モブと経産婦鰐 事後

モブと経産婦鰐 事後


油断した、というのは間違っている。警戒心はあった。ただ、ほんの一瞬だけ緩んだ心の隙を突かれたというのが、正しいのかもしれない。

「アンタ、孕んだことあるだろ」

下衆な声で、下衆な表情で、そう言われた。感情が沸点を超えると、怒りではなく冷めていく気持ちになると分かった。自分よりおそらく遥かに弱いであろう男を、すぐに萎びさせるという手が取れなかったのは、紛れもなく失敗であった。


犯されたのは一回だけだ。射精すれば、どんな男も隙はできる。海楼石さえあれば能力者を弱体化できると高を括っていた男は、クロコダイルにそう言って手枷を嵌めた。左手のないクロコダイルにとっては、鉤爪を外され、先が無くなった腕に手枷を嵌めても意味はないが、海楼石であるだけで十分に拘束できる。だが男は、王下七武海に名を連ねた男の力量をどうしてか侮っていた。他の海賊には劣るが、クロコダイルにも、石でできた枷を壊すくらいの力はあったのだ。


寝心地の悪いベッドの上で、うつぶせのまま、クロコダイルは意識を飛ばしていた。子供を産んで以来、久方の交尾は、お世辞にも良いものでは無かった。気持ち悪さと吐き気が込み上げる中、我武者羅に腰を振る男が胡散臭い声でこんなことを言う。

「へえ、ガキの頭ひねり出した割にはいい締まりしてんじゃん」

「……ぁ、ん、ぐぅッ……」

「やっぱり、一番奥突かれると思い出しちまうの?子宮に種付けされた時ンこと」

「ッお゛、」

「なんか、意外だよなッ……アンタみたいな男がよォ、腹ん中でガキ育てて、殺さねえで大事にして、そのケツから産むなんて、なアッ!!」

その辺から記憶が無い。気づけば男は物言わぬ木乃伊になっていたので、どこかで海楼石の手枷を壊したのだろう。注がれた精液は後孔の縁をなぞりながら、重力に従って太腿を伝い、そのまま垂れていく。


精液と、汗と、涎で染みになったシーツを今すぐひっぺがえしたい気分になりながら、クロコダイルはベッドを降りた。早いところ体を清めて、葉巻を吸いたかった。髪も乱れたままだ。余計なことを、と舌打ちが漏れる。

安宿のシャワーは、なかなか丁度いい温度に落ち着かなかった。熱湯と冷水が交互に肌を打つ感覚が鬱陶しい。噛み締めていた唇から流れる血の味が充満して、クロコダイルはタイルに向かって赤い唾を吐いた。


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