ララバイ

ララバイ




敵からの襲撃。海賊なんてものをしていれば仕方ないし、麦わら海賊団は少数精鋭ながらも強いから並の戦闘ではそうそうやられる事などあり得ないが、今回は運が悪かった。

分断と、中々に多い敵の数に一人で対処。

まだ人の身を取り戻したウタには少し荷が重いとトットムジカは思った。

初手で多くの敵をウタワールドに引きずり込めたのは良かったし、その敵の身体を現実世界で操れば数の不利も緩和する。

だが、ウタワールドでの戦闘は存外甘くない…というか、今のこの子では慣れてないところが多いのだ。

当たり前だ、今まで眠る事も出来ず現実を見続けたこの子に夢想の中での戦いを現実の戦いと並行させるなんて至難の業…現に歌い続けている顔に余裕などなく、本人は気付いてないかもだが鼻血まで出ている。

このままだと仲間の到着より先にスタミナ切れを起こす…そうなれば……


仕方ないと言いたげにトットムジカは彼女の肩から降りた。


一方、トットムジカの想像していた通り、ウタはかなりキツかった。体力を綿の身体だった時には感じなかったガリガリとヤスリで削られる様な疲労が続く。

呼吸を整えたいが歌を止めれば現実にかけている自身のバフも解ける。しかも眠らせ動かしてる敵は現在ウタワールドで対処している。

玩具にされて、尊厳を踏み躙られ続けた人生により自己肯定がまだ低く、残酷な現実に目を逸らす事も出来なかったウタにはまだウタワールドでの戦いで【自分が必ず勝つ】という感覚を完全に持てない。

更には今までした事ない並列思考と戦闘の両立は確実に自身を追い詰めている。喉と脳が焼け切れそうだった。

最早半分程無意識で歌い動き続けてる気がする。

そんな時にいきなり肩から飛び降りたトットムジカ。軽くなる肩にウタの意識はリアル側に動く。


「待って…!危な…」

「…ムー」


軽く手を振る様な動作をして、なんとムジカはウタの影に溶ける様に消えた。

え?と口にする間もなく、急に心臓が冷える様な感覚がする。

それは間違いなく負の感情。何故こんなのがいきなり…と思っていると声がした。


少し請け負う、現実は任せた


次の瞬間、ウタワールドの自分の身体が急に操られる様に勝手に動き出している感覚が走る。驚くウタだが、すぐに状況を受け入れた。

ありがとう、がんばる

此処にはいないがなにより近くにいる友達にウタは心の中で礼を言った。


ウタワールドで麦わらの一味である歌姫を相手取っていた敵達は急に影に飲まれる様に色彩を変えたウタに警戒した。

顔はまるで張り付けた様な不気味な笑み。

赤い髪は青、白い服は黒…


一体何がと身構えると急にウタ?の後ろに現れる特大のライトによる光で少し呻く。

そして次に目を開けるとそのライトで伸ばされた彼女の影から同じ様な姿のウタ?が現れるのだから驚きは止まない。


一方トットムジカは上手くいってよかったと安堵してた。ぶっちゃければ、ぶっつけ本番だったのである。

彼女自身が自分達を歌った訳でもないから当たり前だが顕現をするのは難しい…が、元々、自分達は能力者を取り込む力があるのでそれの応用だ。

これならあの子は現実に集中出来るだろう

まぁ本来の姿じゃないから光線は出せないし人の身で暴れた事もないから拙いだろうが問題ない…今の自分達にはあの子の声が少し使える。

負の感情の自分達には、あの子の様に明るい歌なんて出来やしないが…

それでもコレは


「ひとりぼっちには飽き飽きなの♪繋がっていたいの♪」


これは、あの子を守るための歌だ


「突発的な泡沫なんて言わせない♪」

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