リリ志貴 初詣
October 02, 2023「志貴くん!初詣行ってみたい!」
最初は無邪気な提案だったのに。
「………志貴くんのえっち♡」
____なんで、こんなことになってるんだ……!
正月の朝一にリリアが初詣に行きたい、と言った。大方テレビで中継を見たのだろう。断る理由も無いし、その、デート……だし。準備するから待ってて!と言うリリアを玄関で待っていた。
「お待たせ〜!振袖着てみたの、どう?かわいい?」
……かわいい。黒地に白の模様が入った振袖に、首の……ショールだったっけ。黒いもふもふした物を付けていて、どこか初めて会った時の格好を思い出させる。
「……あぁ、かわいい。似合ってる。」
「やった!志貴くんも着物似合ってるよ〜!じゃあ、行こっ!」
テンション高くて可愛いな。ぐっと手を引っ張られて外へ出る。うわ、寒い。舐めてた訳じゃないけど、骨身に染みる。
寒さに少し体を震わせていたら、リリアの腕がするりと絡んできてきゅ、と恋人繋ぎをされる。
「志貴くん、寒くない?」
……それだけで茹だるくらい体温が上がるのが分かった。我ながらチョロくないか……?
「あ、あぁ……そっちこそ大丈夫か?」
「私はお母様の原理的にも寒いのは慣れてるから。……それに志貴くんの手、暖かいもの!」
手をにぎにぎされる。確かに少しひんやりしているけど……俺の体温が高いからすぐ温まるだろう。
・・・
「これが初詣……!人がとっても多いわ、凄いね志貴くん!」
目に映るもの全てが新鮮なのだろう、キョロキョロしてる姿は少し子供っぽくて可愛い。
「あそこ、なにか配ってる……甘酒……甘い、お酒?飲んでみたい!」
「わ、ちょっ…!引っ張るなって」
いつもだったら引きずられるみたいな体制になるけれど、今日は慣れない草履で歩きづらいみたいだ、あんまり俺と歩幅が変わらない。
「おにーさん、甘酒2つください♡」
リリアが甘えるように甘酒をくばっていた男に声をかけた。
………はぁ、また1人堕としたな。魅了なんて使わなくても、その甘い声を聞くだけで、目を合わせるだけで、指先に触れるだけで大概の人間は狂わされる。
俺だけ、だったら良いのに。
「…くん、志貴くん?………も〜!」
ちゅ、と。いやそんな生易しいものじゃなかった。いうならぢゅ〜〜♡といった感じの。俺の肺の中の空気を全部吸い出すようなキッツいキスで無理やり意識を向けさせられる。……考え込みすぎたみたいだ。
「甘酒、いらないの?せっかく貰ったのに……」
「あ、悪い、いただきます……!」
慌てて受け取る。今でさえ視線が集まってるのに、これ以上ぼーっとしてたら衆人環視で腰砕けにされかねない。……前のアレは、いや、思い出すのは止めておこう。
境内の裏の人がいないところで腰掛け、ゆっくり味わう。久しぶりの甘酒……うん、美味い。
「これおいしぃね……♡あったまる……」
とろん…♡という効果音が付きそうな程に甘い顔をするリリア。心做しか顔も赤くてほぅ…と吐く息も熱っぽい。
(うわエロ………)
こちらだって健全な男の子だ、好きな子のそんな顔見たら普通に興奮する。一度そう言う目で見てしまえば嚥下する時に動く喉仏も悴んで赤くなってる指先も色っぽく見えてくる。
はぁ、こんなこと考えてるなんてバレたら何されるか分からないし、目を逸らさないと____
「あ〜♡今志貴くん私の事やらしい目で見てたでしょ〜!えっち〜♡」
……バレた。うわ、まずい、否定しないと、まずい……♡
「べ、つに……そんなこと…」
「え〜?ホントかなぁ?私の目見て、もう一回言って♡」
「っあ♡……ぅ、リリ、ア……♡」
ぁ……しまった、まともに見つめてしまった…♡赤い瞳、俺で遊んでやろうという目……
スイッチが入ったリリアのこの目を見ると、それだけで俺の両目は彼女から逸らせなくなる。耳もリリアの声しか受け付けなくなり、身体が触れて欲しいと叫ぶ。
「……ほらやっぱり♡言えないんだ、志貴くんのえっち。」
意地悪だ、俺がこうなってしまうこと、リリアは知ってるのに。
くすくす笑いながら咎めるような顔をして甘酒を口に入れ、俺に顔を寄せるリリア。
「……?な、にを……」
「んー?ん〜♡」
「んっ!?……ん、ぅ…っふ……♡」
甘い。甘くて脳が溶けだしそうだ。甘酒の味だけじゃない。唾液も、匂いも、悪戯っぽく笑って俺を滅茶苦茶にする目の前の存在が、マトモな思考を許してくれない。
息が持たなくなって、苦しくて、でも止めたくない。このままずっとこうしていたい、けど。
ゆっくり唇が離れていく。唾液と甘酒が混ざった糸が引いて落ちるのを目が追うのを止められなかった。
「あ〜あ♡志貴くんったら、そんな物欲しそうな顔しちゃって♡……まだシたいの?」
「ぁ、シたい…足りない、もっと欲しい……♡」
口が勝手に動いたみたいに続きを強請る。俺の頭はもうバカになってしまったようで、全く働いてくれない。
「んー……ふふ。あれ?甘酒無くなっちゃった。これじゃ続きできないね?」
……本当に、リリアは意地悪だ。まるでそれが偶然みたいに言って。
「リ、リア……俺……♡」
「そんなに蕩けちゃって可愛いね♡……そ〜だっ!」
……あ。いやな、予感がする。
何かを思いついたようなリリアの顔。この顔をしてるリリアは優しくない。虐めて、煽って、弄んで、最後にとびきり甘やかす、そんな時の顔だ。
俺の顎を撫で耳元で囁く。そんな動作でさえ、触れられたところが熱を帯びる。耳にかかる息が擽ったい。
「もっと気持ちよくなりたいなら………家まで、我慢♡できるよね……?」
「ッできる♡できるから……♡」
「あは、いい返事できて偉いね♡……じゃあ、帰ろう?おてて出して♡」
来た時と同じように恋人繋ぎをする。朝は気にならなかったのに、指の細さだとかリリアの低い体温が、妙に気になって思考がまとまらない。
家に着くまで、俺は俺でいられるだろうか。