ポケモンに服を着せるということ
※あんまり爽やかな感じではないです。
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「そこの子供っ!!!」
大きな声に驚き思わず足を止める。
それを捉えたのか、声の主らしき人物がずんずん近づいて来る。ポケモンバトルに備えてボールを構えるが、相手はどうやらバトルをするつもりはなさそうだ。
「何故ポケモンに服を着せているのかね?」
……?
厳しい視線が肩に乗っている相棒……ピカチュウに向けられる。
「ポケモンは自然体であってこそ!トレーナーの趣味などで窮屈な服を着せるのはヒトのエゴに他ならないだろう!即刻脱がせてあげなさい!」
「ピ?」
危ない人だ。逃げないと。
そう判断して、ヒジュツ・ソラワタリを使いその場を離れる。
「こら!待ちなさい!」
怖い人の声が遠くなる事に安心し、自宅の前に降り立った。
家に入ろうとドアを引いたが、鍵がかかっていた。ママはお買い物に行っているらしい。
持っていた鍵で家に入り、自分の部屋へ駆け上がった。それからピカチュウをベッドの上に降ろして、じっと見る。
自分とお揃いのスポーツウェアを身に纏った可愛い相棒。
……でも、あの人が言っていたように、ただの自己満足でしかないのかな。
「ピカ〜」
悩んでいる事が伝わったのか、ピカチュウは心配そうな目でこちらを見ている。
そんな相棒に、ゆっくりと手を伸ばした。
頭に乗せたキャップを取り、小さなジッパーを下げる。
「ピカチュチュ?」
ピカチュウは抵抗するでもなくされるがままになっている。あっという間に野生のピカチュウと同じ、何も身に纏っていない状態になった。
「…」
ポケモンは自然体であってこそ。
低い声が頭の中で反響する。
ピカチュウサイズの小さな洋服を持ち、ゴミ箱の前に立った。
「ッ!!ビガ!!」
それを見た相棒が、怒った時と同じ声で大きく鳴いた。
素早く駆け寄ってきて、ゴミ箱の前に立ちはだかる。
「ビィーカ!」
捨てちゃだめって、言ってるのかな。
握りしめて少しシワができたウェアを、再び着せてみる。
「……ピカ♪」
するとピカチュウは、嬉しそうにニコニコ笑った。
自分とお揃いのスポーツウェアを身に纏った可愛い相棒。
……そうだ。知らない人の意見なんてどうでもいい。この子がどう思っているかが大事なんだ。
確かめるようにギュッと抱きしめて、再び冒険の旅を始めた。