幸福なラプンツェル

幸福なラプンツェル


・世界の破壊よりロシナンテの方に意識が傾いてるので、原作よりは割と穏やかな状態のドレスローザ

・記憶無しナンテ

・長い三つ編みのロシーが見たい

・ほんのり薄暗い


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―――高い塔の上にはラプンツェルが住む。

金色の髪をした、ラプンツェルが。


「兄上、いつ帰ってくるかな」


ドレスローザの高い高い塔の天辺にある、誰もやってこれない天蓋付きのベッドの上で、今日も今日とてロシナンテは一人ゴロゴロと寝転がる。

ロシナンテには過去の記憶がない。

なんかめちゃくちゃドジって大怪我をしたところを助けられた、らしい。

ロシナンテが覚えているのは白い世界と寒さだけで他は何も覚えていない。

けれど兄がいるから、特に何か不自由を感じたことはなかった。

そう、現に今も、ベッドの上でごろごろと転がるロシナンテに対して、兄の姿をした糸人形がちょっと呆れた顔をして、転がったせいで歪んだシーツをベッドメイキングしなおしてくれたり、ぺろんと剥き出しになった腹をそっとしまってくれたりするのを当然のように受け入れながら、今日も今日とてロシナンテはここ「ドレスローザ」なる場所にある高い高い塔の上で、のんびり過ごしている。


「兄上、いつ帰って来るかな」

「仕事でまだ暫く帰ってこれねェって言ったろ、ロシー。今日だけで何度目だ、そのセリフ」

「えー、だって兄上いないとヒマだもん。お前あそんでくんねぇし……」


あくまで兄がいない間のお目付け役である糸人形は兄の姿をした人形だと分かっているから、兄ではないから、ロシナンテは一人ぶーたれて、ちょっと拗ねてみたりする。


「はー……分かった、遊ぶぞロシー。トランプか?チェスか?オセロか?」

「ん~……お散歩したい。あっちの花畑で散歩くらい、ダメか?」

「ダメだ。外の世界は危険が多すぎるからな。ドジなお前が出歩いて、花畑を燃やされたら大損害だ」

「ひっでぇ!?おれそこまでドジじゃねぇよ!?」

「ドジだろうが。一人になりたいって言うから半日ひとりにして、天蓋に絡まって力尽きてたのはどこのどいつだ?ン?……一瞬死んだかと思ってマジで焦ったからな、あれ」


心底焦った……と唸る糸人形に、ロシナンテは、あははと笑って明後日の方向を見やった。

男として一人になりたい時間もあるんだよ!と訴えて一人の時間を勝ち取ったものの、ちょっとした気まぐれでミノムシ状態になり、おれこのまんま死ぬの……?とふて寝したのは割とつい最近のことである。

ロシナンテとて成人済みの男であるのでそこそこ腕力には自信があったのだが、繊細な布地っぽい天蓋はどうあっても引きちぎれず、藻掻けば藻掻くほど絡まり、ロシナンテを構えず少々不貞腐れた顔で現れた兄が宙ぶらりんのミノムシと化したロシナンテを見て「ロシー!?!?!?」と声を張り上げたのは、ちょっと面白かったが……心配させたので気を付けよう、とは思うロシナンテである(なお39歳児のやらかしであった)。


「あー、あれなぁ……ちょっと天蓋を蚊帳代わりに解いたまんま寝ちまったから、たまには自分でなんとかしようと思っただけなんだがなぁ……なんで絡まって宙ぶらりんになったのか、いまでもワケ分かんねぇわ。つか、おれの体重で引き千切れないあたり、すげぇな」

「そりゃあロシーの寝るベッドの天蓋だぞ?おれが編んで作ったにきまってんだろうが」

「……マジか」

「マジだが?フッフッフ、おれの愛情が籠った天蓋で蚊すらも寄せ付けねぇ万全仕様だ」

「いやそもそもこの高さまで蚊ってくるの?」

「来るんじゃねえか?」


ほへーと間の抜けた返事をするロシナンテの前で、糸人形が音もなくしゅるしゅると解けていく。

それを見たロシナンテが、おっ?と思うのと、バサバサと羽音のような音が聞こえるのは、ほぼ同時だった。

玄関と言うものの無い塔で、唯一出入りできる場所である大きく開いた窓から、ぬうっと姿を現したのは、仕事で暫く帰って来れないと言っていた兄である。

ぱぁっと笑みを浮かべたロシナンテが「おかえり兄上!」と出迎えの言葉を告げれば、同じく笑みを浮かべた兄が「ただいまロシー」と応えてくれる。


「暫く帰って来れないって言ってなかった?」

「あんまりにもロシーが暇そうにしてるから、影騎糸と入れ替わることにした。どうせ大した要件じゃねェしな。お前といる方が有意義だろ」

「そっか!へへっ、兄上がいるなら退屈しないな!」


にこにこと上機嫌に告げるロシナンテの足元で、じゃらりと鎖が音を立てる。

ベッドから降りようとして鎖でコケかけたロシナンテは、さっと手を伸ばして支えるスマートな兄に礼を言いつつ、そのままわしわしと頭を撫でられた。


「わわっ、髪がぐしゃぐしゃになんだろー」

「そんなのおれがまた手入れしてやりゃあいいだけだ。……だいぶ髪が伸びたなぁ、ロシー」

「だな。兄上が結んでくれるから邪魔じゃねぇけど、結構長いな~」


背の高いロシナンテの腰ほどまで伸びた金色の髪は、兄によってせっせと三つ編みにされているため邪魔にはなりにくいが、結んでいないとすぐに絡まるし、うっかりで踏んだり引っ張ったりしてしまう、ちょっとばかり危険な代物だ。

ドジだという自覚のあるロシナンテとしては切ってしまいたいが、どうしてか兄が許してくれない。

いまも、撫でまわしてぐしゃぐしゃになったロシナンテの髪を整えるべく、ベッドの縁に座らされたロシナンテは、器用に動く兄の指先によってするすると金糸を編み込まれている最中である。

鮮やかで柔らかな金色の髪をした兄とは違う、濃い蜂蜜にも似たくすんだ金色。

そこそこ毛量の多いロシナンテの髪を器用に束ねて、編んで、ちゃっちゃと三つ編みにしていく動きは見事以外の何物でもない。


「……兄上ってすげぇなー、おれ、兄上の手って好きだぜ。器用ですげぇもん」

「フフフッ、そうか。まあイトを操るからなァ……指先の鍛錬は怠らねえよ。色んな事を器用に出来るよう、指の動きにゃあ気を使ってるからなあ?」

「イトってすげぇなー。あーあ、おれも何か悪魔の実の能力者だったらな~……兄上みたいに頑張って使いこなすのに……」


ロシナンテのその言葉に、一瞬動きを止めて険しい顔をした兄に、動く手元を見つめ続けるロシナンテは気付かない。

足を揺らして、じゃらじゃらとやかましい鎖の存在を当たり前のように気にしないまま、これだけ髪が伸びているにもかかわらず兄の手入れによって枝毛一本無い艶々とした金色の三つ編みが出来上がるのを見守り、いつものように兄のイトで作られた真っ赤なリボンで結び目を留められる。


「そういや、こんなに伸びるくらいおれってここにいるんだっけ?」

「……ああ、そうだなロシー」

「なんでおれ、ここにいるんだっけ?」

「外は危険だからだぞ、ロシー。お前の身体にある大ケガは、外で負ったものだ。危ねェから、ここで暮らしてんだろ?」

「そう、だっけ?……うん、そうだったな!おれ、すげー大ケガしてるもんなぁ……兄上は外でケガとかしないよな?危ないから、外に行くのは糸人形に任せて、兄上は一日中おれと居ればいいのに……」

「フッフッフ!そうだな、だからおれは影騎糸の扱いが上手くなったんだぜ?お前以外にゃ見破れねえくらいに、な?」


兄と同じ見た目をし、同じ声をし、同じように動く精巧過ぎる糸人形を見抜けるのは、弟であるロシナンテだけである。

それは兄の仲間であっても見抜けない精巧さで、だからこそ、兄は度々こうして人形と入れ替わってロシナンテの元に来てくれるのだ。


「ありがとう兄上!おれ、兄上がいるから寂しくないし、暇じゃなくなるから、すげー嬉しい!」

「フフフ……そうか、そうだなロシー。安心しろ、ここは世界で一番安全な場所だし、誰もやってこれねぇ場所だ。何人たりともお前を傷つける存在はいねぇからな、ロシー……」

「そりゃそうだ!だってここは出入り口の無い塔の上だもんな!兄上以外、誰も来れねえもん。はー……なんか兄上がいるから安心して眠くなってきた……お昼寝する……」


あれだけヒマだなんだと騒いでいたのに、もそもそとベッドの中央に寝転がったロシナンテは、少しすると本当にくかーくかーと寝息をたてはじめた。

なんの警戒心もない、なんの反抗心もない、兄がいる事に安心しきった様子で寝るロシナンテに、ドフラミンゴはうっそりと嗤う。


「……いい子だなロシー、そうやっておれの言うことを聞いて生きてりゃいい。なぁんにも心配するこたぁねえ……誰にも傷つけさせやしねぇし、奪わせねぇ。おれの帰りを待っておれとだけ話しておれにだけ頼ってればいい。……フフッ、ロシーが昼寝すんならおれも少し寝るか。ロシーのお陰で、ゆっくり眠れるしなぁ……」


緩みきった顔で涎を垂らしつつ眠るロシナンテを抱きしめながら、ドフラミンゴはサングラスを外して金色の髪に顔をうずめる。

全てを管理され、それを当然として暮らすロシナンテからする匂いは酷く落ち着くもので、ドフラミンゴはロシナンテが手中に収まってから、穏やかな眠りを得られていた。

弟を得たあの日から、ドフラミンゴは悪夢を見ていない。

塔の中にはただただ穏やかな時間が満ちている。


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