【一応閲覧注意】 強化服の過去
君には脳がない。
それが医者が男に宣告した事実であった。
「は? じゃあ今の俺は何なんですか?」
「君であり、君ではない。寄生生物、名付けるならパラサイトブレイン。それが君のふりをしている」
「何ですかそのふざけた名前は。俺は真面目な話を」
「大真面目だとも。みたまえ」
医師がモニターに映像を再生した。どうやら手術の場面のようだ。写っているのはドクターやその助手達。そして……悪魔の化身。
「これが君の頭にいる」
開頭された頭蓋骨に収まる1つ目と触手の生えた青い脳みそ、人の倫理を冒涜的する外の理に従った存在。
この存在の眼玉は頭脳の表面に縦横無尽に動いて周囲を観察してるように見える。時に紫色に光ると、メスなどの手術用具が浮かび、元の位置に戻る。
自立意思! コイツは生きている! しかもだ。開かれてるとはいえ頭蓋骨から這い出てきているではないか! 触手を器用なまでに使って!
映像が止まった
「こいつが拉致された君の頭に入っていた。脳みその代わりに。調べようとしたが……拒否されてしまった。最後は君の中に戻ったが……」
「そ、そういう問題じゃない! こんなの信じられるわけが」
現実など嘘だ!
信じられるだろうか? 自分の頭の中に触手の悪魔が住んでいる。
これが、こんなのが俺を操作してる?
「だったら、君の行うそれはどう説明する?」
医者に言われて彼は気づく。周囲の物が浮いてるのだ。あの寄生虫と同じ事が起きている。
まさか? 信じられない、まやかしだ。だが……
深呼吸をする。胸のエンジンを止めるのだ。
「……信じる気になったかね?」
周囲の物が元の場所へ戻っていく。
「じゃあ俺は、俺は誰なんだ? ただの操り人形か?」
「……我思う、故に我あり。きみがそう思い続けるかぎりは、君だ。たとえ操られていたとしても」
「……俺が思う限り……」
そんな慰めなど何の意味があろうか? この身は人なれど、動かすのは化け物なのに。そこに人の意思は、尊厳はあるのだろうか?
その答えを教えてくれる存在はいない。