ーー小学校七不思議 『一年四組のいよちゃん』

ーー小学校七不思議 『一年四組のいよちゃん』

いよの人


※落星さんに終盤登場してもらってます。キャラ崩壊の度が過ぎてたら申し訳ない…

※半分以上いよの日常が続く、長ったらしい駄文ですが、楽しんでもらえれば幸いです


夜の9時。誰もいない学校。

いよは、『お友達』がいない時は、毎日真っ暗で静かな学校の中を歩き回る。

なぜなら、いよは『ふうきいいんさん』だからである。


…勿論これはいよの自称で、ごっこ遊びのようなものだ。

一年生は委員会に入れない。

大抵の小学校でそうであるように、この小学校もそういう仕組みになっている。

だが、いよは憧れた人の真似っこをしたい年頃だった。

いよは昼間は眠くて起きていられない。

しかし、あいさつ運動で、早朝から『風紀委員』のかっこいい上級生のお兄さん、お姉さんが、校門や、昇降口に立って元気いっぱいにおはようを言うのを、名札つけ忘れてない?と優しい声で尋ねるのを見ていた。

下校チェックで日が暮れる寸前までかかって、教室に誰も残っていないかを、一つ一つ見て回って調べるのを見ていた。

眠い目をこすりながら。今にも落ちそうな意識を、ほっぺをつねって繋ぎ止めながら。

そういうものを見ていたから、いよは思ったのだ。

「自分も上級生になったら『ふうきいいんさん』になろう」と。

いよのごっこ遊びはそのための練習だった。

いよが『上級生』になることはないので、全く無駄な努力なのであるが。


そんなこととはつゆ知らず。

いよは「ろうかをはしってはいけません」の張り紙を横目に、学校の子供にとっては長い廊下をちょこちょこと早歩きで、しかし、教室の中に前日と違うものがあれば、寄り道をしながら歩く。

壁に貼られた図工の絵、習字、本棚の子供向け月刊誌、プラスチックケースの青虫の様子…

小学校の内装は毎日忙しなく変わる。

それらの変化を一つ一つ検分しながら、たっぷりと時間をかけて歩き回る。


1階、2階…3階。

一通りの教室を見終わったいよは、ふぅ、と息をついて、最後に立ち寄った6年生の教室でひと休みすることにした。

1年生の教室は2階で、しかも反対側の階段のそばにあるから一々戻るのはめんどくさいのだ。

「しつれいしまーす」

誰もいないとわかっているのに、なんとなく一言かけてから、水色のかわいい道具袋の席を選び、椅子によじ登るようにして座る。

上級生用の椅子は大きくて足がぷらぷらしているし、机は天板がいよの胸くらいの高さにある。

いよはサイズの合わない椅子に座ったまま、きょろきょろと教室を見回す。

教室のポスターも掲示板の張り紙も、本もいよには難しい字ばかりであまり読めない。

それでもいよは、背筋をぴーんと伸ばして、ちょっぴりお姉さん気分に浸ってみる。


そして、ふと窓の外に目をやって考える。

…フェンスが古くて危ないから、ほんとはダメなんだけど。

いよは椅子から飛び降りる。

そして、きちんと椅子を席に戻してから教室を出て、すぐそばの階段を駆け上がり、古くて重たい扉を全身で押すようにして開ける。

そう。先生やお友達にはナイショで屋上にこっそり忍び込むことは、『ふうきいいんさん』としてはあんまりよろしくない、いよのささやかな秘密であった。



町の高台にある小学校は空がキレイだ。

少し下を見るとポツポツと町あかりがついていて、もっと下を見るとグラウンドがあって。

…たまにだけれど、そのグラウンドを突っ切って、暗闇の中息を潜めるようにやってくる人がいる。

そういう人に『お友達』になってもらった成功体験も、いよを屋上に向かわせる理由の一つである。


いよの下心はともあれ、いつも通りキレイな空。晴れて澄んだ夜空のてっぺんに、丸いお月さまが浮かんでいて。


ここまではいつも通りだった。



「ん…?」


屋上にころんと寝っ転がった誰かが、むっくりと身を起こし、振り返った。


図書室の本で読んだ『科学者さん』みたいな白い服。

ひょろんとしているけど、それはきっと、となりのクラスの小川先生みたいにすっごく背が高いからだ。

顔や首、服から出てる手はお月さまと同じ色、髪はお星さまみたいな色をしていて、本物のお月さまに照らされてほんのり光ってる。


「子どもの呪い…?」

その人…おそらくお兄さんは、いよを見て、こてんと首を傾げる。

顔にぽっかり空いた大穴は背後の星空と同じ色で、よく見ると白々と星明かりまで散っていた。


どこか幻想的な風体をしているが、間違いなく『異形』の存在である。

普通の子供であれば、少なくとも驚いて近づこうとは思わなかっただろう。

しかし、いよは。

それ以上何をするでもなくゆったりと、あぐらをかいて座り込む彼に、ぱたぱたと駆け寄って…


「おにいさん!こんばんは!!はじめまして!!」

彼の顔らしき星空に、大きな声で元気よく挨拶する。

「こんばんは。元気な子だね」

やはりのんびりと、鷹揚に答える彼に、いよはぱっと表情を綻ばせて矢継ぎ早に続ける。

「おきゃくさん!?おともだち!?どっちでもいいよね!いよとあそぼ!!いっぱいあそぼ!!!!」


いよはそう言い放って。きょとんとした様子の彼に構わず、『学校の内側』を少しだけ広げ、自分ごと彼を飲み込んだ。

時刻は午前0時。夜明けにはまだ程遠い時間であった。



ラストで学校に閉じ込めようとしてますけど、相手は落星さんなので適当なところで逃げられてると思います

でも落星さんはその後も屋上に星を見に来ることがあると思うので、その度に遊んでもらおうとしつこく付きまとう予定です

そんで何度か顔を合わせたあたりで、

「落星さん!!あーそーぼ!!」

「やだよ。俺は星を見てて忙しいんだ」

「えーーー…うーんと、えーとね…だったらね……そうだ!りかしつにこーんなおっきなぼーえんきょうがあるよ!!星のべんきょうするための!!」

「…それ、ほんと?」

みたいなやり取りしてからの、『学年先取り天体勉強編』とかあったらいいなと思ってます



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