メタ宗時空Vシネ妄想

メタ宗時空Vシネ妄想


「飛彩……飛彩……私だ、君の父の灰馬だ……気づいてくれ……」

 虚ろな目で鏡に話しかける若い男。服装だけがやけに大人びている、と言えば聞こえはいいが、有り体に言うと老けている。それもそのはず、彼──鏡灰馬は中学生の子供を持つ父親なのだ。

 男の腰には無機質な色味のゲーマドライバー。試作段階のそれには多大なデメリットがあった。精神の極端な磨耗、肉体活性化を通り越した若返り。開発者である檀正宗が昼夜問わず改良を試みているものの、未だ成果は出ていない。

「どこが問題なんだ……肉体強化に使用しているデータ……設定……ストーリー、バグ、増殖、MOD……? ああ、楽しい、楽しいなぁッ。難題に挑むのは楽しい……!」

 何台ものモニターに囲まれた正宗は狂気すら感じさせる笑みでキーボードを叩く。彼もまた変身の副作用に呑まれ、苦痛や疲労を忘れてしまった。

 そして隣のソファには、医師免許を取ったばかりの頃のように若々しい、リーダー格の日向恭太郎。政府上層部からの度重なるドライバー破棄、正宗が社長を務める幻夢コーポレーション解体等、身勝手な要請を捌き続ける日々だ。副作用で増幅する怒りに心身を焼かれ、限界などとっくに超えている。

「……正宗、もう寝ろ。アランブラが心配していた」

「止めないでくれ、恭太郎くん。この状況は私の責任だ。私が不完全な変身を強いているから、だから、私が解決しなければ……!」

「鏡先生も、あなたが鏡灰馬だということは私たちが知っている。だから……この戦いさえ終われば、飛彩くんもあなたを……あああッ!」

 がしゃん! 激昂と共にローテーブルがひっくり返され、卓上のカップが飛ぶ。破片を片付けようとする者はいない。幻夢コーポレーションの隠し部屋、仮面ライダーの基地として設けられたそこは、常に怒りと絶望で満ちていた。

 社内で匿われている良性バグスターたちはワープを使って自由に出入りするが、やれることと言えば冷蔵庫の補充や掃除だけ。自身の父とも言える正宗、そしてその仲間たちには強く出られないのが現状だ。

 悪性バグスター出現は一向に減らず、政府は顔を合わせるたび規制・解体・破棄と繰り返すばかり。戦いは、あまりに孤独だった。

「そういえば……清長くんは?」

 正宗が画面を見つめたままつぶやく。彼らは元々、ありふれた社会人のように、苗字や役職で互いを呼び合っていた。政府に目をつけられ、徐々に若返るせいで家族とも会えず、彼らは自己の証明を補い合うように幼い呼称を使い始めた。

「今日は会っていない」

「息子の……永夢くんの様子でも見てるんじゃないか?」

 二人は返事をしたが、視線が交わることはなかった。


 宝生清長が悪性バグスターへたった一人で立ち向かい、死んだのは、数日後のことだった。

 


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