ミイラ取りがミイラに

ミイラ取りがミイラに



「どうですかトレーナーさん!」

「ああ、とっても似合ってるよ」

「……!きっと…ハロウィンも成功させて見せます!」

包帯に身を包み、所謂ミイラの姿をしたマンハッタンカフェ。そのハロウィンで使う仮装姿をトレーナーに自慢していた。ミステリアスな雰囲気の彼女ではあるがまだ学生。トレーナーに褒められる度にはしゃぐように喜んでいた。


「今日はここまで。お疲れ様……あれ?その服着てたんだ」

「はい、この服装ならインナーとしても問題ないのでジャージの下に着ていました」

ハロウィンが終わった翌日、カフェはあの時の仮装をジャージの下に忍ばせていた。

「あの時はその服装で大盛り上がりだったな…噂だとタキオンが嫉妬してたとか」

「ふふっ、私の方が多くお菓子を貰えてたですしね。分けてくれたまえと詰め寄られましたよ」

トレーニングを終えて部屋でミーティングをしながらあの時の思い出を語り談笑する二人。

「コーヒー淹れますね…きゃっ!?」

突如よろめきトレーナーに倒れかかるカフェ。二人の体が一瞬密着する。

「大丈夫かい?」

「あ…はい…なんとも」

(今の…感触……)

そうして一日が過ぎていった。


「ん…違う…」

部屋に戻りカフェはこっそり包帯の仮装の上から自分の手を当てていた。

「ん…はっ…んんっ…」

(あの感覚…あの感触…あの密着…トレーナーさんのじゃないと…)

(欲しい…ほしいほしいほしい…トレーナーさんのが…ほしいっ…)

自らの手を当て続け感覚を確かめるカフェ。しかしあの時のそれを再現し、彼女の疼きを満たす事はできず、満たされぬ故に彼女の熱と疼きはますます広がっていった。


「あの…カフェ?」

「どうしましたトレーナーさん?」

翌日、トレーナー室にカフェとトレーナーはミーティングをしていた。

昨日と何も変わらぬひと時、しかし一つ違うことと言えば包帯の仮装のカフェがいつも以上に身体を寄せて密着していると言う点である。

「いや…何でもないんだけどさ」

「なら大丈夫ですね」

確かに彼女とのスキンシップは今まで沢山あった。しかしそれは制服や私服、勝負服の時であり、今回の様な素肌を晒した姿でのスキンシップは初めてのことであった。

(カフェの素肌…綺麗だな…それに…)

その上、普段の様な肩に寄りかかるようなものではなく自らの身体を密着させるようなスキンシップ、現にトレーナーの片腕と身体の半分が密着している大胆なそれ。

更に自身の素肌を見せつける様にする動き、身体をくねらせる有様はもはや誘惑の域に達していた。


(ううっ…)

「どうしましたトレーナーさん?」

「カフェ…」

次の日も次の日もカフェはあの服装で密着と誘惑を繰り返していた。トレーナーの自制心…理性はその甘くて甘くて甘い妖艶さに溶かされ尽くしていた。

「———ごめん」

「え………ッ!?」

トレーナーは限界だった。抑えていた理性の鎖が砕けた瞬間、限界まで引き絞っていた弓矢の様に勢いよくカフェに抱きついていた。

「あっ…ああっ…あああっ!!」

カフェの方も限界だった。何度もトレーナーに大胆なスキンシップを行なっていたが、それは諸刃の剣。触られる感触、普段見せない素肌を想いの人に凝視されるという事実はカフェの理性も溶かしていたのである。

その上、触られるだけではやはりその身の熱と疼きは満たされなかった。

そして今、全身が密着する。トレーナーの匂いがカフェの身体を包む。それはその熱と疼きをさらに加速させたのだ。

「ごめんカフェ…つい…カフェ?」

我に帰ったトレーナーは慌ててカフェの様子を見る。しかし反応がない。彼女は自身の胸元に顔を埋めたまま時折痙攣し、無言でだった。

「とれーなーさん…♡」

ようやく顔を上げたカフェの顔は普段のクールさとミステリアスさは消え失せており、目は光が消えて蕩けており、恍惚に満ちた顔…それを表すなら発情した雌の顔そのものであった。

「……ごめん」

「トレーナーさんは…私に発情したのですか…?」

「うっ…」

否定できない事実にトレーナーは言葉を詰まらせる。その姿を見てカフェは笑みを浮かべていた。

「私の素肌を見て、包帯越しに触って…我慢できなくなったんですね…♡」

「………」

「えっち」

「………!」

「ミイラ取りがミイラになる…外泊許可も出してます…あなたはもう…私から逃げられませんよ…♡」

直後ガチャリと部屋の鍵が閉まり、トレーナーは抱きついたままのカフェにソファの方へと誘われていった。


「んっ…はっ…あっ…」

互いの体が…素肌が密着する

「あっ…くっ…んあっ…」

包帯の擦れる音が響く

「やっ…ああっ…はっ…」

汗ばんだ互いの身体が擦れて水音が響く

「お"っ…だ…だめ…んあぁっ…」

身体をくねらせ甘い嬌声が更に響く

「とれ…な…さん…わたし…も…うっ…」

直後獣の咆哮が部屋に響く

その後すぐに水音が響く


ミイラ取りがミイラに

二人のその包帯はもう解けない

いや、解く気など全く無いだろう

緩める事なく包帯は更に絡みつく

まるでそれを望んでいたかの様に

二人の重なったミイラが一つになる

それでも尚、包帯は絡みつく


幽霊達が騒ぎ出す真夜中の世界

そのとある場所…固く閉じられた【棺】から僅かに甘い声と熱気が漏れ出してくる

その【棺】は夜を過ぎても開くことはなかった…





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