モブ男×キャスター(後編)

モブ男×キャスター(後編)



男は内心舞い上がっていた。

以前から時折、目に留まっていた。

細く折れそうな肢体、気怠げながら鋭い瞳は

近寄り難さをはらみつつ、美しく整っていた。

誰も気づいていないのだろうか、だとしたら実に勿体無い。

誰も手を出さないのならば

いっそ私の手で乱してみたい

そう思いながら見ていた


そして今、土御門との交渉の果てについに、キャスターに自身の欲望をぶつける機会得たのだ。


ただ、相手は強力な使い魔であるらしい。

いかに細身な男であろうと、全力で抵抗されれば普通の人間が敵う相手ではない。

そこで、土御門に術をかけさせた。

男の相手をさせる準備をし、抵抗する力を削ぐ一石二鳥という奴だ。


「ハァ…………ァ………」

重く、苦しげに吐息が漏れ、掠れた声が溢れる。

行燈一つの薄暗い部屋。中央に敷かれた布団の上にキャスターは寝かされていた。

「ァ…ぁ……………」

果てた余韻のせいか

目はうつろ、細い身体は脱力しきり、惚けたまま、今も収まることのない熱に浮かされている。

「先ほどの乱れ様、悪くなかった」

声のした方へキャスターが視線を向けると、先程の男が立っていた。

「なかなかの仕上がりだな」

男のにやついた顔から自身へ向けられた欲望を感じ取り、キャスターの白い顔からさらに血の気が失せていく。

「お、まえ、は…」

「驚いたな、まだ正気が残っていたか」

男は意外そうな顔をしつつ、そんな計算外の事態すらも楽しみの範囲しかないという表情で笑った。

「私は今宵一晩、土御門からお前を買ったのだ。盈月の儀において重要な使い魔だと聞いたが、こうも簡単に手に入るとはな」

マスターが自身を売り渡した、そう聞いてもキャスターに動揺は無かった。

あのマスターならば土御門家再興のためにはどんな手段も辞さないだろう。

それは良いのだ。その執念こそ儀を成功させるために必要だ。

しかし、だからといって自分の身体をこの男に好きにさせるのは死んでもごめんだ。

「ハッ、僕の様な男を買っただと?余程の物好きか、あぁ、相手になる女もいないのか、哀れなものだな」

「威勢がいいのも良いがな、そのような態度ではこちらも加減ができなくなってしまいそうだ。それともそれを望んでいるのか?」

相手を煽るだけに終わると分かっていても何か言ってやらないと気が済まない、この口だけが今、キャスターの持つ唯一の武器だった。

「ぁ…く、るなッ、ぅん、ッ、ぁっ!」

真っ直ぐに近づいてくる男からなんとか距離を取ろうともがくが、それがかえって快感を引き出してしまう。

「その身体では逃げられないと、分かっているだろう?」

頬に伸ばされた手に反射的に顔を背けるが、

顎を掴まれ、強制的に男の方を向かされてしまう。

太い指が頬をねっとりと撫で上げ、男の手は顔、首、脇腹とキャスターの体を下っていく。指で肌を摘み、擽る度にピクリと反応する体を楽しんでいる。

「ッ、っ、あ……!」

指の動きと同時に首筋を喰む。鎖骨から首筋、耳の付け根、耳裏までを舌先が辿り、

口布の中まで舌が侵入し、舐る。

「ゃっ……め、ろ…」

そうされるたびに体の表面が炙られるようだ。

一通り軽く触れると、男の指先はキャスターの腰紐を解き、既に幾分かはだけた羽織をずらし、脇差を抜くと丁寧に下衣を刻んでゆく。

「ッ………」

雨で冷えた空気に晒された身体がぶるりと震え、総毛立った肌をゆっくりとキャスターの体の線をなぞるように男の指が滑っていく。

「ふぁ、ぁあ、ぅ、や、んん……ぁう」

ツンと立ち上がった乳首が目に入り、それを指の腹で捏ね上げる。

キャスターがビクリと身体を震わせた。

そのまま円を描く様に胸全体を揉む。

「…ふっ、……んんっ」

口布を噛んでいるのかくぐもった息が漏れる

その様子に気を良くしたのか男は乳首を口に含んだ。唇の先で吸い上げ、舌で舐めながら転がす。身を捩って逃れようとするキャスターを押さえつけ、乳首を噛む。

同時に脇腹を撫で上げるとその度にキャスターの腰が跳ね、喉を反らせた。

「ンンーーー!?」

胸元を撫で下ろす指が下肢に至り、熱を持たぬ自身に指を絡められた事に気づく。

根本から擦り上げられ、布を噛み締めていた口からも力が抜けていく。

「ひぁ、ぁ、や、っんんっ……!」

気づけば男の指先は再び胸を弄りはじめており、昂る熱は留めようもなく、キャスターは達してしまった。


元より人に触れられることを不愉快と感じる性であり、さらに訳も分からぬ状況で欲に晒され、快楽を与えられるなど屈辱にもほどがある。

「……ゃ……め、ぇ…」

か細い懇願を受けても男が身を引くことはなく、白濁をまとわせた指先が秘部へ滑る。

そのまま浅く潜り込み、くちくちと指先だけを動かして慣らしていく。

「そう嫌がらずとも良い、ここまで感じているのだ。すぐ良い目を見せてやる」


あぁ、やめてくれ。こんなこと識りたくはない、触れられたくない。


男の指はそのままゆっくりと深く沈められる。

内壁を撫で上げられ腰が跳ねる。死ぬほど嫌だというのに内側をゆっくり開かれていく感覚にぞくぞくと身体が震える。

「ゃ、ぁ、いや、だ………ぁあッ‼︎」

男の指先がある一点を掠めた途端、内壁が収縮し、まるで強請るように腰が揺れてしまう。

「そうか、そうか、ここがイイか」

しこりの様になっている部分をくちゅくちゅと緩慢に掻きまわしながらも、単調な力で圧し、捏ね突き、たまにその穴の具合を観察するようにぐぱっと指の股をひらいた。

「んぁ、ぁあっ、ぁっ、やッ、め」

男にのしかかられているため、快感で全身が反る度に己の意思と反して男に体を擦り付ける体制になってしまう。

「嫌がっておきながら何だ?この様は、随分と感じているようが?」

クツクツと笑いながら、さらに指をバラバラと動かして内壁を混ぜる。

「ぁ、ッ、ァ、や、ぁっ、あぁ……」

「頃合いか」

内壁を強く掻きながら、指が抜き去られる。

「んぁっ」

余韻の中、必死に息を整える。

男が袴の帯を解き始め、まさかとは思ったが、これから何をされるのかは容易に想像できた。

脚の間に入り込んでくる男の体を動かせる限り全身を暴れさせ脚をバタつかせ、蹴り付けるが、力の抜けたそれでは大した抵抗にはならなかった。

「このように細く、か弱いようではどう抗おうとも無意味というものだぞ」

にたにたと笑いながら男は身体を密着させる。キャスターがおぞましさに身を竦ませ、ぎゅっと目を瞑ると、耳元で男が囁く。


「女子と変わらぬではないか」


その瞬間、不確かで曖昧で、歪められてしまった自分の存在、それを正したいという願いを思い出して、恐怖と屈辱の合間に怒りが込み上げてくる。

「ッいやだ、やめろ!僕に触れるな!!」

ーーーなぜ僕が、こんな目に合わなければならない。僕はこんな事のためにここにいる訳ではーー


バシッ!!


途端頬が張られた。

「喚くな」

もう一度頬を張られ、キャスターの視界がぐらりと揺れた。

「今更暴れても無駄というものだ。手間をかけさせるな、土御門の使い魔風情が」

男は舌打ちをしながらも、少々の興奮を覚えた。抗うのを組み伏せるのも悪くない。

キャスターの脚を持ち上げ、熱を孕んだ自身を入り口にぴたりと付けると、キャスターは小さく悲鳴をあげ、全身を硬直させた。

「ッひ、あ……」

ぐちゅりと秘部を押し開き、身体の奥まで

熱を押し込まれる。

「や、抜、け…ぐッーー!」

懸命に身を捩り、抜こうとする。

それを逃すまいと、キャスターの腰を掴み

ごりゅ、と内壁を轢き潰すように深い場所を抉られる。

いくら拒絶し、耐えようとも既に熱に侵されきった身体の反応までは止められず、

ぐちゃぐちゃと奥をかき回されるたび

上体がピクピクと跳ねた。

「ぁ、ひッ、ぅ、ぁ、っ、ぁ、ぁあッ!!

ぁ、やめ、ろ、」


不意に口布が外され、美しい素顔が晒される

男は知る由もないが、キャスターの口は日ノ本の歴史を初めて紡いだ、ある種の神秘性が宿るものだ。キャスターも普段から晒さないそれを暴かれた。

「ん゛んッ」

キャスターは驚きと同時に思わず酸素を求めて大きく開いた隙に男のナメクジの様な舌が侵入する。

「んぅ、や、ァ、やめ、ァッ、んん゛!」

キャスターの懇願など意に返すことは無く、好き勝手に口腔内を掻き回しながら、胎内を激しく突き始めた。

「んんッ……!」

キャスターの足が布団を掻く。

ろくに逃れようもない舌が絡め取られ、吸い出される。

その動きの激しさに呼吸を忘れ、意識が遠のきかけた。

自然と胎内が締まりが強くなり、男は腰の動きをはやめた。

「くッ……ふッ、ぅ、ッン"ン"、んぐっ、

ンッ、んんぅ、ん、ん、んーーーーー!」

どくどくと熱い精を胎内にそそがれ、男の陰茎を最奥に擦り付けられる。その感触でキャスターも軽い絶頂を迎えた。

ようやく口が解放され、透明な糸が伸びる。

「ハッ、あ、ハァ、ァッ、んぁっ!」

ずるり、と身体に埋まっていた熱を引き抜かれた。

脱力しきった身体ではもう抵抗できないと判断したのか、男はキャスターの腕を縛っていた縄を解いた。

縄や涙の跡、行為の熱に浮かされたせいか

キャスターの白い肌がほんのり赤くなっている。

反抗的な態度も悪くないが、ぐずぐずに溶かされ、夢とも現とも分からなくなっている今の姿も悪くない。

男は達したばかりだというのに、既に勃ち上がったそれをぐっと、強くキャスターの身体に押し付ける。

キャスターはゆるゆると頭を振りながら、自由になった腕を懸命に動かして拒絶を示す。

「っ、い……や、も、……いや、だ」

しかし最早苦痛とすら言える快楽に侵された身体では力など入らず、男の嗜虐心を煽るだけに終わってしまう。

抵抗虚しく、両手はすぐ頭上に抑えてつけられてしまった。

身体はとうに限界を迎え、到底許容できない快楽にのまれ、今にも意識が途絶えそうだったが、それは許されなかった。

「まだ終わりではないぞ、幾らでも時間をかけて嬲ってやる。ハッ、一晩だけでは味わい尽くせぬな」

笑いながら荒い息を吐く男を見ないように目を瞑る。

入り口に熱いものが当てられ、再びゆっくりと侵入してくる。

だが先程の激しさはなく、同じ箇所で小刻みな抽送が繰り返された。

緩慢で弱い振動では決定的な刺激が得られず、もっと、と思ってしまう。

「どうした?腰が揺れているぞ」

キャスターは首を僅かに動かすのみで、大きな反応を示さなかった。

つまらぬ、と舌打ちをし、男は一度自身をキャスターから抜き去ると次の瞬間、一息にキャスターの体を貫いた。

「ッ〜〜〜!?、が、ァ"、ひ、ぁああ"ッ」

一気に最奥に到達し、キャスターの意識が引き戻しされた。

「ぁ、も、っ、やら、あっ、いやだ、ゃァ」

「何が嫌なのだ?ん?」

もうやめて欲しいと思うのに身体は期待している。もっと欲しい、滅茶苦茶にされたいと望んでいる。

「しら、な、こんなッ、ぁあ"ッ、いや、

あぅっ、もう、いやだぁあッ、こんな、ぁ、しりたくな、い、ァッ、あ゛あ゛ぁ゛!!」

内壁を削るように何度も何度も、抜いては最奥まで穿つ動きを繰り返していく。

何度目かも分からない絶頂を迎え、キャスターから放たられる白濁は透明に近いものになっていた。

「ひぐ、ぅ………ぁ、ぁあ、ゃ、ぁっ、ぁあ」

達しているにもかかわらず、男は腰の動きを止めない。

「ぁ゛………っ、は、………や、アぁ」

視界が白く霞みはじめ、ついにキャスターの意識も沈んでいった。




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「期待以上だったぞ、土御門。」

「恐れ入ります。」

キャスターのマスター、土御門泰広は平伏しながら答える。

自ら選んで召喚し、これまでの準備を共に進めてきたサーヴァントだからだろうか、キャスターを差し出す事には僅かな抵抗感を覚えたが、今回の交渉はそれなりに満足のいくものに思えた。



泣き腫らし、閉じられた瞼

目を覚ます気配は無く

薄い胸が僅かに動いていることを確認しなければ、死んでいるのではないかと思う程、キャスターは深い眠りについている。

サーヴァントは通常、睡眠を必要としないが

無理もないだろう、気を失ってからも男はキャスターの身体を貪り続けていた。


土御門は万が一の事態に備え、男がキャスターとの行為に及んでいる最中も隣の部屋に控えていた。

隣から響いてくる悲痛な声に思うところはない訳では無かったが、キャスターを差し出し、交渉に応じた自分が何を今更、と思うと結局何もできなかった。


キャスターを差し出した事は悪手ではなかった、、はずだ。

だから、哀れだなどと思ってはいけない。

その様な迷いは儀を進めるのに無用な感情だ。

それに自身を昨夜の様な目に合わせた人間からの同情など、かえってキャスターを逆鱗に触れるだろう。


「ん」


そう考えている間にキャスターが目を覚ました。

目覚めたキャスターは事が全て終わったのだと理解したのか、なんとか起きあがろうとするが、上体を支えるのが精一杯ですぐに倒れ込んでしまいそうだ。


咄嗟に土御門が手を伸ばしたが、キャスターが僅かにビクリと怯えた様に震えるのを見て、一瞬の迷いの後、手を下ろしてしまった。

起き上がるのは諦めたのか、再び布団に倒れ込む。

口布を外されている事に気づき、布団を口元まで上げて警戒する様に周囲を見渡す姿は、手負いの猫を連想させた。


「身体の具合はどうだ」

「いいと思うのか?」


話すのも辛そうな掠れた声で聞き慣れたの皮肉が返ってきた。

「僕は…何も、気にしていない。お前は儀の事だけ考えていろ。僕も僕のしたいようにするだけだ。」

そう一方的に言い放つと、頭から布団を被り

そっぽを向いてしまった。


「………その通りだな、今日は無理せず休め」

キャスターが一瞬何か言いたげに布団から顔を出したが、もう話すのが辛いのか、元の体勢に戻る。


自分の口から思いがけず発された言葉に驚きながら、土御門は部屋を後にした。


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重い鈍痛で目が覚めた。

まだ陵辱が続いているのではないかと恐る恐る周囲を見渡すが、あの男はいないようだ。

代わりにマスターである土御門の姿を認めた。

土御門に弱った姿を見せる事に抵抗を感じ、

起きあがろうとするが、腰に鈍痛が走り、力が入らない。

横から伸ばされた手が昨夜、自身を押さえつけてきた男の手と重なり、思わず身が竦んでしまう。


それを皮切りに抱かれた感覚が蘇り、身体を掻き抱き、土御門に背を向けて布団に潜り込んだ。

特に意識せずに、何とかいつもの様に会話を

続けていると


「………その通りだな、今日は無理せず休め」


普段の土御門からは他人を思う様な言葉は出てこない。あるとするなら弟の隆俊に向けてくらいだろう。


この男の口から、そんな気の利いた言葉が出るとはな…


土御門の言葉に虚をつかれたせいか、不快な感覚が少し遠のき、布団に潜っているせいだろうか、ほんのり暖かい感覚を覚え、キャスターの意識はゆっくり遠のいていった。


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