ルフィ×ハンコック
ルハン好き添
い
寝
「なぁハンコック、今日もあれやってくれねェか?」
「は、はい…♡」
「しししし!ありがとな!あれ大好きなんだよおれ!」
ルフィの言う"あれ"とは"今夜は共に寝よう"という意味なのじゃが……今夜もわらわにとっては命懸けの夜になる。
ただ共に眠るだけでもまるで天にも昇る様な気持ちになると言うのにルフィの望む"あれ"は普通の寝方ではない。
ルフィはわらわの胸に顔を埋めて寝るのが好きなのだと申してくれる。それは甘えておるのか、わらわを好いている故なのか、それともただの遊びなのか。
「ルフィ、こちらへ」
「おう!」
寝所の準備を終え、両腕を広げてルフィを誘うと、にっこりと太陽の様に笑って我が胸に飛び込んで来てくれる。
感動で力の抜けた腕でルフィの背を抱いて覚悟を決めた。
「あー……やっぱ良い匂いすんなァお前…」
「もう…♡」
……そのはずがたった一言でまるで心臓を貫かれたかの様に全身が痺れて覚悟は露と消えた。
わらわをこんなに夢中にさせるなんて、ルフィはいけない男じゃな。……なんて、素直に言えたらどれほど良いか。
"愛する者と抱き合って眠る"とはなんと幸せな事なんじゃろう。
わらわの腕の中に、胸の内にルフィが居る。
ルフィの呼吸を感じる。温もりがすぐ側にある。
わらわの体を抱く腕が熱い。大嫌いな背をルフィの温かい手が護ってくれる。
幸せでどうにかなるとはこの事か。
まさかわらわの心臓の高鳴りがルフィに聞こえてはおらんじゃろうか。それほどまでに早く脈打っておるのが分かってしまう。まるで全ての神経が過敏になっておる様じゃ。
少しも落ち着かない心を落ち着かせる様にルフィの髪を優しく優しく撫でる。
ルフィが少しでも安らげる様に。少しでも良い夢が見れる様に。少しでも愛が伝わる様に。
そう思いながら心を込めてゆっくり時間をかけて撫でる。
しばらくすると豪快な寝息が聞こえてきてようやく一息つける。幸せなのはよいが何とかしてこの昂りを沈めねばわらわは眠る事さえ出来ぬ。
初めて"これ"を頼まれた時は話を聞いただけで気を失った。
寝所でルフィを待つ間にも一度気を失って、ルフィの手がわらわに触れた時にまた気を失った。
多少なりとも慣れた今でこそ何度も気を失う事はせずに済んでおるものの、この昂りだけは結局どうする事も出来なんだ。
何故ルフィがこの様な寝方を好むのか前に一度聞いた事がある。
するとルフィはいつもの調子で"おれは昔からこうやって寝てたからだ!"と答えてくれた。聞けば生まれ育った村で世話になった女にも仲間の女にも度々こうしてもらって寝ておったとか。
それを聞いた途端、胸の内でメラメラと嫉妬の黒い炎が燃え上がるのが分かった。
なんとも羨ましい。
なんとも恨めしい。
なんとも悔しい。
嗚呼、わらわが先に逢うておればルフィを独り占めできたというのに。
こうやって眠るのはわらわとだけにして欲しい。わらわだけを見ていて欲しい。わらわだけを抱いて欲しい。
わらわはルフィだけを心から愛する故、わらわだけを心から愛して欲しい。
そう願うのはきっと至極当然の事じゃろう。
じゃがどうすればルフィをわらわのものに出来るのじゃろうか。
少なくともルフィが誰かの愛に気が付く前にわらわの愛に気付いてもらわねばならない。そなたを深く愛する者がここにおると気付いてもらわねばならない。
ルフィが船に戻れば仲間の女が居る。
……それも"この寝方"を許す様な女が。
もしかするとわらわに残された時間もチャンスもあまり多くはないのかも知れぬ。
ああ、どうしたら良いのじゃろう。
どうすれば想いを伝えられるのじゃろう。
どうすれば愛し合えるのじゃろう。
グルグルと巡る思考を振り切ってわらわの胸の内で眠るルフィに思い付く限りの愛の言葉を囁く。
恥ずかしい話じゃがルフィが起きておる内にはなかなか言えない事じゃから。
一人であれこれ囁いておったが、ルフィが甘える様にわらわの背をぐっと抱きしめた辺りで結局気を失ってしまった。
終