ポーラータング号にて
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船内は今朝から慌ただしい。ワノ国での激戦が終結し、共闘していた他船の船長たちと競い合うように滝から出港したのもつかの間、航路をとった先の北東の島では黒ひげ海賊団が待ち伏せしていたのだ。互いに合理的な判断を下したがゆえの衝突であった。海中を進んでいた際に潜水艦を攻撃され否が応でも浮上せざるを得なくなってしまい、しかも「女になる病」とやらをかけられて混乱しつつのご対面となった。しかし、ワノ国で何も学ばなかったわけではない。過剰な覇気さえあれば能力を無効にできると踏んだローは見事「女になる病」を振り切り、交戦もそこそこにクルーの命を最優先としてその島から脱出した。追手を出す様子もなかったため、穴の空いた箇所の修理をするまでは海上を進むしかないポーラータング号は新世界の風を浴びながら先を急ぐ。
「キャプテン! 航路も安定したしゆっくりしてていいよ」
「馬鹿言え。ここで気を緩めるわけにはいかないだろ」
「でもまだちゃんと怪我の処置とかしてないでしょ? 船は一旦おれ達に任せてキャプテンは治療して! 」
「......ああ、分かったよ。だが何かあったらすぐに報告しろ、いいなベポ」
「アイアイ!」
ベポを含めたクルー達も、無傷とはいかなかった。中にはベッドの住人となっている負傷者もいるが、大事には至っていないことが何より、と自身の怪我は計算外に入れていたローはやっと落ち着いて怪我を確認しようと部屋に入り鬼哭を壁に立てかけて、コートを椅子の背に掛ける。そして手を椅子に置いたまま、船に戻ってきたあたりから抱いていた違和感についてぐるぐると考え始めた。今の自分の体はどう見ても男に戻っているのに、喉に小骨が刺さったような不和がある気がする。やけに落ち着かないのだ。だが、ストンとベッドに座った瞬間、その正体が分かったローは急いでスキニーパンツと下着を脱いだ。
「あ......!? 嘘だろ......!」
下腹部を見ると、本来そこにあったはずの男性器が無くなっていた。覇気で能力を消したはずなのに、消えていたのは陰茎と金玉だった。何故だ、確かに自分は男で、一度は完全に女体となってしまったがあの時ちゃんと抗体ができたはず。そこになければ無いですね〜うるせえこの前寄った服屋の店員は黙ってろ。おれが今探してるのはクマのTシャツじゃなくてちんことタマなんだよ。ローの脳内で思考があちこち引っ張られ、まさに大混乱といった感じであった。ろくに頭が回らない中ひとまず治療はさっさと済ませて、本格的に休むことにした。実の所は休憩を取る気などさらさら無かったが、予想以上の問題にぶち当たってしまったため仮眠をとる必要があると判断したのだ。おやすみコラさん、おれは一体どうしたらいいんだ。
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「あれ? キャプテンまた夜更かししました? 駄目ですよ寝なきゃ!特に戦闘の後なんだし。なァペンギン〜キャプテンの隈がひどいよ〜」
「本当だ。今更なんであんまり言いませんけど、仮にも医者なら睡眠の大事さを今一度思い出してくださいね!」
「今に始まったことじゃねェだろ......」
翌朝、食堂に行くといの一番にシャチとペンギンに絡まれてしまった。前々から隈が濃くなると、小言を貰うようになっていた。以前は医学書を読んでいたり、調べ物をしていたりなどで睡眠時間を削っていたことが原因だったが、今回だけは違う。何せ、自分の性器が無くなっていたのだ。自分でさえこんなに動揺して上手く寝付けなかったのに、クルー達が黙っていられるはずもない。よってこの現象はおそらく自分にしか起こっていないのだろう。そう結論づけたローは無意識にため息をついた。数日は気の抜けない航海が続くだろうし、わざわざ言ってやることもない。心配をかけさせたくないし、何よりうるさそうだ。
陸地を目指しての航海は予定通り数日を費やしていたが、その間ローは寝付けない日々が続いた。体に生じた違和感が常に付き纏い、その日常生活で感じるストレスが若干の不眠状態に陥らせていた。医者としての好奇心は男としての本能的な恐怖に負け、ろくに自分の体さえも診察できていない。無為に夜を消費し、日に日に目元の隈が蓄積されていく。そんな船長の姿にクルーが気づかない訳もなく、しかし隈が濃くなる以外は普通そうにしている手前むやみに聞くのも憚られるという状況だった。
「キャプテン、流石に見過ごせないすよ。なんでそんなに隈が酷くなってるんですか?」
「......お前、切り込み隊長だなァ......」
ローが通路でフラついた瞬間を見たペンギンとシャチに遂に捕まってしまい、その均衡は破られることと相成ったのだが。無理やり船長室で座らされたローは2人に詰め寄られ、傍から見ると完全に尋問の様相を呈していた。普段ならすぐに押し退けて後ろから聞こえる抗議の声もそのままにシャンブルズで退散するが、連日の睡眠不足とその理由が理由なだけに、ただ耐えるしかなかった。
「別に、ただ医学書を読んでいただけだ」
「こんな何日間も? キャプテンの読むスピードならせいぜい2、3日でしょ」
「しかも最後に新しい医学書買ったのなんていつですか......買う時無かったですよ。言い訳駄目!」
「......」
「ほら、何で寝てないのか教えてくださいよ!」
「言えないならせめて今日からちゃんと寝るって約束してください!」
怒っているというよりも、心配している方が大きいような問い詰め方にとうとう折れたローは、いつもの毅然とした様子は鳴りを潜め、俯いたまま重い口を開いた。
「はあ......あんまり言いたくなかったんだがな......この間、黒ひげと戦った時に変な能力をかけられただろう」
「ああ、キャプテンがカワイくなったやつ」
「黙れ。......その時に覇気で能力を解いたと思ってたんだが......その......」
「え......まさか」
「......どうやら、性器だけが女のまま戻らなくなっててな」
「そんな......」
「嘘だろ......」
「......おれも同じことを思ったよ」
「「なんで全身じゃないんだよォ!!!」」
「ハリ倒すぞ!!!!!!!!!!」
解散! 解散だ! そこで蹲って泣いてるバカ2人の生殺与奪の権はおれが握っていることを忘れるな。今すぐちんこ切り落として海に捨ててやる。
「どうせなら女の子のキャプテンと航海したかった......」
「全身戻っちゃう日とか無かったんですか!?」
「あるわけねェだろ!! アホか!!!!」
ある意味では安心したが、それとこれとは別だ。こいつらどうしてやろうか。ノーペニス 皆で取れば 怖くない という言葉を知らねェようだな。いい機会だし(?)こいつらにもいつもの自分の有難みに気づいてもらおう。
「"room"」
「え、なんで能力使って、待って! その鬼哭下ろして!!」
「いやァ!!! 誰か助けてェ!!!!」
「オラてめェらのちんこ差し出せ」
「「イヤァーーーーーッッッッ!!!!!!」」
その後無事に3人の男性器が戻ってきたかどうかは定かではない。