ヤマトリョナ

ヤマトリョナ



ぼくは今日、あの『光月おでん』の公開処刑を観に来ていた。

おでんは今から半刻程前処刑されたが、彼の最期は凄かった。

家臣達を支えながらたった1人で釜茹でを請負い、

全員無事に逃してみせたのだ。

おでんの亡骸が沈んでいるであろう釜の中では

今も高温の油が溶岩の様に煮えたぎっている。

あんなに熱そうなのに、おでんは耐え抜いた。


カッコよかった。


ぼくもいつか、あんな偉大な侍みたいに…






「お、おい、この角…もしかしてこいつ…!」

「あぁ、例の『鬼姫』だ…‼︎」


「え?え?」


いつの間にかぼくの周りには大勢の町民がいた。

みんな鬼みたいな形相をしている。





「てめェの親父のせいでおでん"様"は死んだんだ!!!」

「みんな!このガキをブチのめしちまえェ!!」

「で、でももしカイドウにバレたら…」

「あのデカブツならついさっき何処かに行っちまったじゃねェか!そうすぐには戻ってくるまい!」

「そうだ!カイドウの娘をフクロにすればおでん様も浮かばれるに違いないッッ!!!」


皆口々に怒声を吐いている。

大勢の人間が怒鳴ってるせいで訳がわからないが

ただ一つだけ理解出来た。


ここに居たらマズイ


ぼくはこの場から逃げ出そうと…


「フンッッ!!」

「ガッ!?」


何か硬くて重たい物が後頭部に叩きつけられ

そこでぼくの意識は途切れた




「……おら!起きろクソガキ!!」

「イデッ!?」


深い眠りに落ちていたヤマトの頬を鉄拳が突き刺さり

彼女は強制的に叩き起こされた。

ヤマトは、殴られて腫れた頬を撫でようとするも手足を動かせない。


彼女の両手両足はそれぞれが屈強な大男に押さえつけられており

完全に動きを封じられていた。

いくらカイドウの娘でも、大の大人複数人に羽交締めにされていては

振り解く事など出来ない。


「は、離してよ!みんなぼくなんかに用は無いでしょ!?」


8歳の幼子といえど、この状況が危険な事はすでに理解出来ていた。


周りには般若の形相の町民達。

その手には武器が握られている。



…いや"武器"というよりは"凶器"と表現した方が正しいのだろうか。


ノコギリ、トンカチ、ヤットコ、ノミ…


「ね、ねぇ…なんでみんな、そんなモノ持ってるの…?」

「なぁ、まずは"どこから"いく?」

「そうだなぁ…おれならやっぱりあの角だな」

「な、なんの話してるの…?」

「やっぱそうだよなァ、偉そうに生やしたあの角!」

「つ、角がどうしたのさ!ぼくの角は別に変なとこなんか…!」

「カイドウみたいで気に食わないと前々から思ってたんだよ」


怯えるヤマトが周りに声を掛けるも、その質問を無視して

何やら意見を纏めていく町民達。


町民の1人がヤマトの左角にノミの先端を押し当てた。

もう片方の手には無骨なハンマーが握られている。


「ちょ、ちょっと!やめてよ!!この角は飾りじゃないんだよ!?つよく叩かれたら痛みだってあるし…‼︎」


町民達がこれから何をしようとしているのか気付いたヤマト。

取り乱しながら命乞いするも、周りは聴き入れない。

男はハンマーを高々と振り上げた。


「動くんじゃねぇぞ?狙いがズレちまうからな」

「やめて…お願いだから…」


ヤマトは目に涙を浮かべながら助命を乞う。




だが非情にも、ハンマーは勢いをつけてノミのかつらを叩く。



ノミの先端が深々と角に突き刺さった。


「ッ ッ ッ ッ ア゛ア゛ア゜ア゜ァ゛ァ゛ァ゜ッ ッ ッ ッ ッ ッ!!?!!?!!!!」


牛の角には大量の神経が通っているという。

ヤマトの角にも牛同様に神経が詰まっており

それを鋭いノミが直接傷つけたのだ。

その痛みは想像すらしたくない。


今までの人生で経験した事すらない激痛を味わった彼女は絶叫を上げる。

その際に無意識に覇王色が放たれたが、

「ワノ国の未来の将軍を奪われた」という怒りを糧に精神を保った者が多く、

その場にいた内の半数も気絶しなかった。


「い、い゛だいよぉぉぉ…お゛父ざん…たずけでぇ…」

「こんのガキ…‼︎何かしやがったな…!?」

「ヒッ…!」


覇王色に耐え抜いた男は更に怒りを激らせ

間を開けずにガンガンとノミを叩きつけまくった。



数分後、ついに左角はポキリと真ん中辺りで折れた。

その真下には鰹節の如く角の削りカスが散乱している。


「アッ…ア゛アッ……オトウ…サン…」


既に息も絶え絶えのヤマト。

だが彼女の地獄はこれで終わりではない。


角を折って良い汗を流した男は一旦退き、

今度は女町民が前に出てきた。


女町民の傍には目に包帯を巻いた男が立っている。



「あんた達が放った"毒矢"のせいでうちの主人は失明したんだ…!その償いはしっかりして貰うよッ!!」


女町民はヤットコをヤマトの右目に当てがった。



「ハァ…ハァ…………え?」


角の痛みも忘れ、ヤマトの顔はみるみる青褪める。

次に受ける拷問は片角の比ではない。


「ぼ、ぼく…毒矢なんて知らない…!」

「知らないッッ!?ぶざけんじゃないよこの小娘がァ!!!」

「ギィッ!?」


怒り任せにヤットコをヤマトの右目に突き込む女町民。


ヤットコの先端が眼球と眼窩の隙間にねじ込まれる。

この時点でヤマトの右の視界は真っ赤に染まり、

痛みを感じた眼球がギョロギョロと踊っていた。


女町民は強い力でヤットコを握り締めた。

ブチリと嫌な音がヤマトの眼の裏側からするも間髪入れずに

ヤットコを引き抜いた。


「ッッッッゥ゛ッ゜ッッッ゜ッッツッッッ!?!!?」


最早ヤマトの悲鳴は悲鳴にすらなっていない。

ヒゥと空気の通り抜ける様な音が限界まで引き絞られた喉から漏れ出ただけであった。

全身がガクガクと震え、口の端から血が流れる。

よく見ると袴の股の辺りがべっとりと濡れ、地面には温かい液体が滴って水溜りを作っていた。



血塗れのヤットコの先端には、潰れた白玉の様な球体が挟み込まれ、

そこから真っ赤な紐の様なモノがぶら下がる。

ヤットコを掲げながら女町民は"ソレ"を周りに見せつけた。


沸き立つ歓声、よくやったという賞賛の嵐



晴れやかな笑顔で退場する女町民と入れ替わる形で別の男が近づいてきた。

その手には錆びついたノコギリが握られている。


男は何も言わずにヤマトの右足の太腿にノコギリの刃を当てた。

足に何かが当たった感触でヤマトは残った方の眼をノコギリの方に向けるも

痛みで疲労困憊状態のヤマトには声を出す気力すら残ってない。


男はノコギリを引いた。


「グゥゥヴゥ……ッッ‼︎」


悲鳴というよりは呻き声

ノコギリを押したり引いたりするごとにブチブチと肉と血管の千切れる音が鳴り、

その度にヤマトは呻く。


コツンと硬い物に当たった感触がノコギリの柄に伝わった。

すると男はノコギリを動かすスピードを加速させ

ギコギコとヤマトの大腿骨を寸断していく。




数分もすると右脚は太腿の辺りから完全に切断された。


男は戦利品よろしく右脚を掲げ、再び周りから歓声が沸き起こる。

カイドウの娘をこれでもかと痛め付けた事で町民達は満面の笑みだ。





「……ぼくはおでんだ」


顔から血の気が失せているヤマトがボソリと呟いた。

その途端町民の笑顔も失せる。


「…………今なんて言った?」

「ぼ…ぼくは…おでん、そうだ…ぼくはおでんなんだ…」


「だ、だから……こんな事される訳ないんだ…だってぼくは……この国の…しょ…しょうぐん…」


各部位が欠損した事実から現実逃避し続けたヤマトは

ついに「自分はおでんだ」という妄想に浸り始めた。


幼子なりに心を保つ為の、所詮は妄言


しかしその妄言は町民達の感情を再び逆撫でた。


「あぁ、そうかよよく分かったぜ、……全く反省してねェようだな」



ひとりの男がヤマトの胸元をはだけさせる。


別の男が刀を携えながら近づいた。



「ぼくはおでん…ぼくはおでん…ぼくは」

「そんなにおでん様になりたきゃしてやるよ」


男が刀を構えた。






「だけどおでん様に乳房はいらねェよな?」


刀が煌めきながらヤマトの胸元を撫でる様に駆け抜けた。






百獣のカイドウがおでんの処刑現場に戻ってきたのはそれから数十分後のことであった。


〈〈おわり〉〉


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