ルフィからウタへ向く感情は重い
「つっかれたー、全くあの人の訓練ハードすぎてつらいわー」
愚痴をこぼしながら今日もサボりにお気に入りの場所に移動する。ちょうど生えている木が日陰になってサボりに丁度いいあの場所は自分のお気に入りだ。
バレないようにその場所にたどり着けば先客がいるではないか。壁と木の隙間から見えるその横顔は、普段お世話になってる先輩の顔だった。トレードマークである麦わら帽子がないことに疑問を覚えながら、先輩に近づいた。
「ルフィ先輩もさぼりっすか?」
「わりぃ、ちょっと休憩中だ。それとあんまりうるさくしないでやってくんねーか?」
そう言って人差し指を唇に当てる先輩の腰元には、先輩の麦わら帽子をかぶり、太ももを枕にするよう横になっている人がいた。耳をすませば微かに聞こえてくるその吐息から、どうやら睡眠中のようだ。まぁ先輩がこんな事する相手なんて一人しかおらず、その証拠に麦わら帽子からはこれまたトレードマークである紅白の髪の毛がはみ出してる。
「いや~珍しいっすね、ルフィ先輩だけでなくウタ先輩までさぼりっすか?」
声量を落としながら先輩に問うと、どうやら午後から非番だったらしくウタ先輩がルフィ先輩に歌を聞かせた後、そのまま眠ってしまったらしい。どうせまたラブソングを想い人に聞かせていたのだろう。噂によると未発表のラブソングだけで100を超えるとか。まぁそれを聞く権利があるのは目の前にいるルフィ先輩だけだが・・・
それによく見ると自分からは麦わら帽子で見えないウタ先輩の寝顔を堪能しているらしい。
「まったくルフィ先輩も、ウタ先輩のことめちゃくちゃ大事にしてますねー」
「そうだな、一番大事だ」
揶揄するように先輩に言ったが、思っていたのとは異なる反応で驚く。海軍内部だとバカップル・・・他にはケンカップルやら、なんともまぁ色々と有名な二人だが、普段のルフィ先輩とは全く違う声色に、
「(ホントにルフィ先輩っすかこれ)」
と思わずにはいられなかった。ウタ先輩に向いているその顔は普段とは異なる慈しむようで、それに加えて繊細な手付きでウタ先輩をなでている。
「(それに珍しいもん見れたっすね、いや~まさか先輩がこんな顔するとは思わないっすよ)」
そんな事考えながら相変わらず麦わら帽子で見えないウタ先輩とルフィ先輩を交互に見ていたら、ルフィ先輩はウタ先輩を見ながら静かに、だけど確かな信念がこもった声で言い放った。
「俺の全てはウタの物だ。ウタは俺の全てだ。」
とんでもない爆弾発言に思考が一瞬どころではない、完全にとんでしまった。先程まで話していたルフィ先輩と、眼前にある人物が一致せず、脳がバグって停止する。鏡を目の前に持っていけばとんでもないアホ面していただろう。
そんな感じで思考回路が回復しない中、ルフィ先輩は顔だけをこちらに向けて言葉を続ける。
「それと休憩するのはいいけど、ウタの寝顔は見ちゃダメだぞ」
その言葉と共に出てきた威圧感に、停止していた思考を無理やり回復させた。普段行っていた戦闘訓練のおかげで思考回路が回復した事に感謝したいところたが、危うく戦闘態勢を取りかけた。言い放ったルフィ先輩の顔は姫を守る騎士の如く、まるでウタ先輩のライブを護衛している時の顔だった。
「いやぁ~ちょっと用事を思い出したんで、休憩は終わりにするっす」
そう言って早足でその場を離れる。流石に馬に蹴られて閻魔の存在証明などしたくないし、これ以上二人の邪魔になるだろう。
そそくさに帰る後輩を後目にウタに視線を戻す。この寝顔を堪能するのは自分だけ、他の誰にも見せたくないと思う。それに先程言った言葉に嘘はない。
「ルフィ・・・ずっと・・・一緒に・・・」
「あぁずっと一緒だ、何があっても絶対にウタを守る」
絶対に一人にしないように、ウタの寝言に返答する。シャンクスと別れの際の約束ではなく、自分の情景に、新時代を作ることを誓いあった仲として、そしてかけがえの無い存在に、愛するあなたに全てをつくそう。
とどのつまり麦わらのルフィは、ずっと前からウタに惚れていたのだ。
【あとがき】
モブは設定上ルフィの後輩でテキトーに用意した都合のいい語り部。
バカップルと書いたが本人達は付き合ってるつもりはない。
なお威圧感は覇王色がちょっと漏れ出してるご様子。