リュックSS

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・閲覧注意

・ペパーを想うが故にペパーの特大の地雷を踏み抜いてしまったアオイ

・DLC後編が始まらない

・ネモとボタンが最後巻き込まれている






「アオイ……」

ペパーの手が病室のベッドに座るアオイに伸ばされる。輪郭を確かめるようにそうっと頬を撫で、アオイの手を取って、額に押し当ててホッと息を吐く。

まるで儀式のようなそれは二日前から始まった。

とある目的のために、こっそりとパルデアの大穴に降りたのは、三日前。

パラドックスポケモンとのバトルの最中、ちょうど高い足場でバランスをくずして、スマホロトムがわざの余波を受けて壊れて。

全身をしたたかにぶつけてあちこちすり傷だらけで意識もなくぐったりとしたアオイを、相棒の守護竜が背に乗せて地上に帰ってきたあとは、アカデミーをあげての大騒動だった、らしい。

病院に運び込まれて検査を受ければ、軽い脳震とうと打ち身とすり傷だけ、運が良かったですね、という診断を受けたものの、念のため三日は入院だと言われた。

──ケガをしたアオイを見つけたのはペパーで、それからずうっとアオイのそばから離れようとしなかった、とは母から聞いたこと。

「ペパー、心配かけてごめんね。わたし、もう大丈夫だから」

空いている手を伸ばして、ペパーの頭を撫でる。いつもならふわふわと柔らかい髪が、ここのところなおざりに扱われているのか、指通りも良くない。

目の下だってクマができていて、それが自惚れではなくアオイのせいだとわかるから、なおさらに心配だった。

「……何であんなとこ、ひとりで行ったんだ」

「それは……ちょっと探したいものがあって」

こう言えば珍しいパラドックスポケモンを求めてかと受け取ってくれると思ったのに。

「探しもんって、これか?」

ペパーがひらりと写真を見せた。オラチフと幼いペパーの写真。

エリアゼロの奥深い観測ユニットのホワイトボードに飾られていたそれは、きっと博士が持ち込んだものだから、ペパーに渡したかった。

そんな勝手な思いから怪我をしたと知れば、ペパーが気に病むとわかっていたから伏せるつもりだった。

「なんで、それ……」

「気絶してたオマエが、大事そうに抱えてた。こんなもんなんかのためにあんなとこに、……」

言いながら、ぐっとペパーの手に力がこもる。痛いくらいなのに、アオイを射抜くブルーグレーの瞳が張り詰めていてそれどころではなかった。

「こんなものなんかじゃないよ、大事な──」

「アオイより大事なものじゃねえよ、こんな……っ、こんなもんなんかのために、あんなところになんか行かないでくれ……」

もうどこにも行かないでくれ、とペパーに体ごと抱き寄せられる。ペパーの震える声と腕は、まるでアオイに縋りついてくるようだった。

「……マフィティフみたいに、……アオイが弱って、メシも食えなくなったらって、……父ちゃんみたいに、もう二度と、アオイと会えなくなるんじゃねえかって……! オレ……っ」

「ごめんね、ペパー。ごめん。うん、行かないよ、ペパーのそばにいるから」

ずっとそばにいるから、とアオイはペパーを抱きしめ返した。



寮に帰ってから、アオイはペパーと一緒の部屋で寝泊まりするようになった。

アオイの部屋に泊まることもあったけれど、おおむねペパーの部屋で過ごしていた。

ひとつのベッドで寝ていても、ペパーはアオイに何かしてくるということはなかった。

優しく腕の中に抱きしめて、すりすりと頬をアオイの頬に寄せてくるだけ。

アオイの方からペパーの額にキスを落とすのが恒例になったのは、夜中ペパーがうなされているのに気づいたからだ。

アカデミーに入学する前、自室に戻るときにママと交わしていた、よく眠れるおまじない。

気休めにしかならなくても、何かペパーにしたかったのだ。

初めてのときには目を丸くして、くり返すうちに当たり前のように額を差し出すようになって、近ごろではアオイに返すようになってきた。

アオイを抱きしめる腕に遠慮がなくなってきたのもこのころで。

夜中、アオイが目を覚ましたときもすうすうと寝息を立てて、うなされることもなくなってきたようで、ホッとしていたころに、アオイのブルーベリー学園への交換留学が決まった。



「あれ? ペパー、どこ行くん?」

「いつもより荷物大きいね。リュックぱんぱんになってる」

「ああ、ちょっと遠出してくる。良いところ見つけたんだ」

「あー、またアオイとのピクニックの下見か」

「強いポケモンいたら連絡してね! 飛んでいくから!」

ペパーはうっすらと笑みを親友二人に向け、いつもと違うふくらみ方をした黄色いリュックを──中の大事な宝物が決して傷つかないよう、毛布やクッションを敷き詰めたそれを抱え直し、「行ってくる」と言い残した。


──アオイとペパーの二人の行方は、誰も知らない。

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