ラビット小隊・残された者の足掻き
ハナコ「はい、これで今日の通常配給は終了です♥」
ミヤコ「…はい、ありがとうございます。
…RABBIT2達の身柄については今後も…」
ハナコ「ええ、ホシノさんの勅命をいただいていますので…
地下の彼女達のお世話をしていただいている間は、何もしませんよ♥
…2人の兎さんはこちらでお預かりしてますし、ね。」
ミヤコ「………はい(ギュウッ…)、内の隊員"二人"の事…よろしくお願いします。」
ハナコ(うーん、ラビット小隊の皆さんを確保している以上シラフで動いてくれるミヤコさんは動けないので現状は問題ないんですが、彼女中々折れてくれませんね…。)
ハナコ「ああそうそう。うちの砂糖を使った物ではありませんが、
最近はノットシュガーなんかも人気なんですけど、どうでしょう?」
ミヤコ「…いえ、結構です。私は配給の仕事があるのでこれで…」(タッタッタッ……)
ハナコ「いえいえ、配給自体はもう少し後ででも大丈夫ですよ♥
私、もう少しあなたとお話したい気分といいますか…♥」
ミヤコ「……分かりました、正直に言います…お花摘みです。
…恥ずかしいのでもう行かせていただきますね。」
ハナコ「あらら、フラれちゃいました♥」
(シラフの彼女を取り込むのは中々骨が折れそうです。…あの子みたい。
ここはやはり正攻法で近づいていくしかないでしょうか?
サキさんとモエさんに好みのモノでも聞いてみましょうか…
この前は見えない子とご飯を分け合ってましたし、あの辺を聞いてみましょうか♪)
(……カサッ)
アビドス生徒「…こっちはアビドスシュガー特製の…」
アビドス生徒「わー、んんん~♪、これこれ…」
ミヤコ「……はぁ、どうしてこうなっちゃったんでしょうか…"ミユ"。」
ミユ(ガサッ)「…えっ、えっと…その…げんき、出してください……私。
2人もまだ、元気そう…でした。"私の幻覚"の事も…何も言ってません、から…」
ミヤコ「…サキ…うん、そっか…うん…モエも…」(スッ、スッスッ…)
(紙を見て、ミユ…後で全部消してください。)(ハンドサイン)
「…!は、ぃ…」(次は…情報室のUSB…)
(ガサッ、サササ…)
アビドス生徒「…なんだ、あいつ?虚空に向かって話しかけてら~…いつもの事か」
ミヤコ(ふぅ、…ここで耐え忍ぶだけ…というのもきついですが…
せめて足掻けるだけ足掻いてやりましょう。)
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RABBIT小隊は陥落した。サキもモエも、抗えなかった。
私はアビドスシュガーの最初期に取り込まれ、こうして生きるだけの恥辱を受けている。もっぱらの仕事はシラフでしか出来ない仕事…
最も、今私以外に誰がシラフでの仕事が出来るかすらも怪しいが。
既に砂糖まみれのアビドスシュガーばかりの高校に小隊のみんなと来させられ、
既に被害者も加害者も分からない程に砂糖に侵された生徒が善意や悪意で
砂糖の入った料理を進めてくる。
…自分も狂ったフリをして食べるのを拒否した事すらあった。
結局私が食べられる 砂糖の入っていないまともな飲食物はハナコから受け取るか、直接自分で販売されていない所から狩るぐらいしか出来なくなっている。
完全に首根っこを掴まれてた詰みの状態まで、私は追い詰められていた…
でも、希望はまだ捨てなかった。
「 それでは今日も二人分のお砂糖、あげちゃいますね♥」
アビドス側は、もう一人いる隊員の存在を把握していない。
時折サキかモエがもう一人の存在を言ってもそんな人間は見当たらない。
正式に存在しているなら砂糖に侵されている時に差しだしている…
そういう思考の穴があったのかは分からないが、私以外の最後の隊員である霞沢ミユは私と同じく砂糖に侵されない不幸と幸運を味わう事になった。
隊員達が目の前で砂糖に侵されていくのを見ていくしかなかった私が正気を保っていられたのは、時々存在すらも忘れてしまいそうになる"あの子"が一緒に居てくれたから。
目の前でサキややモエが私達を見ながら耐えようとする所を砂糖をちらつかされて、
やがて完全に私達の事が目に入らなくなるまでになっても…
静かにゴミ箱の中で泣く彼女を見て、私が足を踏み外しそうになる度にぐっと理性を働かせて耐えた。
時々私達ですら認識できなくなってしまうミユの難儀な体質は、
皮肉にも彼女と…そしてアビドスで狂いそうになる私を救っていた。
サキやモエが日に日に変わっていくのを見てしまった後、
夜に誰もいない廃墟の中で体育座りして涙が零れそうな時は
いつの間にかゴミ箱の中から出ていたミユが一晩中、私の手を握っていてくれた。
ほとんどいないシラフの生徒であるアビドス幹部の生徒から私は裏切らないかと警戒されているらしく、最近は毎日自分への食事や飲み物の提供…と称した監視が来る。
そのため最近はほぼミユとのコミュニケーションが取れない。
ハンドサインかモールス信号でしか会話がほぼ出来ない。しいて言うなら幻覚をみているフリをして誤魔化すか…ミユにはとても寂しい思いをさせてしまっている。
…ハンドサインをミユが正確に出せているか、それを確認して
ミユがまだシラフである事を確認するためでもあるけど…正直心苦しい。
ミユには私が配給で貰ったご飯や水を一部あげているけど…ちゃんと食べられているか、隊長としてそんな言葉すらかける時間がないのがとてももどかしかった。
それでも何とか戻れる希望を抱き続けたのは、最近耳にしたアリスという生徒や
救護のために動く生徒達、それに…先生の存在を耳にしたから。
そして何よりも…サキも、モエも…"RABBIT4"の事を漏らしていない事をミユの口から知った。
なけなしの希望を振り絞ろう。そう思った私は数少ないミユとの会話でこう提案した。
"RABBIT4、RABBIT小隊として…そして、一個人として。
最後まで私と…サキと、モエと…足掻いてくれますか?"
この時ばかりは肝が冷えた。もしもミユから拒否されたらと思うときゅっと心臓が痛くなった。
"うん、頑張る。"
…数秒後、出されたハンドサインでそんな気持ちは跡形もなく吹き飛んだ。
作戦は続行できる。
…RABBIT小隊は負けない。少なくとも、私達二人が諦めるまでは。
何とか先生やまだ頑張る生徒に、少しでも私達が知っている事を伝えよう。
「…先生、サキ、モエ。私達…負けませんから。」
(私も…ちょっとだけ、頑張るね。)
誰もいない筈なのに、最後の独り言に誰かが答えたような気がして。
私はくすり、と小さく笑った後にその声が聞こえた所に手を振って、
今日も地下の彼女達に食事を届けに行く事にした。