メタ宗時空清長産パラド妄想
本日のスケジュール。檀クロト、地方でマイティアクションのイベントに出演。檀シロト、試作ガシャットのテストのためCRへ。帰宅は明日になるだろう。檀正宗はいつも通り社長室にいる。
俺は幻夢コーポレーション所属のバグスターだが明確な業務を与えられているわけではない。ふらっと現れてデバッグの手伝いをしたり、CRへ届け物をしたり、気ままにやっている。今日の仕事は社長のお世話だ。我らが檀正宗社長は一人になると寝食を疎かにする悪癖がある。
いつも一緒の双子が丸一日会社を空ける日は少ない。だから今日は大切な日。猫っ毛をダメもとで整え、グラファイトやラヴリカが見れば怒るだろうベージュとグレーだけのコーデを纏う。人間みたいに袖を通すんじゃなく、ポッピーピポパポでお馴染みコスチュームチェンジだけど。
「正宗、そろそろ昼ごはんだぞ……っと」
準備をした俺は、バグスターらしくワープでデスクの近くに飛んだ。正宗はヘッドセット(マイティのとんがり頭をデザインしたコラボ製品)を付け、画面に向かって何やら話しかけている。オンライン会議なら普通の黒いヘッドセットを使うはず。趣味全開のデザインで顔を出すのはCRとの連絡、あるいは……
『見えますか、社長? 通天閣です。無事大阪に着きました』
「ああ、見えるよ。あとでソルティもそちらに向かうからね」
『お土産にチーズケーキと肉まん……こっちでは豚まんでしたか。たくさん買いますね。ソルティに出来立てを持たせます』
「楽しみにしているよ」
正宗はメタモンバグスターを膝に乗せ、新幹線で関西へ向かっていたクロトと通話中だった。イベントの話はそこそこに土産のリクエスト、観光地のリストアップなど、ほとんど旅行だ。各地のお土産を出来立てのまま一瞬にして持ち帰れるのも、バグスターを多く雇用する幻夢コーポレーションならでは。明日には紙袋をたっぷり抱えたソルティが見られるだろう。
膝を占領するメタモンバグスターは十年前、自身が属するゲームのシステムそのままに、正宗とのタマゴを見つけやがった。そこから生まれたのがクロトとシロト。不思議な形だけど仲のいい家族だ。
「……来ていたのか、気づかなかったよ。君もクロトと話すかい?」
正宗が顔を上げた。ありがたいお誘いだが今はダメだ。
「──いや、俺はいい」
正宗の家族はクロトとシロト。それを実感させられるたび、ちり、と心が焦げる。
俺の宿主。宝生清長……かつて仮面ライダーだった男の記憶が、時折俺を侵食する。
清長には子供が、現在は研修医かつCRの仮面ライダーである永夢がいる。なのに正宗を好いていた。仲間じゃなく、恋愛の方で、清長は正宗が好きだった。
『じゃあそろそろ、迎えが来ますので。……パパ、お仕事頑張ってね! シロトにもよろしく!』
「そっちこそ、頑張って……よし。待たせたねパラドくん、用事はなに?」
「大したことじゃない。昼飯、どうせ忘れてるだろうから、教えに来たんだよ」
近づいてみれば正宗のネクタイが解けかかっていた。社長室だからって気が抜けてんじゃねえの、と締め直してやる。首元を晒すことに躊躇いがないのは、信頼されているということでいいんだろうか。
ヂッ、とノイズが走り、モノクロがかった記憶。今より痩せた正宗の首に、赤い痕や歯型がいくつもある。すまない、恭太郎くんが昨日……と微笑む正宗、清長はそれに対して怒りを抱くはずなのに、心はこれっぽっちも震えない。
「……正宗」
「パラドくん?」
「なんでもないよ。社員食堂とデリバリー、どっちがいい?」
「何にしようか。近くにラーメン屋ができたそうだし、たまには外食も……」
ドライバーの副作用で感情が鈍った清長は、凪いだ心を誤魔化すように正宗を抱いていた。俺が覚えているのは壊れたみたいに笑い泣きする正宗の顔とか、濡れたシーツが肌にへばりつく触感とか、客観的にも得られるものばかり。気持ちいい、苦しい、辛い、嬉しい──そういうのはちっともない。清長は何も感じられなくなっていたから。
だから今、外へ出ようとする正宗を閉じ込めたくなるこのドロドロも、感じられなくなればいいのに。
心を出さないようにするのがこんなに苦しいなんて、知りたくなかった。
「いいじゃん、ラーメン。スーツに飛ばすなよ?」
「幾つだと思っているんだ」
「だってアンタ、こないだはラヴリカのジャケットにミートソースつけただろ」
「……そうだった。気をつけよう」
みんなが幸せに、たまにバカやって生きてる今が、清長の望んだ未来のはずだ。
俺は清長の願いを受けたバグスターとして、この平和を守らなきゃならない。