ヴェールのやつ。前半

ヴェールのやつ。前半






「……そう言われましても、なあ」


「あら、何も難しいことを言っているわけじゃありませんわよ? そう……ほんの少し、興味本位から見るだけ。それだけなのですから」


狭苦しい室内に、老人と少女が机を挟んで顔を突き合わせている。

外見を考えれば祖父と孫どころか、曾祖父と曾孫までいくかといったようなものであるというのに、縮こまる老人とは逆に、少女は優雅に微笑む。まるで、この場を支配しているのは少女であるかのような空気だった。


「しかし……クレッセンは闇の魔力を持つ書庫。その最奥ともなれば、より禁忌は強まる……。我らラメイソンの学者とて、限られた者しか立ち入りは許されませぬ」


目を伏せながら、老人がぼそぼそと言う。しかし、その言葉には確固とした拒絶の意が含まれており、老人の芯の強さが窺えた。


「……いかに、先の大戦で我らに物資を融通してくださったヴェール様とは言え、それを許すわけには……」


「『魔法は開かれてあるべき』。そうなのでしょう? それに、悪いことをしようというわけでもありません。本当にただ、見てみるだけなのですから」


ヴェールと呼ばれた少女は、しかし諦めようとしない。にっこりと笑い、さも邪気のないような顔でそう言ってみせる。

だが言っている内容が内容だ。老人にはそれがとても信じられず、ううむと喉を鳴らした。ヴェールが見た目通りの幼気な少女ではないのは、とうに知っている。でなければ、エンディミオンとラメイソン、双方と繋がりのある魔法工芸職人ギルド・ウィッチクラフトの長など務められるはずもない。

頭が痛くなる話だ。比喩だけではなく、物理的にも頭痛がするようだ。

そんな彼の様子を見て、ヴェールはくすりと笑う。外見に不相応な妖艶な笑みに、老人は背筋がぞわりとするのを感じた。

そして、脚を組み直す。

少女らしくフリルの多いワンピースから白いタイツに包まれた太腿が覗き、何故か老人の喉を鳴らした。

心臓がうるさい。身体が熱い。何かがおかしい。

それを理性が警告する前に、甘ったるい声が鼓膜へと侵入した。


「ねぇ……エアミット様? どうしても、駄目でしょうか。もし許可を頂けたら、私……」


幼くも整った顔が、エアミットと呼ばれた老人の耳に近付く。


「どんなことでも致しますわ……?」


彼にはそれが、淫魔の囁きに聞こえた。








「ふーん、思ったよりは掛かりが悪い……心が強いから? いえ、単純に老化のせいかしら。むしろ、枯れてる中でこれだけ引き出せたら上等、みたいな?」


ヴェールは机の上にうつ伏せに乗っかり、何かを堪えるように蹲るエアミットを興味深そうに見つめる。エアミットは明らかに正常とは思えず、荒い息を何度も吐いては目をぎょろぎょろと動かしていた。


「な、にを……ヴェール、様……」


「何をも何も、エアミット様にはクレッセンへの案内をして頂きたいのです。その対価として、私がエアミット様に、個人的に"色々と"便宜を図る……といった契約になるでしょうか」


「しか、し……それは……」


しっかりとした会話ができる程度に、頭がふやけていないのは意外だった。そこまで弱い魔道具を持ってきたつもりもないのだが。

ならばと、ヴェールは作戦を変更する。

言葉だけで傀儡にできないのならば、行動も含めて使い、従わせれば良い。


「どうか、お願いしますわ……。ねぇ、人助けだと思って……くださいな」


「おっ……ぅお゛っ……」


机を越えてエアミットの方へと来たヴェールは、盛り上がった彼の下半身をローブ越しに指でなぞる。エアミットがひび割れたような呻き声を出し、びくりと震えた。


「駄目ですか……?」


「ぅ゛ぁっ……」


「ねぇ、良いでしょう?」


「お゛っ……!」


「許してくださったら……」


「ぉ、う……」


「もっと凄いコト、して差し上げますのに……♡」


「あお゛っ……!」


言葉と共に指が動き、もどかしい快感が声と共に脳に染み渡る。細くしなやかな指が彼の男性器を弾く度、思考が一つずつ死んでいく。

しかし、彼もまた魔導の徒。

奥歯を噛み締め、爪を掌へと食い込ませ、何をしなければならないかを忘れてもなお、『この誘惑乗ってはいけない』ということを貫く。

そんなエアミットに、徐々にヴェールも業を煮やしてきた。


「エアミット様……私がこんなにもお誘いしているというのに、お受けして下さらないなんて……。私のような身体では、ご満足頂けないのでしょうか……」


老人らしからぬ、硬く聳え立つ肉棒をローブ越しに摘みながらヴェールは聞く。そんなことはないということは、その彼の分身が証明しているというのに。


「ぅ、おッ……そん、な、ことは……」


「そうですか、それは喜ばしいですわ。……あれ、でも、そうしたら……」


ヴェールは舌をこれ見よがしに出し、彼の股間へと近付いて舐め取る仕草をした。触れそうなくらい近くで、決して触れない距離で。


「エアミット様が据え膳を食べる度胸も無い、甲斐性無しのヘタレということになってしまいますわね……♡」


「ぐ、ぅ、ぁッ……!?」


相手を馬鹿にし切った笑みが、エアミットの怒張を貫いた。彼は目の前の女を犯したいという衝動を必死に堪え、前よりも苦しそうに呻く。

その瞬間、じわりとローブに染みが広がった。染みはしばらくの間広がり続け、やがてエアミットがぶるりと震えて広がりが止まる。


「あら、ロクに触れてもいないというのに……もう射精してしまわれたのですか? ここを舐めるフリと、馬鹿にされるだけで……」


すかさず、ヴェールは追い討ちをかけた。染みのできた場所を弄ぶようにつつき、くすりと笑う。


「ああ、もしかして、趣味の違いでしょうか。女を犯すのではなく、犯される方が好みなのかもしれませんね」


「お゛ッ……ぁッ……」


エアミットの耳へと息を吹きかけながら、ヴェールは囁く。


「乳首を舐められ、尻穴を穿られ、許しを懇願しながら女のような情けない声を上げ、みっともなく果てる……。そんな、雄として失格な、惨めな趣味をお持ちなのですよね?」


彼を煽る言葉に、そうではないと肉棒が隆起し、目の前の女を犯そうとする。

当然、ヴェールの目的はそれだ。性交による契約の締結。魔導書庫クレッセンへの侵入。魅了による言葉での合意が得られないならと考えた次善の策が、自らを餌にした強引な契約。


「実を言いますと、私、そっちの方が得意なのですよ? 男のヒトを、弱〜いダメオスにしてしまうの……」


今、彼がヴェールを犯せば、契約書の魔道具が即座に発動し、エアミットはその内容に拘束される。しかし、それを発動するためには、彼が自分の意志でヴェールの身体を貪ることを選ばなくてはならない。


「……くすっ、いいえ、エアミット様はもう雑魚チンポでしたわね。何せ、ロクに触れられもせずに射精してしまう早漏なのですから」


「ぐ、ぅ、こ、の……小娘、が……!」


だからこそ、ヴェールはエアミットを煽る。

情欲と、怒り。二つも大きな感情が脳内で同じ方向を向いているのなら、堪えるのは困難だ。ましてや、魅了の魔道具で判断能力も削ぎ落としている。

彼女はもうそろそろ限界かと、エアミットの耳元から離れ、正面へと立つ。


「ここはこんなにカチカチでも、ふふっ、意味がありませんわ」


ヴェールは机へと腰掛け、エアミットを見下した視線で見つめた。それから、タイツに包まれた脚が、エアミットの股間を舐るようにさする。


「んおっ! おっ……ぅおッ!」


「こうやって情けなく鳴いて、精を吐き出させられて、女を愉しませる玩具としての役割しかないのですから」


既に精子で濡れたローブがぐちゅりぐちゅりと淫靡な音を立てて、足の裏に擦られる。動きはより激しく、よりいやらしくなり、裏筋を責めたかと思ったら竿を挟み込み、かと思えば亀頭を足の指に握り込む。

数多もの男を弄んできたとも思えるそのテクは、幼い少女の身体には似つかわしくない。


「ほら、雑魚チンポを足蹴にされて、精を無理矢理搾られて下さいませ? こんな幼い姿の女に負けて、精子を無駄撃ちするところ、見せて下さいませ?」


「おッ……お゛ッ、ぅ゛おッ……!?」


再び、エアミットが達する。

目がぎゅるりと回転し、肩がびくりと揺れた。理性が男根から噴出し、戻らない。口からは涎。目の色は性欲の色へと染まり、彼が賢者であったことなど、これを見て誰が信じられるだろうか。

それを見て、ヴェールは勝利を確信した。これでようやく、ラメイソンの奥の奥、クレッセンの最奥まで到達できる。


「……さあ、エアミット様、どうです? まだ責められ足りませんか? ふふ、マゾですものね。まだ欲しいですわよね」


「う……ぉ゛あ゛……」


ときに、エアミットはクレッセンへの立ち入りだけでなく、そこに存在する魔導書の持ち出しすら許されている、ラメイソンでも有力な学者である。だからこそ、ヴェールは彼に目を付けて契約を結ぼうと術をかけたのだ。

しかし、それがヴェールのただ一つの誤算だった。


クレッセンが保管している魔導書には、いくつかの種類がある。

戦闘に関するもの。闇に関するもの。そして──


──生命に関するもの。


生命の創造。

それは魔導においても珍しくない研究課題だ。ゴーレムにホムンクルス、エンディミオンの研究する魔導獣もそれに該当するだろう。更に、蘇生に永遠の生命もそれとは近いところにある。

だからこそ、それはヴェールも、エアミットさえも予期していない偶然だった。


「……え?」


今日ここに来るまでにエアミットがクレッセンから持ち出した魔導書が、生命の創造に関するもので。それには『原始的な』生命の創造に関する魔術に関する記述があった。

それは、本来ならば内容だけ把握して読み飛ばすような箇所。原始的で、非効率的。その割に、生み出されるものは決して多くない。

だが、今この場においては話が違ってくる。

性欲のみに支配されたエアミットは、"それ"がこの行為に役立つことだと己の知識を呼び起こし、懐にしまっていた魔導書を開く。

それは原始的な、生命の創造。

古来は、神からの授かりものであったはずのものを人の手により操作可能にした魔術。そして、彼が参照したのは、それの更に原始的なもの。

すなわち、閨の魔術。


「うあッ……! 何、これッ……!?」


「……フーッ、フーッ……」


そしてヴェールの想定内の行為が、想定外の状況で始まる。



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