メビウス チャラ男 3
メビウスの部屋は、彼女の生来の性格と激務、そして連日の自慰のせいで散らかっていた。
「メス臭い部屋だな」
男は嘲ると、反論される前にその臀部に爪を食い込ませる。顔を顰めるメビウスに荷物のなかにあった道具の一つを手渡しながら話を続ける。
「今日はこっち使うから、ちゃんと洗ってこいよ」
「…こっち?」
彼女の明晰な頭脳が弾き出したその意味。それを否定するかのように問いかける。しかし、その答えは何ら間違っていなかった。
「なんだアンタ、わかんないのか?」
男は鷲掴みにしていた尻を離し、代わりにその割れ目に指を這わせる。
「っ…!あなた、本当に馬鹿じゃないの」
屈辱と絶望で身を震わせながら、せめてもの反論を繰り出したが、それはなんら効果のあるものでは無かった。臀部を思い切り叩かれ、それに顔を赤らめながら浴室に入るメビウス。度重なる調教はその体からいつもの余裕や冷笑を奪い取っていた。
「っ…」
細い風呂場で1人、メビウスはしゃがみ込み、必死に自らの肛門を洗っている。男から渡された、小さなポンプ型の洗浄器具。傍らの湯おけに貼られた生ぬるい湯。ポンプでそれを吸い上げ、その細い管を菊紋に差し入れて中へと流し入れる。そうして、すぐ後に再び外へ流れ出るそれが透明になるまでやる。どうあがいてもなれることはないであろう作業。本来あり得ないルートから水が這い上がってくる事への違和感と警告で体は反射的にこわばり、手は震える。何より、好きでもない男のために、肛門を洗い、性交の為に差し出そうとしている現在の自分の姿が、メビウスには耐え難いものだった。それに加えて。
「ふっ…ぁっ…」
(本当に…馬鹿じゃないのっ…)
その下腹部─前回調教された子宮の近く─には小さなピンクの卵のような物が2つテープで貼り付けられていた。それはいわゆるローターと呼ばれているもので、その微弱な振動はその体を絶頂に導くことはなかったが、確実に快楽を蓄積させていた。
もどかしい快楽と、未知への恐怖、相手への怒り。彼女がそれを抱えながら、屈辱的な作業をようやく終えた頃。それを見計らっていたかのように、風呂場のドアが空き、すでに裸になっていた男が姿を表す。彼女はこういった事も考えて、そちらの方を向いて洗浄をしていた。その顔が上を向く。2人の目が合う。
「…私が行くまで待っているという話だったけど。とうとう我慢も出来なくなったのかしら」
男を睨みながら吐き捨てる。しかし相手にはあまりダメージは入っていない。
「あんまりアンタが遅いもんでね。まあ後は躾だな」
そう言って、彼は手に持った端末を操作する。ほぼ同時に、メビウスにつけられたローターが強く震え始める。
「…!あなた、それ…っ」
先程見せた冷徹な瞳は一変し、その目尻には半ば本能的な涙が浮かぶ。しゃがんでいた体勢から尻餅をついて、足を閉じる間もなく愛液を吹き出した。「おいおい、もう濡らしてんのか。そのローターは低周波だから刺激自体はそこまで強くない筈だけどな」
そう言いながらも、男は端末を操作して振動の強さを上げる。それに呼応して彼女の体は何度も震える。崩壊と同程度に憎んでいる相手に向かって、見せつけるかのような絶頂。その情けない表情や痴態を一通り楽しんだ後、男はメビウスの片腕を掴んで強引に引き上げる。
「それに、こっちの具合も見ておきたいしな。ほら立て」
そうして次は腰を掴み、投げ出された上半身を支えるためにメビウスは反射的に前方の壁に手をつく。両足を震えさせながら、娼婦のような姿勢で尻を突き出した。ひんやりとした感覚が腰を襲い、その臀部の間の穴へローションが垂らされていき、その直後に男のゴツゴツとした指が入っていく。
「う……んっ」
先程のローターが絶頂に導くことのないものだったならば、その指で気持ち良くなどならなかったのだろう。しかし、今は違う。先程体を襲った絶頂の余韻は、自らの肛門を弄る異物に対して、痛みとは違う感覚を与えていた。
「感じてるのか?」
「そんなわけ…、ないでしょ…っ」
その言葉とは裏腹に、メビウスの股からは絶え間なく愛液が溢れていく。それを面白がるように、男は指を2本に増やして腸内をかき混ぜる。
「あ……っ!ふぅ……ッ!」
「ぁ……っん……」
そうして始まった肛虐の中で、彼女は自分が徐々に壊れていく感覚を自覚していた。しかしもうそれを止めるだけの理性は彼女には残っていなかった。男が肉棒を突き入れるとそれに合わせてだらしなく蕩けた嬌声を上げ、引き抜かれるとそれを非難するかのような切なげな声をあげる。その様に男はますます興奮し、自らの欲望をぶつけるように腰を振った。
「ぁ……っ!あぁっ……!……だめぇっ……」
メビウスの頭の中が快感で塗りつぶされていく。すでに彼女は腸内への刺激だけで何度も絶頂を迎えていた。そして─その時は訪れた。男が一際強く腰を突き出した時、彼女は自らの肛門を激しく収縮させて大量の潮と腸液を吹き出した。肛門が締まった事による快楽を味わいつつ、男は腸内に精液を注ぎ込んだ。
「うぁっ……!あぁっ……!」
男が射精するのと同時に、メビウスはまた絶頂を迎えた。既に3度も絶頂させられた彼女の体には疲労が溜まりきっていた。しかし。
(まだ、前の、穴…)
ローターで機械的に虐め抜かれた子宮が疼き、まるで発情期の雌犬のように精液を欲していた。それを読み取ったかのように男は肉棒を引き抜き、今度は性器の割れ目に合わせる。反射的にメビウスの腰が大きく震え、その脳内は下品な望みで染められた。
(はやく、はやくっ)
まだ硬さと大きさを保っているそれを凝視していることに、彼女自身は気づいているだろうか?男の顔がその耳に近づいて、囁く。
「これから研究のことなんて考えられないくらい犯してやるよ」
その言葉が、堕ちかけていた彼女の心を刺した。父親のために崩壊と戦うと決めたこと。今まで積み上げてきた研究者としてのプライド。色々なものがそこから溢れ出て、メビウスの頭の中から快楽を拭い去っていく。
「…かえって」
「なんだって?」
「帰って!貴方みたいな人間に憐れまれるほど私は堕ちてないわ!」
突然激昂し始めた相手を見て、男は少し困惑していたようだったが、すぐにまた下卑た笑みを浮かべ、帰り支度を始めた。
「…まあそういうことなら仕方ないか。強姦してもアレだしな。まあ契約通り金は払う。それに─」
その浅黒い手がメビウスの顎を掴む。
「まあ、全裸で土下座でもすればまた抱いてやるよ」
「─帰って頂戴」
いつもの通り冷酷に、彼女はそう吐き捨てた
薄暗い部屋の中。山積みになった書類に囲まれながら、その主たるメビウスが打鍵音を響かせている。男との関係に溺れている間、目を通せなかった実験結果やその関係書類。隈のできた目で文字を追う彼女は、何かを振り払うように作業をしていた。
(そうよ、あんな事に嵌りそうだったのがおかしかったのよ。本当に、阿呆らしい─)
言い聞かせるように心のなかで呟く。しかし、現実はそうもいかなかった。
「─っふ」
少し腹に力を入れただけで、その子宮が締め付けられ、下着を愛液で濡らす。あの一夜で堕ちきった肛門は単なる排泄にすら快楽を見出していて。
「ちがう、ちがう、こんなの─」
今ですら、気を許せば手が性器に伸びてしまいそうだ。しかし、いくら自慰で絶頂したとしても満足に程遠いのは、今までの経験が示している。自らの体をここまで変え、しかもあのような─彼女の誇りを愚弄するような言葉を吐き捨てた男にメビウスは烈火の如き怒りを感じている。だが、それが乾いた絵の具のように剥がれ落ちて行くのを彼女は感じている。では、それが全てボロボロに削げた時─。
メビウスの心の中にある本当の姿がわかるかもしれない。そしてそれは、彼女本人が一番恐れていることだった。