ローの代わりに弟くんが捕まるルート導入
滝落ち・ナイショ話・ロー弟in原作再構成SS書いた人ワノ国、花の都にて。
三毛猫の姿で喧騒に紛れ、ルカは仲間たちが捕まっている牢獄へとひた走る。
(忍び込んだら鍵を探して、脱出ルートを考えて……ッ!?)
氷が首筋を掠めたような殺気。直感に従い飛び退くと、数秒前までルカの居た場所に刀が突き刺さった。それが飛んできた方へ視線を向けると、風にひらりと靡く金色の長髪が目を引いた。
「てっきり兄の方が来るかと思っていたが、まさか弟の方が出向いてくるとは予想外だ」
すでに正体は見抜かれていたようだ。正体を隠して潜入するためだけの三毛猫姿でいる意味は無くなったため、ルカは形態を本来の姿へ戻した。両目を眇めて、目の前に立つ男の情報を精査する。
バジル・ホーキンス。ローと同じく“最悪の世代”の一人で、現在はカイドウの傘下に降った海賊。博羅町にて兄と一戦交えた男────脳内にグルグル巡る情報を遮るように、檻の中から呼び声が響いた。
「「副キャプテン!」」
「シャチ!ペンギン!!」
……あと一人、足りない。
「ベポ……シロクマのミンク族もいる筈だ。何処にやった?」
「お前の兄の能力ならすぐ外へ逃がされてしまう、“人質”全員を目に見える場所に置いておくのもバカな話」
目に届く範囲に居ないというだけなら、大した問題はない。こうして見つかった以上、正面から突破して仲間を取り返すだけだ……そう考えて戦闘の構えを取ったルカに、ホーキンスは淡々と決定事項のように告げた。
「お前にもその檻に入ってもらう」
何を言っているんだ、この男は。訝しげに柳眉を顰めたルカに対して、ホーキンスは眉ひとつ動かさない。
「はァ?……素直に受け入れるとでも思ったのか?生憎だけど、僕は赤の他人にまで従順なわけじゃない」
「これを見れば、そんな生意気な口はきけなくなるだろう……」
地面から刀を引き抜いて、ホーキンスは左腕にピタリと刃を当てた。鈍く光る銀色が、ズッと肌の上を滑る。唐突に自傷行為にルカは目を見開いたが、奇妙な点があった。
目の前で自傷は確かに行われた筈だが、奴の肌はまっさらで傷ひとつない。
「痛ェ!!」
代わりに檻から悲鳴が上がった。シャチの声だ。思わず振り向くと、彼の腕から鮮血が“ホーキンスが自傷したのと同じ箇所”から流れ出している。
「ッお前……!!!」
これ見よがしに行われたパフォーマンスにより、ルカは一瞬でホーキンスがやったことを理解した。この男は、自身が負うはずの怪我をシャチに身代わりさせたのだと。
それからもうひとつ理解した。この男は傷つけられない……傷つけてはいけないと。
「おれは今、四つの命を持っている」
ベポ、シャチ、ペンギンの命がホーキンスの手に握られている。
「お前が俺を殴れる時は……3人の部下を殺した後だ」
「……なるほど、随分と性格悪い能力だ」
なんて笑えない能力、と内心で呟いた。ひくりと頬が引き攣りそうになるのを堪える。ホーキンスから視線は逸らさずにゆるりと構えを解いて、悠然と腕を組んだ。
(ここで怯えを見せるな、僕……ナメられるぞ)
ルカは軽く目を閉じて、細く息を吐く。瞼の裏側に浮かべた“強さ”のイメージ───兄の姿を自身に落とし込み……再び目を開く。
「交換条件だ……お前が捕らえているウチの船員3人の命と引き換えに入ってやるよ、その檻に。だが応じないんだったら……命四つ、まとめて狩るだけだ」
獲物を狩ろうとする猛獣のごとくギラついた双眸が、ホーキンスを真っ直ぐに射抜いた。
「……いいだろう、ついて来い」
交渉成立だ。
近づいてきたホーキンスの手がルカの背を押し、牢獄の入口へ歩くように促す。その誘導に従い、ルカは足を踏み出した。