ルビーとヒカル
私は前世で親に愛されなかった。
だから今世では愛されるように元気で天真爛漫な娘を演じている。その成果かは分からないけど今世のママ…前世の推しだったアイドルのアイと
カミキヒカル…という売れない役者の父、同じ転生者の兄とは上手くやれている、そう思っている。
「ルビー、今日は僕だけ仕事無いし
一緒に出かけない?好きなところ連れて行ってあげるよ」
「え!本当⁉︎」
「本当だとも。いやー…演劇の練習以外の仕事が無くてね…今日は完全オフ、お休みなんだ。アクアもお母さんも仕事だし、折角だから、ね?」
自虐を混ぜながらお兄ちゃんに似た顔立ちでフフンと笑うヒカル。
家族サービスを良くしてくれるから私は嫌いじゃない。
…当初はよくもママ、アイを傷モノにしやがって!と殺意を持ったが生まれたばかりの私達を抱き抱えて涙を流す姿に気分を削がれてしまった。それでもまだ素直に「パパ」と呼ぶのは抵抗がある。
幸いにもアクアがママをアイと呼ぶし、ママがヒカルをヒカル呼びだから私がそれを真似ているだけだと思い込んでいるようだ。その思い込みを利用させてもらおう。
15歳で父親になって責任取ろうとするのは立派だけど経済的、社会的に無謀過ぎるから、結局斉藤社長のお世話になるために苺プロに移籍。しばらくヒカルも活動を休止して2人で私達の世話を焼いてくれた。
ママ復帰後も私達の世話を率先してやってくれているし、今は芸能活動を再開しながらも仕事があまり無いらしく事務所の手伝いや私やお兄ちゃんと出かけたりと家族のことを優先してくれている。
…なら素直に行きたいところをお願いして見ようかな。
「なら巨大アスレチックがある公園に行きたい!TVで特集されてたヤツ!!」
「確か、2日前みんなで視てたやつかな?
場所は…へー、場所は少し遠いけどアクセス悪くないね。いいよ、行こうか?」
「良いの⁈やったーー!!」
正直難しいと思っていたけど、あっさりOK貰って嬉しい。
素で喜んで飛び跳ねたり、軽く踊ってしまった。
昔は動くことも困難で運動なんてもってのほかだった思いっきり自分の意思で身体を動かせるということが本当に嬉しい。
けれど、はしゃぎ過ぎたかな?
「今喜び過ぎると疲れちゃうよ?さ、準備して出発だ」
「おー!」
全力で喜ぶ子どものフリ(半分本心だけど)できているかな?
ーーーーーーー
「電車とバスを使って1時間ちょっと、か。中々の遠足だね
ルビー疲れてないかい?」
「大丈夫、大丈夫。楽しみにしてたからへーきだよ」
疲れるどころか、ヒカルが私を退屈させないように色々な話をしてくれたり、昔のママの話を沢山出来たから逆に楽しかった。
ヒカルと出会った頃のママの話とかレアだし!
…前世(まえ)はこんなに前のパパとママと話をしたかな?人生の大半が病院で過ごして、楽しかったのはせんせとアイの話をする時だけ。それだけが人生の中で感じられた幸福だったと思う。
それを考えたら…
(今が1番親子…しているし、幸せなんだろうな)
そんなこと思いながら隣で施設の案内を見ているヒカルを見る。真面目な顔しながら現在地を確認している。
…いつか「パパ」か「お父さん」て呼べるのかな?
悪い人じゃないしなぁ…でもなぁ…
「ルビー、僕的におすすめはこの遊具だけどどう?」
「え?うーん、良いんじゃない?ヒカルが選んだんだし」
しまった…ヒカルを見ていて考えてなかった。凄く適当な答えを言ってしまった。
…怒らないよね?気分悪くしてないよね?
失礼過ぎたかな…?
「良いのかい?僕自身、こんなところ来るの初めてだからよくわからなくてね…ルビー、探り探りだけど僕と一緒に遊んでくれないかい?」
良かった。いつものヒカルのままだ。
一緒に遊んでくれ、と言われたら乗るしかないな〜
「…しょうがないなぁ〜ヒカルくんは〜
じゃあ!競争!よーい、ドン!!」
「お、ネコ型ロボの真似かい?可愛いぞー
おお、速い速い!凄く早くなったね、ルビー!!」
後ろから私を褒める声を聞きながら全速力で走り抜けた。
(自由な身体ってこんなに楽しいんだ!!)
「ルビーは元気だねぇ…お父さんへとへとだ…」
「だらしないよ〜?ヒカルは体力つけたら〜?」
息を切らして寝転ぶヒカルを見ながら私は余裕さを見せつける。
私に負けているようじゃパパとは呼べないね。
「かもねー…ルビー、楽しかったかい?」
「うん!!楽しかった!」
「そっかぁ…良かった。『その言葉は演じて無い』ね」
ーーーえ?ヒカル、今なんてーー?
「な、何言ってんの?私が演じるなんてママじゃあるまいし」
「いや、流石はアイと僕の娘だよ。演技が上手だ…だからこそ、父親としてずっと気にしていたんだ。
君に気遣わせているのは僕のせいか、そうじゃないか…理由は両方かな?ルビー」
声が出ない。優しく笑う目の前の父親が得体の知れないものになったみたいで、
怖い。
私を笑顔で見つめるこの人が怖い。
…私、失敗したんだ。愛されなくなっちゃう…!
涙が目に溜まってくる。どうしたら良いかわからない。前みたいに私1人になるのかな…?
嫌だ嫌だ嫌だ!そんなの絶対に嫌だ!!
頭の中を言葉と感情がグルグル回る中、優しくそっと暖かく抱きしめられた。
「ルビー、『愛される子ども』なんて演じなくて良いよ。何もしなくても僕は君を娘として大切に思っているし愛してる。アイもアクアも、君を家族として大事に思っている。
…ごめんよ、気遣わせてしまうような情け無い父親で。」
「良いの…?」
「うん?」
「…私、私…パパて呼べてない、のに愛してくれるの…?お兄ちゃん…アクアと比べても賢くないよ?それでも…」
涙が溢れてくる。愛してくれている。ヒカルの体温が、力強さが私がずっと欲しかったものと答えを肯定してくれている。
ヒカルは…父は抱きしめながら頭を撫でながら、さっきよりも強く抱きしめてくれた。
「当然だよ。僕は君とアクアを両手に抱いた日から…何があっても君達の父親でいよう、と決めたんだ。
世界の誰もが君達の敵になってもアイと僕だけは君達を助けられるような存在になろう、って。
だから呼び捨てにしようが、僕を嫌おうが最後の最期まで君達の父親として死ぬその一瞬まで愛している。
だからもっと自分を出したら良いんだよ、ルビー。」
もう限界だった。涙が、声が、止まらなかった。
私を愛してくれている!私のありのままを受け入れてくれている!
嬉しい!嬉しい!!嬉しい!!!
「パパ…パパぁ!ずっと呼び捨てでごめんなさい!」
「気にしてないよ。アイの真似もあったんだろうし、父親、てバレたらまずいから気をつけてくれていたんだろう?偉いね、優しいねルビーは」
「違う、違うの!ママの特別がパパなのが嫌だった!私の知らないママを知ってるパパが嫌だった!!」
「アイは凄いからね。仕方ないさ。僕だって実は君達に嫉妬する時あるんだよ?おあいこさ」
「ずっとずっと…お礼も言いたかった!演技の勉強や練習しないといけなかったのに私達のお世話をしてくれてた!!」
「父親だから当然だよ。だから次はルビーがお母さんになったら子ども達にしてあげて?
…感謝されてたなら手探りだったけど親出来てたんだな僕は」
ヒカル…パパの身体も震えている。
私を抱きしめながら泣いている。
周りの家族連れからしたら兄と歳の離れた妹が互いに抱きついて涙しているおかしな場面だろうけど
私達は気にせず涙が止まるまで抱き合っていた。
ーーー私は本当の意味で親の愛を知れたのだ。