【閲覧注意】一気に関係性が進む概念
・事後なのでずっと服着てない
・えっちなことした匂わせはあるけど直接描写はない
・解釈違い注意
・自然に情報を出せなかったので一応補足ですがペパーはもし万が一のために自宅に避妊具は置いておいた童貞です
・過去のアオイが天然タラシ感ある(矢印はペパーの方にしか向いていない)ので注意
目が覚めてまず思ったのは、布団の感触が普段よりさりさりして気持ちがいいということ。
次に思ったのは、なんだか背中があたたかいということ。
「ん……?」
体が重い。足の間がずきずきする。
誰かの腕が腰に回されている。……人肌の感触が、直接触れている。
ひゅう、と息を詰めた。誰かの、ではない。この腕はペパーのものだ。
慌てて左手を見る。そこに当たり前のように鎮座する指輪を確認して、わたしはとっくに思い出していることを改めて確認するように記憶の糸を手繰り始めた。
先週は最悪だった。
普段はなんだかんだでいつも先を見据えた依頼をしてくるオモダカさんが、有無を言わさぬ様子でお見合いをセッティングしてきて。もしかしてもしかするとちょっとくらい嫌がってくれたりしないか、なんて思って話をしたペパーには気のない返事をされて。
それで、仕方がないからとお見合い現場に行ったら……そこには、ペパーその人が。
「思い出したか?」
耳元で囁かれる低音に肩が跳ねる。
「おきて、たの」
思っていたのよりずっと掠れた自分の声に驚く。
同時に順を追って思い出していた記憶が一気に昨日の夜まで飛んでしまって、頬に熱が集まるのを感じた。
「今起きた。体、平気ちゃんか?」
「あんまり……」
正直なところ昨夜は普段使わないところの筋肉を使ってクタクタだ。体力はある方だと思っていたけど、そういう問題ではなかったらしい。
「だよな。……あー。水、持ってくるな」
「うん」
普段なら自分で行けると言ったのだろうけど、今はとにかく動ける気がしない。お言葉に甘えることにした。
腕がするりと離れ、ペパーがベッドから抜け出していく。隙間から入り込む冷たい空気に身震いして、離れていく後ろ姿を眺めた。
均整のとれた肉体だ。昨夜はあの大きな体に抱きしめられ、覆いかぶさられて。
「……」
水をもらうなら体を起こすくらいはしないと。
全身のだるさはさておいて、わたしは布団の中でもぞもぞと身じろいだ。
やっとの思いで座ると、胸までかかっていた布団がずり落ちる。
「わぁ」
そこから見えた痛々しいまでの様子になっている自分の肌に思わず小さな悲鳴があがる。ごまかすように布団をずり上げた。
それには気づかなかったのか、いつの間にか戻ってきていたペパーがおどけたようにコップを差し出してくる。
「へいお待ち!なんてな」
受け取ったコップに口をつけ、なみなみと注がれた水をこくこくと飲んでいく。
ざらりとした喉が潤されて気持ちが良かった。
「おかわりいるか?」
「大丈夫、ありがとう」
幾分かマシになった喉の調子を確認しながら、ペパーにコップを渡して口元を拭う。
「で、アオイ」
ペパーが同じ布団にまた潜り込んでくる。ずりずりとしたその動きはまったくもっていつものペパーのものなのに、服を着ていないというだけでなんだかおかしな感じだ。どきどきとうるさくなる心臓を抑えるように布団を抱きしめながら問い返す。
「どうしたの?」
「あの……あのさ」
さっきまでの様子はどこへやら、首を振ったり視線をうろつかせたりした後、ペパーはキッと真剣な表情を作った。
「今ここにこうしているのは気の迷いとかじゃない……ってことでいいよな?」
一瞬の沈黙。ペパーの問いかけについて少し考えて、わたしはふと指輪を撫でた。確かな形が指先に伝わってくる。
「わかってる。けっこん……するんだって」
どこか夢見心地な声になってしまい再び頬を赤らめるわたしを見て、ペパーは「よかったぁ〜!」と大仰に息をついた。
「オマエ昨日会ってからちょっと心ここにあらずって感じだったからさ。今朝になってから知らねーって言われたらどうしようかと思ったぜ」
「だって現実感ないんだもん……」
告白だとか交際だとかをすっ飛ばして突然のプロポーズだ。そしてちょうおんぱでもかけられたみたいな頭のまま指輪を嵌められて、お見合い会場を後にして、ペパーの家にお邪魔して、それで、それで……。
「……なんかもっと、順番とか」
「婚約が先だったのにか?」
へへ、と笑ってから眉を下げるペパー。
「……すまん。オマエがプロポーズ受けてくれたのが嬉しくてどんどん進んじまった」
二人でのお出かけは何度だってしたことがあるし、あとやっていないことといえば恋人以上の触れ合いくらいなものだったから実際のところあまり問題はないし。
なにより、他でもないわたし自身がキスでは満足できなくてもっと先へ先へと促してしまったような気もするのはこの際置いておく。
「ペパーもわたしのこと好きだったならこんなサプライズしなくてもよかったのに」
そりゃあ確かに、ペパーも「そう」なのだとわたしも薄々思ってはいたけれど。
だからこそこの前はショックだったのだ。
若干の恨みがましさも込めて見つめるとペパーは苦々しく微笑んだ。
「トップに口止めされてて……っていうのはとんだ言い訳ちゃんだな。泣いても笑っても絶対にプロポーズするって決めてたからネタバレしたくなかったんだ」
「なんでそんなに」
そこまで強く想っていてくれたのならなおのこと。一言好きだと言ってくれればそれでよかった。
急にプロポーズするあたり、ペパーだってわたしがペパーのことを好きなことくらいわかっているはずだったのだし。
「アオイは思わせぶりちゃんだからな」
疑問に答えるように不意に投げかけられた、からかうような言い方。
むっと頬を膨らませるわたしに、ペパーは笑って言う。
「オマエ、学生の頃オレのご飯なら毎日だって食べさせて欲しいって言ったの覚えてるか?」
「あ、それは言ったかも」
あちこちのお店や林間学校、留学先。どこでもおいしいものはあったけれど、ペパーの作る料理がわたしは一番好きだった。
当然それを本人に向けて言ったこともある。
「じゃあ聞くけど、その時アオイはオレのこと好きだったか?恋人になりたいとか結婚したいとかの意味でだぞ」
「……友達だったね」
ペパーへの発言は本心だったけど、その時には他意はなかったと思う。ペパーのことが好きだと自分で気づいたのはもう少し後の話だ。
ペパーのことを大切な親友だと認識したまま、あの頃のわたしは無邪気にそれを言っていた。
「うんうん。で、今それを聞いてどう思う?」
「……思わせぶり、です」
今思うと、人によっては口説き文句ととられかねないセリフだ。誰彼かまわず言っていいものではない。
「他のヤツに対しても軽い気持ちでそういうことを言ってるらしいっていうのはその頃から知ってたんだ」
怒ってるわけじゃないぜ、とペパーは穏やかな声で付け足した。
「そういうところはアオイの良さでもあるからな」
とろりと愛を蕩かした言葉がまっすぐに胸に届く。ああこの人はわたしのことをずっと好きでいてくれたんだな、と改めて心で理解させられる。
「だから、簡単には踊らされないようにしてた。でも、一年経って、二年経って、アカデミーを卒業してもオレたちは仲良しちゃんで。お互い別の誰かを見てるわけでもなくて。……心地よかったんだ、そんな関係が」
「……わたしは」
ずっと好きだった、というのは失礼な気がした。だって今の話だと、ペパーはわたしがわたし自身の恋心に気付く前からずっとわたしのことを見てくれている。
「わたしがペパーのこと好きだっていつから思ってたの……?」
「確信したのは結構前だぜ。でももう自分からは踏み出せなくなってた。手段はちょっと、いやだいぶ強引だったけど……トップに感謝感激さんってやつだ、な!」
そこで不意にペパーの手がわたしの手をとる。
布団がはだけてあらわになったわたしの胸元──所有を示す痕がいくつも付いている──に少し動揺した様子を見せて、ペパーは軽く咳払いをした。
「……ほんと、後で埋め合わせはするけど」
「わかった」
思わずくすりと笑うわたしの左手を持ち上げて、ペパーは囁くように言う。
「指輪、正式なやつは一緒に買いに行こうな」
そう言って指に口づけたペパーはパッと手を解放し、いつも通りの元気な笑顔を浮かべた。
「よし!ハラ減ったろ、オレ朝メシ作るからな!」
両片思いからの、お見合い。ちょっと変わったやり方だけど、好きな人と婚約できたという結果は同じ。
「うん、たのしみ!」
週が明けたら何食わぬ顔で首尾を聞いてくるであろうオモダカさんにどう答えるか考えながら、わたしもにっこりと笑うのだった。