ママが好きっ!
「息子〜!パパはこっちだよ〜!」
「おねーちゃんとこおいで〜!」
旦那と娘が手を叩いたり、音の鳴る玩具を振り回したりして息子を呼ぶ。
最近ハイハイが出来るようになって、毎日寝ている時と食事をする時以外は体力が尽きるまで動き回る息子。
そんな息子が呼んだらどっちの方に来るのか、理由は分からないが旦那と娘は勝負をすることになり、あたしは2人から離れた所でその勝負の行方を見守っている。
「……」
息子は2人を交互に見た後、手と足を器用に使ってハイハイし始める。
2人はヒートアップし呼び声を大きくし、玩具を持つ手を激しく動かすが、息子が一直線に向かったのは旦那でも娘でもなく…。
「えぅ!」
あたしの所だった。
「おいおい、ママじゃなくてパパかお姉ちゃん所行くんだぞー?」
「んあぅあー!」
2人の方に息子の体を向けさせるが、息子はUターンしてあたしの方に戻ってきて、抱っこして欲しいとせがんでくる。
「もーしょーがねーなぁ」
そう言うあたしだが、息子があたしの方に来てくれたのが嬉しくて、その場に座って息子を抱き上げ、モチモチほっぺたに自身の頬をくっつけ、頬擦りした。
「あーやっぱりママは強いなー」
「……ぅ……ゔ〜〜〜〜〜!!ずるいぃ〜〜〜〜!!」
残念がる旦那と打って変わって、娘は不機嫌になって唸りながら激しく地団駄を踏む。
息子が自分の所に来なかった事に癇癪を起こしたのかと思い、あたしと旦那は娘を落ち着かせようと動こうとした。
「あたしもママにギュッてするぅ〜〜〜〜〜!!」
「は!?」
「え、そっち?」
しかし娘の怒りの矛先は、あたしではなく息子にだった。
娘はあたしに思いっきり突進して来た。
強い衝撃に思わず「ヴッ!」と声を出してしまったが、なんとか倒れず娘を受け止め、あたしの胸に頭をグリグリ押し付ける娘の背中を撫でる。
「お姉ちゃんになったと思ったら、また赤ちゃんに戻りやがって」
「あかちゃんでいいもん!」
「ったく、甘えん坊めー」
「………」
娘の頭を撫でたり、おでことおでこをくっ付けてウリウリと擦り付けたりして宥めていると、ずっと黙って見ていた旦那が背後に移動して来て、後ろからあたしを抱きしめて来た。
「ちょっ!トレ……パパまで何してんだよ!」
「俺だけ仲間外れなの悲しい!俺だってエースのこと独り占めしたいって思ってるんだからな!!」
「子供が居る前で何言ってんだ!!」
旦那はあたしの腹に腕を回し、首筋に頭を押しつけて来て密着してくる。
娘も負けじと腕の力を強めてきて、事の発端である息子は何が何だか分かってないようで、「きゃっきゃっ」と声を出しながら喜んで抱き付いてくる。
「あーもーアンタらあたしの事好きすぎかぁ!?」
「大好きさ!!」
「だいだいだぁーーいすき!!」
「んまぁ!」
家族達の締め付けが強くなる。
いくら寒くなって来たとは言え、このおしくらまんじゅう状態はかなり暑い。
けど引き剥がそうとは思えず、大好きな人達の体温に、ただただ幸せを感じていた。
「あたしも、みんな大好きだ!!」
終わり