レオナの過去

レオナの過去


親の顔は知らない。私が物心つく前に戦争に巻き込まれて死んでしまったからだ。

両親を早々に失った私は、私を拾ったオーナーの元で男とまぐわう仕事を続けていた。起きて、見知らぬ男と体を重ね続け、仕事が終わると寝る。それだけの繰り返し。それが私の普通。

「ねえアンタ、ちょっとこっち来なさいよ」

そう私を呼ぶのは職場の先輩。ああ…またか……重い足取りでその声の元へ向かう。

バキィッ!!たどり着くなりいきなり壁まで殴り飛ばされる。

「うっ…ぐぅっ…ごほっ…」

朦朧とする頭に今度は蹴りが飛んでくる。間髪入れずに次は腹。思わず胃の中のものをブチ撒けてしまう。「うわっ」「きったねーw」嘲笑うように響く声。

「ちゃんと掃除しなさいよねw」その命令に従って自身の吐瀉物を掃除しようとすると、後頭部を蹴り飛ばされ吐瀉物に頭を突っ込んでしまう。

「誰が手なんて使っていいって言ったのよ、口でやんなさいよ口で」

…今日はそういう感じか。そう察すると無感情に顔をソレに突っ込み、口に含む。酷い味だ。味と呼ぶ事すら憚られるような感覚が全身に走る。それに耐えながらなんとか喉の奥まで吐瀉物をねじ込む。「うわっホントにやったよw」「○○ちゃんひっどーいw」そんな心無い声も無心で聞き流す。反抗したところで意味がないことなんて分かりきってるからだ。満足したのか彼女らは「ちゃんと残さず片付けなさいよね」とだけ言い残して去っていく。

それをなんとか処理しきったところに連絡が入る。“お客様”だ。私は服を着替え、軽く体を洗って部屋に入る。今回の客もロクな客じゃないんだろう。そうでもなきゃあの人たちを差し置いて私のとこに客が来るはずもない。あの人たちは面倒な客や暴力的な客は全部こっちに押し付けてくる。ずっとそうだ。

そしてその予想は今日も大当たりだった。暴力を振るうもの、変態的な行為を要求してくるもの、矢鱈と面白くもない説教臭い長話をベラベラ続けるもの。何が「こんな仕事するものじゃない」だ。こんな仕事してる奴を好き放題してるくせによく言うよ。それに私は端金で遊び呆けてるお前と違ってこうでもしなきゃ生きていけないんだ。鬱屈とした気持ちは、吐き出すことも出来ないまま、どす黒く濁った私の心にじんわりじんわり吹き溜まってゆく。生ゴミの中から引っ張り出した自分のタオルを冷水のようなシャワーで濡らし、痣と傷だらけの体を洗う。床にひっくり返された晩飯を拾い集め口に運び、傷と汚れで変色したベッドに体を放り出す。布団なんて贅沢なものなどない。大方、先輩のうちの一人が自分用に持っていったんだろう。その薄汚れたベッドひとつだけがある空間が私の部屋だ。眠りにつこうとするとドアが大きな音を立てて勢いよく開けられる。これもいつもの事だ。性欲を持て余した先輩達がほぼ毎日自分を性処理に使いにくるのだ。そのままいいように抱き潰された私は残りの2、3時間だけゆっくりと眠りにつく。この時間だけが私の時間。

「…〜〜♪♪」ゆっくりと歌を口ずさむ。記憶の奥底に眠る歌を。

夜空に向けられた虚な眼には、月すら見えない曇り空だけが静かに映る。

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