モンキー・D一家の日常 “頑張れミライちゃん”①
皆さんこんにちは、モンキー・D・ミライです。
突然ですが皆さんは地獄のような光景って見たことあるでしょうか?
ああ、そんな戦場とか虐殺とかそういうガチなやつじゃなくて……こう普段の生活ではお目にかかれない様などうしようもないカオスなやつです。
断言します。今日起こった事件は私の人生の中で過去類を見ない、カオスな出来事と……
「姉ちゃんどうした?なんか目が死んでるぞ?」
「……マスト……私疲れたよ……」
つい現実逃避してリスナーもいないのに‘皆さん’なんて説明思考してた。
────
その日、私たち家族は夕飯を済ませてリビングで談笑していた。
食後のおやつにとママがシャーベットを作ってくれて私もそれを堪能してる時、事件は起きた。
「ウタァァァ♪!!!」
バタァン!と玄関の扉を乱暴に開け放って……いやリフォームしたばっかなんだから乱暴に開けないでよ。
ともかく、突然パパが家の中に入って来た。
「どうしたのルフィ!?今日は船の皆と戦勝宴あるから帰れないって──むぅ!?」
ママが驚いて説明を求めるが途中で口を塞がれた、パパの唇で……ぇ、何やってんの?
「ぷは!ウタに会いたくて抜け出して来た!ししし」
「ふぇ……あ、そう、なの……」
あーもういきなり熱烈なキスするからママも女の顔になっちゃって……てか年頃の娘の前でするなディープキス。
てか何かパパの様子がおかしいような……いや、バカップルなのは今更だけど、何か顔が火照ってる?お酒飲んだにしてはテンションも変だし……。
「よーしお前達、父ちゃんからのお願いだ。ちょっと散歩してきてくれ5時間くらい」
……は?
私たちが呆けている間に、パパはママをお姫様抱っこして……え!?
「ちょちょちょ!ルフィ!?なにを言って!?」
もちろん突然のパパのお願いにママは赤面して抵抗する、まぁパパの力に勝てるわけなく私たちの方へ助けを求めた。
「ミライ!ちょっとパパ止めて!なんか良いような悪いような予感が!?」
「えーと……うん、今日私たちサニー号にお泊りするね♪ママ頑張ってー♪」
「ミライィィィ!!?!?」
そのままママは笑顔のパパにお持ち帰り(物理)されて寝室へ。私は弟と妹たちを連れて外に出ようとする。
5時間もナニするんだろうね!ミライ子供だからわかんなーい!!!(怒)
夜の冷えに風邪ひかないように下の妹たちに厚着させて家を出た。
スケッチブックを取り出して、筆を揮う。
「なぁ姉ちゃん、父ちゃんと母ちゃん何かあんのか?」
「そうじゃなーい?」
「お姉ちゃん、お母さんなんか慌ててたけど大丈夫かな?」
「大丈夫じゃなーい?」
「……ママとパパ、何か儀式でもやるの?」
「するんじゃなーい?」
「パパは何かすごい悪い笑顔してたね」
「そうだねー」
「ねぇね……大丈夫?」
「大ー丈ー夫ー」
マストからセカイ全員に質問されてるけど、ちゃんと答えられてるか疑問だ。
てか私が一番困ったわ!突然パパが帰ってきたと思ったらママをゲットして私たちの目も気にせず寝室へ持ってくって……
え?パパって羞恥心ないの?無かったわ。
「セカイ……妹か弟がお家に来るとしたらどっちが良い?」
「え?………妹!」
「おれは弟!」
つい現実逃避してセカイにそんな質問しちゃった。そこで巻き起こる妹欲しい弟欲しい談義。
ライトは一番下の男ってのが嫌なのか弟を、マストはどっちでも良いみたい。
ララは儀式仲間欲しいのか妹、ムジカは音楽一緒にやりたいって感じだからどちらでも、セカイは何となくで妹。
……私?……さぁ今更どっちでもねー?。多分私が高等部に上がるころにはもう2,3人出来てるかもねー、ママすごーい。
とまぁ、サニー号へ泊りに行こうと能力で出した空飛ぶ絨毯に弟たちを乗せて出発。
マスト暴れるな、落ちるぞ。ララ呪文呟かないで怖いから。ライトは月歩したいとか言わない、あれは特殊な訓練が必要なの。
ふと横を見ればムジカはセカイと歌を歌っている……
「「どうして~♪あの日遊んだ海の~♪匂~いは~♪」」
「どうしてー……あの二人は本当~ああ~なの~?」
「「どうして~♪すぎる季節に消~えて~♪しま~うの~♪」」
「どうしてー……滾る熱をおさーえてーくれなーいのー?」
「「お姉ちゃん?」」
「はっ!?」
私ったらつい心の中の愚痴で替え歌を!?ぅぅ、しくじった。
ママの歌を汚した罪悪感とこうなるのも仕方ないよねという肯定感がせめぎ合う。
何とか下の弟たちが落ちないよう安定して飛行させて、パパの船であるサニー号を目指す。
遠目にライオンヘッドの海賊船が見えてきた……改めて思うけど、海賊船にしては可愛いのよね。
弟たちが『ついたー』と燥ぐが、私はもう早々にマストとライトを男部屋に突っ込んで、私も出来ればナミさん達のいる女子部屋かパパの部屋(船長室)に入って妹たちと一緒に眠っちゃいたい。
でも多分まだ宴をしてるんだろうなぁと思い、甲板に近づく……
「……ぇ?」
そこで見た光景は……凄惨たるものだった……。
「おらぁ!がっぷりだぁ!」
「負けるかぁ!ぜぇぇい!」
なぜか、パンツを捩じって褌みたいにしてるゾロさんとジンベエさんが相撲を取っており、その横で息を切らして倒れてるウソップさん。
「ヨヴォフォフォフォフォフォ!!!いけぇ!ゾロォ!おどれに賭けたんじゃぁあ!!」
それを見て変な応援してるブルックさん……口調がとんでもないことになってる。
「お、お前ら……よく恥ずかしくないな」
なんか甲板の隅っこでシーツに包まってるフランキーさん……え、誰?。
女子部屋の前で鼻血を出して気絶してるサンジさん。
……なにこれ?地獄かな?
とんでもない状況に陥ってるサニー号を見て、あの元気が取柄のマストも絶句。
他の弟や妹たちも何が起きてるの?といった顔で戸惑っていた。勿論私も。
半ば放心状態になっている所へポテポテと独特で小さな足音。
「うぅぅ、ミライィィ……手伝ってくれぇぇ」
チョッパーさんが半べそかきながら、私の足元まで来た……。
「ねぇ、チョッパーさん。何があったのこれ?すごい状況なんだけど……」
「実は──」
~~~~~~
その日、麦わらの一味はとある島で自分たちに喧嘩を売ってきた大物海賊団、その名も‘大食らい海賊団’と戦闘が起きた。
船長は9億100万ベリーと高く、激戦は必須だと思われていた。
だが、そこは海賊王の船。頼れる味方と力を合わして難なく撃破。最後は敵の船長が土下座して白旗まで振るという事態に。
ルフィとしては海賊としての戦闘が終わり相手が戦意喪失したならそれ以上追い込むことは無く敵の逃亡を許す。
だが、そのすぐ後に一隻の商船が近づいてきた。
「いやー!流石は海賊王!まさかあの‘ドカ食いのヴォーク’をあっという間に倒すとは!」
どうやら先の海賊に襲われそうになり、逃げていた所をたまたまルフィ達の船が通り、大食らい海賊団は海賊王の船と見るやいなや襲い掛かってきたという。
意図的で無いにしろ助けてくれたことには変わりないということらしく、商船の船長は笑顔でお礼の言葉を述べる。
「おかげで金品とかも奪われずに済みました。皆さん、良かったらですがどうぞお受け取りください!」
鼻の下の髭がウネウネと動く個性ある顔した商船船長(名前はヒンナーという男)から人間5人は入りそうな大きな袋を渡される。
「え!?なにお宝!?」
「おい、奪われずに済んだのに渡したら意味ねぇだろ」
ナミとウソップの漫才にヒンナーは苦笑して、袋の口を開ける。
「こちらは私共が手掛けている商品の一部、主にグランドラインの珍味でございます。肉や野菜、どうぞ皆さんでお召し上がりください!」
「おほほほー!!やったー!」
これには船長を筆頭に皆喜色の顔で感謝する。
ルフィは大食いだ、この船のエンゲル係数を爆上がりさせる男。金銭面や食糧事情の問題からこういうお礼は有難いものだ。
見たことない鳥やら植物があるが商人が用意したものなのだ、きっと満足できるものだろう……。
「さぁて、これだけあるんだ。少しだけ豪勢にいくか……図鑑に乗ってないやつもいるなぁ。まぁ毒性は無いから大丈夫だとは思うが」
キッチンにて捌いた肉をサンジはタバコの火を消しながら吟味した……一応魚の皮と肝(一番毒を持つ所)は取り除く。
野菜は商人があれだけ押すんだ。似ている毒性の植物ではないだろう。
鶏肉も何ていう鳥かわからないが、かなり火を通したしまず自分が味見すれば大丈夫だろう。串に刺して一口食べる。
「うん、大丈夫だな。これで出来あがるまで何も無ければあいつ等にも出せるな」
それから下処理を続けていき、大鍋に新鮮な野菜を入れて煮込んでいく。
袋の底にキノコがあった。これもまた見たことないやつだが丸々と大きく、食いごたえがありそうだ。
「これは塩を振って炙るか。毒性は……無いだろ、大丈夫大丈夫」
勘の良い者ならここでサンジの発言に『ん?』と首を傾げたことだろう。
「あとは新鮮な野菜があるな、ナミさんとロビンちゃん向けにサラダにしてみるか」
「白菜みたいなやつは大きめにカットして昨日の残りの鶏肉と味噌で煮込めば」
流れるような動作で調理を続けてくサンジ……ここで鍋を確認。
「火が通って来たな、よし肉をぶちこむか……。あとは肉の赤色が取れたら完成だし。船長もうるせえから持っていくか、まぁ美味いなら大丈夫だろ」
そう言って器用に鍋とサラダと大皿に乗せた串焼きを外の甲板に持っていく。今日はお宝発見と戦勝祝いで外で宴をしようとなったのだ。
……ところで、先ほどからサンジが楽観的だと気付いたろうか。それもそのはず、最初に味見した鶏肉……‘ラッカン鳥’は食べた者の頭をその名の通り楽観的にする効果がある。
本当なら適切な下処理をすればその効果も無くなる筈なのだが、初めての素材でそこまでサンジは把握していなく一般的な毒性の検査と自分の舌と腹を使った毒見で済ましてしまった。
故に……料理の素材のほとんどを毒性が無いからと大丈夫大丈夫と調理を進めてしまった。
甲板に出された料理の数々、それを見て仲間のテンションは最高潮。何せ食べたことのない珍味だらけなのだ。
酒のつまみにキノコや串焼きを食べるゾロ、それにならいルフィもがつがつと食う。
白菜と鶏肉の味噌煮込みをまずフランキーががっつき、ナミとロビンは前に置かれたサラダを舌鼓。
ジンベエは先の商人から貰った酒をブルックと共に飲み。
ウソップは鍋の肉の火加減を見て、もう良いだろうと口にする。
「おお!!うめぇ!!」
鍋の肉に十分が火が通りその味に感嘆するウソップをそれを見て仲間達はどんどんその鍋に箸をつけてく。
だが一人だけその料理に躊躇していた。
「…………あれ?」
船医であるチョッパーは違和感を抱いた。皆は気づかないが自分だけはわかる……匂いが何か変。
嗅いだことはないが、どこか料理の匂いにしては少し臭みがある……人ではなくトナカイだからわかること。
なんだろうと思い見れば、ゾロとルフィが食ってるキノコ……
「あ!」
それには見覚えがある。キノコに関してちょっとしたトラウマがあるため誰よりも勉強したので直ぐにわかった。
すぐさま食べるのを止めようとしたが……もう遅かった。ほとんど完食されてしまった。
「ゾ、ゾロ……ルフィ、何ともないか!?」
「あ?どうした」
「なんだチョッパー、お前も食いたかったのか?おーいサンジおかわり!うめぇなこのキノコ!」
普通の反応が返って来てチョッパーは思わずあれ?っと続く言葉が引っ込んだ。
「おい、ぐる眉ついでに酒追加だ」
「うるせぇマリモだな。肉も持ってくるから少し待ってろ」
「なーにそう邪険にすんな。いつもうめぇ飯作ってくれてんだ。これでも感謝してんだぜ」
……
…………
「「「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」」」
天変地異の前触れだろうか……一味のほとんどが今のゾロの発言に驚愕の表情をした。
中には驚いたエネルに近い顔の奴もいる……その中、チョッパーは遅かった!とおでこに手を当てた。
「……マリモ、どうした?……いやお前誰だ?」
「ああ?なに言ってんだ。ふざけてねぇで速く行けよ」
「ええ????」
さっきの発言は幻聴だったのか?と一応キッチンに戻ろうとするサンジ。その時、チョッパーはすぐさま医務室へ向かおうとするが
「ぐあはははは!!おうチョッパー!そう急いでどこ行くんじゃ!小便か!?」
「ヨホホホ!ヨヴォフォフォ!チョッパーさんも飲んでください!無礼講ですよぉ!」
なぜか二人に引き留められた。いきなり樽ジョッキに酒を注がれそれを無理やり飲まされそうになる。
「ま、待て!俺は一回医務室へおぼぼぼ!」
魚人と骨の力でぐびぐびとやられチョッパーは何がどうしてと思うが、その原因はすぐにわかった。
「美味いなぁ!この酒!のうブルック!」
「はーい!和の国製ですかねぇ!スイスイ行けますし、鍋にも会いますねぇ!」
商人から貰った酒‘親父の心’……マニアでも知らない珍酒の中の珍酒。この酒、晩酌でひっそりと飲む分には美味い酒なのだが、宴のテンションで短時間で煽ると……
「いむしつ?いい!いい!そんなのは‘むし’しろ!つってなぁ!ぶはははは!」
「ヨヴォヴォヴォ!!く、くだらない!!ヨヴォヴォヴォヴォ!!」
このように下品なオヤジ化する。
これはいよいよマズイとチョッパーは人獣形態、人型形態と変化して何とかこの場を逃げ切った。
「…………」
「おう、どうしたルフィ?」
肉を頬張るウソップはふとルフィの変な様子に気づいた。さっきまで肉を食ってた船長が少し悩ましい表情をしている。
「ウタに会いてぇ」
「は?」
なーにをいきなりセンチメンタルになってんだと彼の肩を叩いて、鍋の肉をよそってやる。
それを見てルフィも少しテンションが戻った。この心の変動は気になったがまずは肉を食おうと思う。
それに続いてゾロとジンベェも良い匂いがする鍋を堪能する。
フランキーはどこか心が落ち着かなかった。
「どうしちまったんだ俺様は?……」
なぜかわからない、わからないが……無性に
「恥ずかしい!!」
羞恥心が沸き起こる。普段の彼なら絶対に言わない台詞であろう……彼は突如男部屋の方へ走っていく。
鍋をつついた仲間の一部はなんだ?と思ったが、まぁ新しい奇行かなとその場を流した。
「……暑い」
ナミは食事を続ける中ふと身体に火照りを感じた。
「ナミも?」
隣で胸元を開けて手で顔を扇ぐロビンも彼女と同様に火照りを感じた。これはいったいどういうことか?
「寝室に果実水あったわよね取りにいくわ」
「私も行くわ」
額から汗をかくロビンの後を追うようにナミもついていく。
「しっかしうめぇなこの肉」
ガツガツと鍋の具材頬張るルフィ達。それにうんうんと同意する仲間、サンジの持ってきたおかわりの具材も箸が進む。
サンジはナミとロビンが部屋へ戻るのを見て何か氷とか持っていこうとキッチンへ戻ったらしい。
鍋を囲う男達、その時ふとブルックは服の袖で目を擦る……目は無いが
(なぜでしょう?……ウソップさんが色っぽい?)
何かのフィルターでもかかったのか、ウソップの目つきや唇、肌の質感に色気が増している。
ウソップは水を一口飲んで
「なぁ、ルフィ……お前、結婚してから良い男になったよな?」
「……よせよ」
そう誉めればルフィは麦わら帽子を深く被って小さく呟いた。
(可愛い)
(可愛い)
(可愛い)
「そういうお前こそ、体つきが逞しくなったろ」
褒められたお返しにというわけじゃないが、ルフィがニヤニヤとウソップを指さして言えばウソップもその気になりポージングをする。
「そうか?おうどうだゾロ!」
「おう確かに前よりは良く──おっと」
その時、ゾロの着流していた服がはだけた。酔いが回ったのか上半身がそのまま露わに
(この剣豪……スケベ過ぎる!)
ウソップは自身の何倍も凝縮された筋肉を持つ男の身体に魅了されてしまった。
鍋の具材も少なくなってきた。全員腹は満たされ幸せだ……だがなぜか身体の火照りが収まらない。
この高揚感をどうすれば良いのだ、どうやって解放すれば良いのだと各々が水を飲んだり横になったりする。
その時、もう我慢ならん!といつも着流してた和服の上部分を腰の所で結んでジンベエが立ち上がる。
「お前さんら!相撲を取るぞ!」
((((なるほど!そうか!!))))
そして始まってしまった男共の相撲大会。ウソップとブルックは速攻やられてしまい、ルフィとゾロが組み合った。
「おうし、お前とぶつかるのも久々だな!この勝負負けるわけにいかねぇ」
「ししし、ゾロォ!昔みたいにナミが止めることはねぇからな!いくぞ!」
ふと思い出したのはウィスキーピークでぶつかった時の勝負。あの時はルフィの早とちりが原因で起こり、ナミが二人をぶん殴って止めたが今回は思いっきりぶつかることが出来る。
そして離れた所でブルックとジンベエが酒を飲んでウソップが二人に話を持ち掛ける。
「おうどっちが勝つか賭けるか!」
「乗った!!ワシはゾロじゃ!1万」
「私もゾロさんに!1万」
そしてお互いが懐にあったベリーを取り出して、ウソップは笑いながら自分も出す。
「よーし!俺はルフィだ!1万!」
これで俺は倍返しのオッズだなと確認して、勝負の行方を見守る。
純粋の筋肉量だったら船で一番鍛えてるゾロが有利だが、その天性の運動能力と野生の感で粘りを見せるルフィ。
お互い一番付き合いの長い仲間だからか負けられないと意地が出る。
「海賊王を負かしたってなりゃ箔もつくだろ!」
「やってみろ!俺が勝ぁぁつ!!」
どこか覇王色でも漏れてきたのか空気がビリビリと震える。どっちが勝つかと観戦すれば……ふとゾロが笑う。
「どうした?やっぱ嫁との相撲に夢中だから腰に来てるか?」
「な!?お前──」
「隙ありぃ!!!」
ルフィが怒りの顔でゾロの方へ向いた瞬間内側の足を取られた。上手投げの要領でゾロはルフィの身体を地に着ける。
「くっそぉぉぉ!!やられた!!」
「「っしゃぁぁあ!!」」
ブルックとジンベエはガッツポーズしてウソップは項垂れて甲板に倒れる。
チョッパーは医務室からあれをこれをと道具を用意して、様々な薬を調合する。
何やら甲板が騒がしいが速く作り終えて持っていくしかない。
漸く作業が終わり医務室から出たが
「遅かったかぁ!」
男達はなぜかパンツを褌みたく履いて騒いでる。チョッパーは確信した。
あの鍋の肉……‘ムラムラッコ’というラッコの肉が原因だ。このラッコの肉を食べたものは身体が火照りだし何とも言えない高揚感を増して、つい普段はしないような行動に出てしまう。
本当なら脂身を取り除いたりと専門的な下処理とか必要なのだがサンジが‘ラッカン鳥’を味見してしまい、大丈夫と思ってそのまま鍋にぶち込んだのだ。
そのせいで男達はあんな汗だくで相撲大会なんてものを開いている。
そして、自分の横でブシャア!と何かの液体が勢いよく噴出する音が響いた。見れば女子部屋の前でサンジが目をハートにして鼻血を垂れ流して倒れてしまった。
何があったとサンジの前にある扉の窓から部屋を覗く。
「ああ!ロビン!そこぉ……」
「ふふ……ナミってば、可愛い♪」
二人の嬌声が部屋中に響く。下着姿で二人は何やら密着して……
「あ!いたたた」
「けっこうこってるわね」
マッサージをしていた。ロビンが上からハナハナの能力も使ってナミの背中に親指を当てて押し込み、ナミはされるがままに項垂れる。
どうやら二人も先のラッコ鍋を食べて身体火照りどうにか解消しようとしてるのだろう。男達程食べてないからそこまで酷くはなっていないが
「ねぇまた汗かいたわ、ロビンシャワー浴びよ」
「そうね、一緒に行きましょ」
なぜか手を繋いでシャワー室へ……仲良過ぎでは?と思うがこれは彼女達が最初に食べたものが影響している。
‘ユリユリ草’一般的な食用百合よりも希少で上品な味わいを持つ野菜。これを食べた女性は仲の良い同姓の友人との距離間が物凄く近くなるという不思議な植物である。
ナミとロビンは普段から仲が良いのにそれ以上となるともうそういう関係では?と思われても仕方ないと思う程、きっとサンジは下着姿でくんずほぐれつに近い光景を見てしまいこうなったのだと思われる。
まぁサンジは輸血だけしとこうと点滴を打ってパックに繋げる。
「お、おおチョッパーか……何か外騒がしいなぁ」
なんか気弱な声……聞き覚えはあるが本来その声の主にはありえないなよなよしたもの。
「フランキー?……どうしたんだお前」
見れば男部屋から顔だけ出して様子を伺うフランキーの姿が……
「?……ええ!?お前どうしたんだ!……いやきっとお前も何か食ったんだな!」
チョッパーが訝しんで近寄れば驚愕なモノが見えた。なんとフランキーが下半身を頑なに隠してるのである。
男部屋にあったであろうシーツを頭から被り、腰の周りを囲うように結んでいる。普段の彼なら絶対しない奇妙な(いや常識的なのだが)行動である。
「とにかく、お前が食べたものを確認したい。ちょっと一緒に来てくれ!」
「え、そんな……ちょっと、スーパー恥ずかしい」
「良いから来いよ!!!」
これにはチョッパーも苛立つ。無理やり腕を引っ張って甲板へ降りてった。
下った先ではジンベエがウソップと相撲をしているが、後回しにしてフランキーのいた場所を確認する。
そこには器に盛られた白菜の味噌煮。持ってきた図鑑と照らし合わせて、これだ!とチョッパーは確信した。
‘モジモジ白菜’名前の通り食した者の羞恥心を引き上げてしまう物。食べる量にもよるがその羞恥心の上がり具合はかなりのもの、何せあのフランキー(変態)がここまで恥ずかしがるくらいなのだから。
治療法としては水分を取って体の中の副反応成分を薄めるしかないなとチョッパーはフランキーに大人しくしててくれと頼み、もし他の仲間が暴れ出したら止めて欲しいと頼む。
「…………」
チョッパーが次に向かうのはルフィ達のいるところ、図鑑で確認した通り恐らく‘ムラムラッコ’が原因であろうと思い煎じた薬を皆に飲まそうと近づく。
「……………………」
ルフィは先ほどのゾロの言葉が頭に残ってた。『嫁との相撲』これはまぁそういう意味であろう、いや別に怒りが残ってるわけじゃない。
さっきから身体の火照りが止まらない……今頃彼女はどうしてるだろうか、きっと子供たちと楽しく飯でも食ってるんだろう。
会いたい気持が強まる……今すぐこの腕で抱きたい、唇を貪りたい、身体を重ねてお互いの熱を感じ合いたい。
そう決めたルフィの行動は速かった、チョッパーがなぜか目の前にいたから『悪い、俺一回ウタに会ってくる』と言い残してそのまま船からベルカントの方へ飛んで行った。
「ええええぇぇぇ!?!?!?」
まさかの船長離脱。なぜ急にと思ったが思い当たる節はあったのだ……あのキノコだ。
‘デレデレダケ’というキノコは食べた者の心にある素直な気持ちをさらけ出す。毒はなく寧ろ食用としてお勧めするくらい美味いのだが、如何せん副反応を取り除くのに面倒くさい下処理をする必要があったのだ。
そう、ルフィはあのキノコを大量に食べたせいで、急激にウタに会いたいという気持ち(デレ)が膨れ上がったのだ。それも‘ムラムラッコ’の肉の影響もあり、雄としての欲望も合わさったのだから手が付けられない。
ちなみにゾロもけっこうの量を食べたので普段なら絶対に言わないサンジへお礼の言葉を口にしたのだ。
どうしようとチョッパーは口が空いたが、呆けてる場合じゃない。自分はこの船の医者なんだと奮い立ち一味全員の治療へと奔走する。
…………だけど
「みんな大人しくしてくれぇ!!」
男共は相撲に忙しいし見てる奴は賭け事、酒で親父臭くなって面倒くさい絡みをしてくる。
女性陣は自分を抱き着いて離さないと抱き枕代わりに寝ようとしてくる。他の皆を止める筈のフランキーは小さい制止の声をかけるだけで役に立たない。サンジは気絶中。
どうしようもないカオスな状況に……チョッパーは泣きたくなった。
~~~~~~