲンガーならブラペの姿なのが疑問だがな。しかしこのあいだの自分の事を思い出すな、あれが無ければ少し怯えていたかもしれん」

ゆい「マリちゃん、コメコメ達は?」

ローズマリー「クッキングダムよ。今コメコメ達はこの件に参加させられるような状態ではなかったから…」

ここね「マリちゃん、みんな集まったからなにがあったのか教えて」

ローズマリー「…そうね。結論から言うわ、このブラペを生み出したのはパムパムよ」

ここね「!?」

ゆい「パムパムが!?なんで!?」

ローズマリー「それは…私もまだ知らないわ。ブラペ、あんたなら知ってるんじゃないの?」

ブラックペッパー「それは…」

ここね「待って!」

ゆい「ここねちゃん…?」

ここね「私が…説明する」

あまね「ここねが?クッキングダムで起こった事だろう?何故ここねが知っているんだ」

ここね「この事に関しては知らない。けどパムパムがなんでこんな事をしたのか心当たりはある。間違ってないと思うから聞いて」

そう言われて皆ここねの方に向き直る。

ここね「私、実はブラックペッパーを好きだったの」

拓海「はぁっ!?」

その言葉にブラペの正体である拓海が驚く。

ブラックペッパー「うるさいぞ品田拓海。ここねが喋っている、黙って聞いていろ」

拓海「いや、くっ、悪い」

ブラックペッパー「ここね続けてくれ」

ここね「うん…それでブンドル団との戦いがあるから後回しにしてた」

あまね「そして正体が品田だとわかって気持ちを伝えられなくなったわけだな」

らん「それってどういう…あ!」

周りの面々もなんとなく察する。

ゆいと拓海の関係を知っているからだ。

ここね「うん、パムパムはそれを知ってた。だから私のためにブラックペッパーを生み出したんだと思う」

あまね「なるほど。つまりマリちゃんそこにいるのはジェントルーと同じような存在だな?」

ローズマリー「半分、正解よ」

あまね「半分…?」

ローズマリー「ええ、まずジェントルーがどういう存在か覚えてる?彼女は誰かが意図して作り上げた存在ではなく、ナルシストルーが偶発的に生み出してしまった幻のような存在。本来ならあそこまで安定するようなものではなかったのよ。運が良かったんでしょうね、あの日はおいしーなタウンで感謝祭が開かれていたからいつもより多くのほかほかハートが溢れていたんですもの。このブラペは始発点は同じ、けれど着地点は違う存在の安定化も必要無いより完璧な擬似生命よ」

あまね「スペシャルデリシャストーンはそのような者まで創り出せるのか!?」

ローズマリー「いいえ無理ね。例え私とシナモンが持ってる師匠の作ったスペシャルデリシャストーンを使ったとしてもほぼ間違いなく失敗する。命とはそれだけ奇跡の産物よ」

らん「じゃあこのブラペは?」

ローズマリー「………パムパムは持っていたのよ。無から命を作り出せる物を」

ここね「……!」

マリちゃんの言葉にここねはそれに気づいてしまった。

そして先程までの困ったような表情は崩れ驚愕の表情に変わっていた。

ゆいはそんなここねを見てある事に気づく。

聞いていいのか悩むが、聞いても聞かなくても同じだ。

ならば聞かなければならない。

ゆい「…ねえマリちゃん。なんでコメコメ達は今話せるような状態じゃないのか聞いてもいいかな」

拓海「…!それって」

あまね「…そういうことなのか…?」

らん「え?え?どういうこと?」

ゆいの質問で拓海達も真相に気づき始める。

らんだけは遅れているようだが。

ローズマリー「…コメコメとメンメンは寝込んでるの。無理もないわ、友達を、失ったんですもの」

らん「…あっ!」

そう言われて事態を把握出来たらん。つまりは…

ローズマリー「ほかほかハートによって無から生まれたエナジー妖精のほかほかハート。スペシャルデリシャストーンほどの核があれば擬似生命の材料にするには充分だわ」

それを聞きここねは崩れ落ちる。

そんなここねを受け止めたのはブラペだった。

ブラックペッパー「ここね」

ここね「ブラックペッパー…」

ブラックペッパー「聞いての通りだ。私はある意味パムパムから生まれた。彼女の代わりが私にできるとは思わない。だが、君を想う気持ちは受け継いでいる。誰よりも君を想おう」

ここね「あ、うわぁぁん!」

パムパムを失った悲しみ、しかしその献身によって諦めていた恋が叶ったこと。

ここねの感情は今ぐちゃぐちゃになっていた。

そしてそれにその場の誰も声をかけられなかった。

〜〜〜

それからブラックペッパーはシナモンに協力してもらい品田家の親戚という扱いになり、こちらの世界で暮らす事になる。

そしてここねと交際を始めるもブラペが生まれた経緯もあって最初はなかなかそれに夢中にもなれずぎこちなかったが、次第に彼の優しさに打ち解けていった。

そして時は流れ…

とある病院にここねは入院していた。

病気ではない、むしろ喜ばしい事が起きたからだ。

ブラックペッパー「ここね、頑張ったな」

ここね「うん…ありがとう」

言われてここねはブラックペッパーから子供を受け取る。

二人の子供だ。

擬似生命のブラックペッパーにも生殖能力はあったようで、大人まで交際が続いた二人は入籍し子供を授かった。

生まれてきた子は女の子であった。

ここね「産まれてきてくれてありがとう、把夢(ぱむ)」

呼ばれた赤ん坊は小さく笑ったように見えた。


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