ワンクッション!

ワンクッション!



「そんな状態で何を冷静にしてるんですか!! 早く逃げて下さい!!」

「? 物忘れがクソ激しいぞネス。穢されたと言っただろ、今歩くと床が豚の体液で汚れる。そもそも立てない」

「ミ゛ッッッ」


廊下のネスは首を絞められたインコのような悲鳴を上げて顔色を最悪にした。

悍ましい光景が脳裏を駆け巡る。脚どころかその付け根までレイパー野郎どもの出したドロドロのものがこびり付き、ベッドから立ち上がろうとするとつぅーと内腿からそれが垂れて地面に落ちる。なんてビジョン。あの強靭な足腰を持つカイザーが立てないということは、これから犯されるどころか下手したらもう何ラウンドか終了して……。

顔も知らないクソどもが不敬罪すぎて、あまりの憤りにネスは爪が白くなるまで拳を握り締めて唇を噛んだ。どちらも肌に食い込んでうっすらと血が滲んでいる。


「なんだ、ネスがいるのか。中に入れるか?」


心の中でクソ男たちにレッドカードを喰わせて窒息させていると、カイザーと豚どもしかいないと思っていた室内から『あの』糸師冴の声までしたから驚きだ。

かつてカイザーが言っていた──言いかけて、切り上げたことを思い出す。冴と2人して同じ金持ちの慰み者に。そこから先は聞けていなくても想像がつく。まだ今のカイザーほど精神も肉体も完成されておらず、けれど今と同じくらいに美しかったあの頃に。ミヒャエル・カイザーは糸師冴と共に、どこぞの腐れ外道イかれ暗黒富豪によって揃って手篭めにされた。そうに違いない。

そんな2人がこの扉の向こうでも一緒にいる。しかも推定レイパーの男達と。ネスの顔からは生命維持に支障が出そうなレベルで血の気が引いた。そんなのもう完全にクロだ。震える手でボトムのポケットに手を突っ込み、スマートフォンを取り出す。


「こ、殺し屋……。スナイパーを雇って、カイザーに手を出すクソ野郎どもを人生から強制退場させないと……」


ショックと怒りと悲しみのあまり110番の文字さえ頭からすっぽ抜け、ネスはGoogle検索で「スナイパー 雇い方」「殺し屋 依頼方法」という阿呆の検索ワードを用いて望みの情報を探し始めた。

一方、中のカイザーと冴は急にネスが静かになったことに目を合わせて首を傾げ合っている。冴はとりあえず開けるかとマゾ犬を置いて扉に近付いた。

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