ヤンキー学パロ時空バズユゴ(モブ視点)

ヤンキー学パロ時空バズユゴ(モブ視点)


「この学校で一番カワイイ女子は誰か」と聞かれれば、大抵の男子生徒は『E組のクイーン・オブ・ビッチ』ことバンビエッタ・バスターバインと答えるだろう。

だが「この学校で一番美しい生徒は誰か」と聞かれれば、殆どは我らが生徒会長ユーグラム・ハッシュヴァルトの名を挙げるのではないだろうか。

「あ、あの。頼まれていた部活動申請の一覧です、先輩」

「ご苦労。そこに置いてくれ」

生徒会室の机に座ったまま、ちらりと上目遣いで見上げる仕草すら恐ろしいほど絵になる。風になびく金髪に透き通る白い肌、瞬きする度に音がしそうな睫毛で囲まれた翡翠の瞳。成績優秀かつ品行方正、理事長の覚えも良いと評判の完璧超人がそこにはいた。

とはいえ、隙の無さすぎる存在に人は近付き難いものである。俺は生徒会の雑用をしている関係で一般生徒よりはハッシュヴァルト先輩と接する機会が多いが、それでも彼を前にすると萎縮してしまう。…なのでバレンタインに彼宛てのチョコを山ほど託されるのは勘弁してもらいたい。

「おいユーゴー!俺の申請した『他校交流部』が承認されてねぇってどういうことだよ!」

そんな中、彼を躊躇なくあだ名で呼ぶ恐れ知らずの不良生徒が一人。

「……校則の穴をついて他校と堂々と喧嘩がしたいだけだろう。ウルキオラから『俺はこんな部に入ったつもりは無い』と報告があった」

「あのヤロウ裏切りやがったな…!だから生徒会メンバーを頭数に入れるのは反対だったんだ俺は!」

モヒカン頭に悔しそうに手を当てる男──バズビー先輩は、ハッシュヴァルト先輩とは別の意味で遠巻きにされる生徒である。彼の髪型を笑った者は全員病院送りにされただとか、『護廷高校のキレた赤パイン』と河原で殴り合って友情を築いたとか物騒な話は絶えないが、面倒見が良いというか兄貴気質なので慕う人間も多いようだ。俺のような陰キャは怖いのでなるべく関わりたくないが。

そんなヤンキーが生徒会長とつるんでいるというのは本校七不思議の一つだ。バズビー先輩が何かと喧嘩を売り、それをいなしつつも拒絶はしないハッシュヴァルト先輩という奇妙な光景を生徒会をしているとよく目にする。ちなみに七不思議の内他の一つは、どう考えてもカタギには見えない10年ダブってると噂のコヨーテ・スターク先輩(3年)だったりする。

「なぁ、今度のゴテコーとの決闘にお前も来いよ。あの石田雨竜も出てくるって話だぜ」

「…それを聞いて何故気乗りすると思ったんだ…」

「んだよ、生徒会長同士で決着付けたくねぇのかよ」

こんな風に、まるでハッシュヴァルト先輩が喧嘩が強いような言い方をするのも不思議だ。あの傷一つ無い細指はペンより重いものは持てないだろうに。


──なんてことを思い出したのは、風邪を引いて倒れた彼の家に、キルゲ先生からの課題(アウフガーベ)を届けるという大役を俺が任されたからである。

先輩の家は一度だけ見かけたことがある。朝にこの街でも有数の屋敷の門から出てきた彼の姿は、まさしく貴公子という形容が相応しかった。お伽噺の王子様は実在するのだと感心したものだ。

「…あれ。でも、この方向ってあのお屋敷と違うよな。先生に聞いた住所だと…」

目的地──今にも壁が崩れそうな古い二階建て木造アパートの前で、俺はしばらく確かめるようにウロウロしていた。だが表札に名前を見つけ、戸惑いながら軋む外階段を上がりインターホンを押した。

「……君か。すまない、手間を掛けたな」

果たして、ドアの隙間から姿を見せたのは間違いなくハッシュヴァルト先輩だった。普段から白い顔色が一層青ざめていて、より儚い雰囲気を感じさせる。

「……これ、先生からの……えっと、先輩の家って、向こうのお屋敷じゃ…?」

聞くべきでは無いかとも思ったが我慢できなかった。だって、あの完璧な生徒会長がこんなボロアパートに住んでるなんておかしいだろう。幻滅するにも程がある。俺の言葉で先輩の緑の瞳が僅かに揺らいだ。

「……いや、違う。あそこは──」

「おいテメェ。そこで何してる」

強い力で肩を掴まれ思わず悲鳴を上げる。バズビー先輩が冷たい光をたたえた目でこちらを睨み付けていた。

そのまま俺を玄関から引き剥がした先輩は、慣れた様子でドアの中を覗き込む。

「…チッ。やっぱりあのジジイ、またお前を放って酒飲みに行ってるのか」

「…仕方ない、だろう。最低限の生活費は貰っているし、この程度の風邪なら」

「だからそういう態度が気にくわねぇんだよ!あぁもう面倒だ、タクシー呼ぶぞ!ウチ来いユーゴー!」

叫びながら携帯を取り出すバズビー先輩に、ハッシュヴァルト先輩が珍しく慌てた表情をする。

「バズ!迷惑を掛けるわけには」

「前に熱出した時も泊まっただろうが。どうせ部屋なら余ってるしちょうどいいんだよ」

それに、お前のことを迷惑だなんて思うやつはウチの家族にいない。もしいたら俺がぶん殴ってる。

「……バズ」

「あぁ全く、ただでさえ健康な時も辛気臭い面してるってのに。ほら、リンゴ買ってきたから剥いてやるよ」

そう呟いて部屋に入ろうとして、バズビー先輩はようやく俺の存在を思い出したような顔をした。手が伸びてきて胸倉を掴まれる。アパートの外壁に押し付けられ、ハッシュヴァルト先輩に聞こえない低い声が耳元で囁く。

「お前が何をどう感じようが知ったことじゃねぇ。ただ、アイツを見下したり憐れむような真似をしたら俺が必ず潰す」

……俺はガクガクと頷き、足をもつれさせながら階段を降りた。


逃げるような帰り道、例の屋敷の前を通りかかって唐突に理解した。この街有数の名家ブラック家。それはあの先輩の名字じゃないか。

どうして気付かなかったのかと思い返し、あぁそうか、と納得する。

いつも凛として無機質な生徒会長が唯一柔らかな声で呼ぶ、『バズ』の名の印象が強すぎたせいだ。


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