ローが十二国記の世界を羨ましがる話

ローが十二国記の世界を羨ましがる話


我々の世界では麒麟が王を選ぶ。王が道を誤り国が乱れれば麒麟が病む。麒麟が死ねば王も死ぬ。目の前の赤毛の女は確かにそう話した。

信じ難い話であったが、「あり得ない」の一言で否定するにはローは想像の範疇を超えるものを目にしすぎていた。

考えても仕方のない事だと心の奥深くにしまい込んだ記憶が呼び覚まされる。

「駆除」対象として殺害された両親。病に苦しむ妹ごと燃やされた病院。地面に転がる友人達とシスターの遺体。国境を越えるために遺体の山に紛れたこと。駆除対象の「ホワイトモンスター」として罵声を浴びせられたこと。

珀鉛の毒性を知りながら富のために事実を隠蔽した政府。

珀鉛病を発症した多くの国民を見捨てて国外脱出した王族。

愛する家族を、友人を、故郷を奪った政府が今も世界に君臨していることを、国民を見捨てた王族が何の罰も下されなかったことを、ローは諦めと共に受け入れてきた。故郷は消されたのだ。この現実を前に何が出来るというのか。

だが、王が裁かれ王朝が倒れる世界が本当にあるのなら。こんな思いを抱えなくて良い世界があるのなら。

「王が非道な行いをすれば裁かれるということか、羨ましいことだな」

痛む心から羨望の言葉が口をついて出た。

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