ポケパロ8
「俺寒いの苦手だからL4エリアに冬がこないのはいいんだけどさー。その分夏が長引くのはそれはそれで地獄だよな。」
「何でこんなクソ暑い季節に外でポケモンバトルなんかやんなきゃいけないのさ。」
「そのことでこの前ミオリネ・レンブランが学園長に抗議しにいったらしいぜ。」
その日、焼き付けるような強い日差しの下、常緑樹に囲まれ自然と調和した人工芝が張っているアスティカシア・アカデミーのグラウンドには多くの生徒が集まっていた。
蝉時雨ならぬむしポケモンの鳴き声も生徒達の叫び声に掻き消されている。
今日は夏休み直前の学級対抗戦だ。現在はペイルクラスvsダイゴウクラスの団体戦が行われていた。大将同士の戦いのはずだが、ペイル寮の首席生徒エランのザウォートは三体のポケモンに囲まれていた。前日になってダイゴウクラスの生徒が「三大企業の擁立トレーナー相手に自分達が勝てるはずがない。1対3で勝負をしてくれ」と交渉してきたのだ。返事一つで了承したエランを訝しげに思いつつ、ダイゴウクラス、見学をしていた他クラスの生徒達もエランの敗北を確信していた。
そして、審判役を勤めるブリオンクラスの生徒、ロウジのポケモンであるハロが無機質な声で勝敗を決した。
『勝者、エラン・ケレス。』
「「「「きゃー!!」」」
「氷の君!こっち向いてー!」
「美しく鮮やかな勝利でしたわ!」
「悔しいけどあいつつえーんだよなぁ。」
不利な条件で勝利してみせたエランに生徒達の喝采が起こった。中には敵であるはずのダイゴウクラスの生徒も含まれている。彼は学園の女生徒にとってはみんなの王子様なのだ。しかし、エランがその声に応えることはない。反応する必要がないからだ。
"ぼく“を呼ぶ声など、ここにはない。
悔しさで座りこんでいる彼を氷の瞳が見下ろしていた。
3対1という追い詰められた状況を体験することで自身の瞬発力や判断力の向上に繋がるのではないかと期待したが、相手が実力不足だとこんなものか。もう役目は終えたからこの場に残る意味はない。嘱目する価値もないと去っていくエランの背中にどれだけの嫉妬や羨望の眼差しが向けられようとも、彼は振り向かなかった。
「あっ、エランさん。お疲れ様でした。」
「君は…。」
木陰で1人、本を読んでいたエランに温和な雰囲気の少女が声をかけてきた。その控えめだが水色のインナーカラーが印象的な容姿には見覚えがある。面識があるにも関わらず名前を覚えていなかった相手に嫌な顔一つせず、無視をされなかったことに安堵したのか、少女はほっと安堵の息をついた。
「ニカです。ガンダムクラスのニカ・ナナウラ。」
ニカの自己紹介を聞いたエランが記憶を呼び起こすまでそう時間はかからなかった。
大切な存在であるスレッタの友人なら無下には扱うわけにはいかない。
「以前スレッタに親切にしてくれたそうだね。感謝するよ。」
「あはは、親切なんてそんな…。スレッタヌは元気にしてますか?」
それからエランは、ここ数ヶ月のスレッタの変化や日常での過ごし方について簡潔に説明した。勿論自分とスレッタの本当の関係やエリィの存在は伏せながら。
ニカの方はというと、どうやらスレッタにサブレをプレゼントしたくてエランに声をかけたようだった。
「え!スレッタヌ、進化したんですか!?」
「種族名はマージョリー。ガンダムクラスの生徒にも進化した姿を見せたいと言っていたよ。」
「本当ですか!他の子達も会いたがってたんですよ。特にミオリネ…あ、うちの首席が心配してて。」
「あの子はまだ僕のポケモンというわけではないんだ。」
博士はスレッタヌを外に連れ出すことに否定的だったが、元々野生のポケモンをアスティカシアアカデミーに連れてくることは校則で禁じられているのだ。
ニカは言葉数が少ないエランに困惑することもなく、その発言の意味を汲み取ったようだ。
「そうだったんですね…。事情は深入りしませんが、2人が納得のいく関係に落ち着くといいですね。」
珍しく会話の続く相手だったのでエランの中の警戒心もすっかり薄れていた。人の妻に劣情を抱く心配もなく、彼女に純粋な好意を抱く相手と語り合うのは悪い気分ではなかった。お互い一匹のポケモンのことしか考えていなかったのだが、周囲はそう受け取らなかったようだ。
「ねぇ氷の君の隣にいるのって…。」
「わたくしなんて挨拶も返していただいたことないのに!」
噂好きの生徒と氷の君のファンが、2人を見つめてひそひそと話をしていた。ニカは聞こえてるんだけどなぁ、と笑顔のままため息をついた。
「あ、あはは…。なんか、すみません…。」
「何が?」
エランは首を傾げた。無視をしているのではなく、本当に彼女達の声が聴こえていないようだ。
もう少し図鑑に載っていない未知のポケモンであるスレッタヌの話を聞きたかったのだが、噂が広まってクラスのみんなに迷惑をかけるのはよくない。
「えっと、それじゃあ–––––。」
「ニカ、チュチュが探してる。」
後ろ髪引かれる思いで立ち去ろうとしていたニカに助け舟が出された。
「ティル、わざわざごめんね。」
ティルと呼ばれた青年が2人の前に現れた。彼に視線を向けられると、噂話をしていた生徒たちは慌てて去っていく。
最近ガンダムクラスとの交流の機会が多いエランにとっては一番波長の合う生徒だった。顔立ちは端正であるのに頭頂部で髪を束ねた独特なヘアスタイルが勿体無いと残念がる女生徒は少なくないが、彼の隠れファンには「そこがいい」「髪を下ろしてこれ以上モテたら困る」と好評だ。
「お疲れ様、エラン。強かった。」
「ティル・ネイス。次は君と戦えるといいんだけど。」
「意外と好戦的だよね。ガンダムクラスの実力で相手をするのはまだ厳しい。今日の戦いも良い勉強になった。」
「どうだろう。団体戦では君の指揮力に劣るよ。」
「うちの取り柄は団結力だからね。僕は彼らを信じてるだけ。」
「2人とも仲良いんだね。スレッタヌのおかげでうちのクラスとエランさんに接点が生まれるなんて、思ってなかったな。」
にこにこと見守っていたニカの口から出た「スレッタヌ」という名前を聞いて、ティルはポケットの中の存在を思い出したようだ。
「そうだ、エラン。これをスレッタヌに渡してほしい。」
目の前にサブレが差し出された。俗世に興味のないエランには分からないが、局地的な流行でも起こっているのだろうか。
「ニカ・ナナウラに続き、有り難く頂戴するよ。」
自分のせいで、スレッタは友人達と交流することもできない。その事実がエランに重くのしかかる。
寮に帰ればいつだってスレッタが出迎えてくれる。部屋の中で彼女やエリィと共に過ごし、夜はスレッタと…。そんな日々がこの先も続くものだと、弛んでいたのだろう。
スイセイ山というゆりかごから連れ出した彼女を、今はエラン自身が閉じ込めている。ペイル寮の自室が新たなゆりかごに変わっただけじゃないか。未来(さき)のない人生に光の道筋を示してくれたのはスレッタだ。そんな彼女と共に生きていきたいのであれば、エランのくだらないエゴなど捨て去るべきだ。だが、今すぐにというわけにはいかない。"今のスレッタ“に耐えられない自分には、その資格さえないのだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「単刀直入に聞くわね。貴方達、週に何回しているのよ。」
「プライベートのことまで会社に教える契約はしていないはずだ。」
「スレッタヌの主治医として質問しているの。それに、彼女は知人が生み出した人工ポケモン。私の推測が正しければ、人間に近い存在よ。いくらポケモンとはいえ、間隔を開けずに出産している母体の体調を気にかけるのはおかしいかしら。」
主治医の立場を強調されてしまっては4号もそれ以上言い返すことができないようだ。
「……10回。」
「は?」
「互いの体調によって合計数は上下してる。」
彼は拗ねた子供のようにそっぽを向きながら打ち明けた。顔見知りの、子供らしからぬ–––ある意味若者らしい爛れた生活を聞いてしまった私は片手で顔を覆い大きな溜息をついた。後悔しようが、ここまで聞いてしまってはもう引き返せない。
「待ってちょうだい。私の聞き間違いよね。1週間は7日しかないと記憶しているのだけど。貴方達、もしかして毎日……。」
「1日1回なんて制約はないだろ。」
「もっとも近しい大人として忠告させてもらうわ。スレッタヌは生殖行為の抑制を必要としないポケモンだから仕方ないとしても、4号、今の貴方は───。」
「休日の報告、楽しみにしているわね。」
「ご命令とあらば。」
「命令ね…。」
ファラクトに乗って雲の向こうへと消えていく彼の背中を見送った。今回の指示にペイル社は無関係だ。私が彼らにしてあげられることなんて、挫折を重ねた中年女によるお節介だけ。それにしても、スレッタヌが関わることだからもう少しごねると予想していたのに、すんなり従ったわね。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「まだかなぁ、エランさん。」
扉の前で体操座りをしてから30分経った。窓から差し込む光は橙色に変わっている。もうすぐ私の家族が帰ってくるんだ。喜びで大きく揺れる尻尾を見る度に、エランさんには引きちぎれるのではないかと心配されている。私は家族と一日中一緒に過ごせる日曜日が大好きだ。子供達とお話ができて、旦那様にたくさん気持ちいいことをしてもらえるから、ずっとこんな日が続けば良いのにっていつも願ってる。だから平日が苦手だったんだけど、最近ではこうやって待つのも楽しいと感じてる自分がいる。勿論ずっと一緒にいられたら、もっと幸せ。だからエランさん、早く私を貴方のポケモンにしてくださいね。
「あれ?」
考え事から我に返り、はっと時計を見ればエランさんの帰寮時刻は過ぎてしまっていた。いつも時間ぴったりなのに、どうしたんだろう。心配だけど、良い子で待っていれば私の元に帰ってきてくれるよね。
自分を納得させながら、床の上で身体を横に倒した。ショーツが擦れる音と一緒に、はぁと熱を孕んだ息を吐く。大好きな人のことなら何時間でも、何日でも待ち続けられるけど、今は別の意味で苦しかった。
「むらむらする…。」
生理が始まったせいで、ここ数日間エランさんと繋がっていないのだ。最初はそんな意欲もなかったけど、だんだん性欲が抑えられなくなってきた。昨夜はベッドの上で涙を滲ませながら耐える私を見兼ねたエランさんが、下着越しにお股の擦り付け合いをしてくれたんだけど、すごく気持ちよかった。おまけに、翌朝エランさんのミルクが染み込んだ下着が手に入るのだ。勿論、エランさんにもエリィにも内緒。
寂しさと身体の熱を紛らわせる為に、私は愛する旦那様の匂いを求めて部屋の中を忙しなく歩き回った。ちなみに今着ているのはエランさんの寝間着用のTシャツだ。ズボンを履いていないのは尻尾が収まらないから、仕方ないよね?下着はもう私の匂いが染み付いたから洗濯しちゃったし、別のものにしないと。
「あっそうだった。」
私は勉強机の隣に設置してある本棚の前で立ち止まった。博士やお母さんにも褒めてもらえたし、人間の言葉は上達できたはず。でも娘達の方が流暢にお話できてるのは気のせいじゃないと思うんだよね。読書家のパパの遺伝子の影響なのかな?お母さんとして、負けてはいられない。私が教えてあげられるようになるまで頑張らなくちゃ。
エランさんからも好きに読んでいいと許可は貰っているし、勉強になりそうなものを拝借しよう。私は読書に乗り気になったのだが、結局手に取ったのは"マンガ“だった。やっぱりエランさんが好むてつがくしょは私には難しい。それに、せっかく彼がプレゼントしてくれたものなんだから大切に読まないとね。マンガにだって文字は書かれてる!
私は言い訳をして、カーペットの上でぺたんと座ると読書を始めた。
「理想のお嫁さんかぁ…。」
「エランさん、おかえりなさい!」
「ただいま、遅くなってごめんね。」
私は巣に帰ってきてくれたエランさんに飛びついた。ぎゅーって体温を分け合いながら、彼の首に顔を埋めてくんくんと匂いを嗅ぐ。恒例の浮気チェックだ。
「あれ?」
汗に混じって、暖かくて優しい匂いがした。
それはもう消えかけていたけれど、犬種ポケモンの私が他の雌の匂いを嗅ぎ分けられないはずがない。その匂いの持ち主の正体を私は知っている。
「エランさん、ニカさんとお話してたんですか?」
「君に会いたいと声をかけられてね。」
「私も会いたいです!」
「そうだろうね。」
初めてできた友人からの嬉しい言葉にぶんぶんと揺れる私の尻尾を見るエランさんの目は、何故だか寂しそうだ。
「……今度、君を連れていくよ。メールではチュアチュリー・パンランチとミオリネ・レンブランに迫られていてね。」
「お2人と仲良いんですか?連絡先交換したんですか…?」
「期間限定だし、仲は良くないよ。君の様子を逐一報告しろって。」
「そうなんだ…。」
語尾が震えていくのが自分でも分かった。「ほら」とエランさんが見せてくれたハロの画面には色恋の「い」の字も見れなかったけど、すぐに目を逸らしてしまった。私だってポケモンじゃなかったらエランさんとメールのやり取りができたのにな。そっか、エランさんガンダムクラスの方とお話するようになったって言ってたもんね。彼に人間の友達ができて嬉しい。彼と同じ、人間の───。
私はどうしてか不安になり、エランさんのすべすべで綺麗な頬を舌でぺろぺろとなぞった。
「くすぐったいよ。」
「くぅーん…。」
「どうしたの?」
話を聞こうとしてくれたのだろう。エランさんに肩を押されて顔を上げた私は、そのまま彼の開いた口に噛みついた。
「っ……。」
エランさんとのキスが許されてるのは、お嫁さんの私だけですよね?柔らかい舌に夢中になってちゅうちゅうと吸い付いていると、いつの間にか童話の中の貴族のような手袋を外していた彼の手のひらが背中を伝い、お尻へとたどり着いた。これは下着チェックだ。
間隔を空けずに二度の妊娠を終えた身体にとっては久しぶりの生理だったから、エランさんも心配してくれているみたい。いくら私でもお股から血が出ているのに垂れ流しで放置なんてしないですよ。子供扱いされたみたいで少しむっとしちゃったけど、揉み揉みして感触を楽しんでいるみたいだし、触りたかっただけなのかな。私なんかの身体でお婿さんが満足してくれているならお嫁さん冥利に尽きる、と気分を良くしていると、突然お尻の下から身体を持ち上げられて驚いて唇を離してしまった。エランさんの肩に掴まりながら食卓テーブルの上に腰を下ろされると、すぐに彼の端正な顔が覗き込んできた。
「妬いたの?」
抑揚のない平坦な声のはずなのに、不思議と雄の色気を感じてしまい、私は頬を熱くしながらこくんと頷いた。
「どうして?」
「ひゃっ……。」
シャツの裾から、彼の片手が忍び込んでくる。太腿、お腹を伝って這い上がってくる指の感触が擽ったい。触れられている部分が服で隠れているせいで、余計にゾクゾクしてしまう。その手が下着を着けていない剥き出しの乳房に辿り着くと、強い力で鷲掴みにされた。
「きゃん!」
「悪い子だね。」
細長くて綺麗な指なのに、彼の責め立てるように揉みしだく動きには容赦がない。少し痛いけど、気持ちいい。天井を向いて息を荒げている間も、彼の鋭い眼光が私を逃すまいと捕らえているのを感じる。
「どうして妬いてるのか、教えて?」
「ごめん、なさいっ。」
今更人間になりたいなんて、叶わない夢を見ている自分が恥ずかしくて、謝罪の言葉以外口にすることができなかった。エランさんはそれ以上問い詰めてこなかったけど、無言で私の先端を摘み、不服であると訴えた。
「んんっ……。」
番(つがい)だからなのか、彼に与えられる痛みでさえ、私の身体は快楽だと受け取るようだ。でも今はそこに触れられると困る。シャツ越しに手のひらで彼の甲を押さえ付け、懇願するように彼の瞳を見つめた。第二子を産んでから日が経っていないので、抓られると母乳が飛び出てしまうのだ。子供達ではなく、夫専用の飲み物が。
「ミルク、出ちゃいます!シャツが汚れちゃう……!」
「それは困るね。」
全く困っているようには見えない。表情ひとつ変えずに一瞬でTシャツを胸元までたくし上げられてしまった。
「ご飯食べるところでえっちしたら、だめです…!」
「だから、今から君をいただくんだよ。」
私、エランさんのご飯なんだ。
ミルクの詰まった胸をじーっと観察されていると、これからしてもらうことへの期待と、言い知れぬ不安が私を襲った。もしかしたら人間の雌と比べて変な形をしてるのかも。目の前にお婿さんがいるのに、また考え事に夢中になってしまった私は、乳首への熱い刺激に吃驚して嬌声をあげてしまった。
「あぁっん、え、エランさんっ。」
エランさんの上半身がシャツの中に隠れて見えなくなった。腰を抱き寄せられ、身体はぴたりと密着している。王子様みたいな制服姿の彼とえっちするのは初めてで、いけないことをしている気分になる。生地が少し擽ったい。
「あ、う……。」
時々舌で擦られながら、時間をかけてゆっくり吸われてる。夫に授乳する妻はマンガで見たことないから、これが普通なのか分からない。でも私にしかできないことならやめてほしくない。もっと、もっと、とシャツ越しの彼の頭部を抱きしめる。
「シャツ、伸びちゃいます…。」
と言いながらもお互いに離れようともしない。もうミルクが出なくなったのか、最後に先端をぺろりと擦られて唇が離れていった。もう片方の乳房に誘うため腕を緩めれば、そのまま腰を支えられながら、ゆっくりと固いテーブルの上に上半身を倒された。
「んっ……私のミルク、美味しかったですか?」
「美味しいよ。君から排出されるものは全てね。」
「あぅ……。」
もう片方の先端も待ち望んでいた生暖かい熱で包まれた。さっきからずっと、ねっとりしたものがお股から溢れ出ている。経血が漏れたら大変だし、取り替えた方がいいのかな。それとも、これって…。まだ授乳は終わっていないのに、襟元から漂ってくる発情した雄の匂いが私の理性を完全に蕩けさせた。
「エランさん、お股がうずうずします…。」
私の声に反応したエランさんがシャツの中から姿を現し、上体を起こすとぐったりしている私を見下ろした。暗闇の中であっても、きっと彼の情炎の瞳はギラギラと輝いていたと思う。てらてらと濡れている唇がなんだかすごく色っぽくて目が離せなくなってしまった。唇の端から垂れる透明な液体が気になっていると、彼は細長い中指でそれを掬って、隙間から見えた舌で拭き取った。私の中を掻き乱す性の象徴であるその指が、彼の舌に触れている。私のぼーっとした頭では、彼の仕草の一つ一つから性的なものを連想してしまう。
「どうしてほしいの?」
分かっているくせに、意地悪だ。
気だるそうに、しかし上品な仕草でリボンタイを外した彼の綺麗な首元には喉仏が浮かんでいた。雄の象徴に、ごくりと唾を飲み込む。今更恥じらうような仲ではないのだから、素直にお願いしよう。テーブルの上で膝を立て、開脚して目をぎゅっと瞑りながらお願いした。
「うぅ…え、エランさんのおちんちんで、スレッタのお股をゴシゴシしてほしい、です。」
「……いいよ。くっつこうか。」
やっぱり恥ずかしい。誘い方が合っているのかは分からないけど、エランさんに通じるなら正解なんだ。私達は生涯、お互いとしか交尾しないんだから。
ショートパンツを下げる音って、こんなにえっちだったっけ。まだ触れられていないのに、耳が拾ってくる音が全ていやらしいものに聞こえてしまい、自分の呼吸音が荒くなっていくのを感じる。私の瞼の向こう側を影が覆った。くる──。
『警告、警告。ソレ以上ノ色ボケハ禁止デス。』
「きゅー!?」
「はぁ……。」
テーブルの上に置かれていたハロが、大音量でお話し始めた。心臓が飛び出しそうなほど吃驚してしまい、私の上に覆い被さっていたエランさんに助けを求めて見上げれば、目だけを動かしハロを睨みつけていた。無視をして続きをしたかったみたいだけど、警告音は鳴り止まない。上半身を起こしたエランさんがハロを掴めば、ようやく部屋の中に静寂が訪れた。
「入れるつもりはなかった。邪魔しないでくれるかな。」
『性器ノ接触ハ服越シデモアウトデス。』
「え、エランさん?」
エランさんは不機嫌そうなオーラを出しながら衣服を整えると、私の手を取って身体を起こしてくれた。なんだか王子様みたいでドキドキする。でも視線を下げれば彼のものはまだおっきいままだった。可哀想…。
「話があるんだけど、いいかな。」
食卓で向かい合った私とエランさん。2人の間には重苦しい雰囲気が流れていた。彼の話をまとめると、
①博士から性依存症予備軍だと咎められた。
②人間にとって毎日の性行為は過剰。
③今日から休日までの禁欲命令が出された。
④それに伴いハロに監視機能が搭載され、性行為直前に警告音を出す
ということらしい。私はしばらくエランさんとえっちができないことに強いショックを受けたし、博士に私達の夫婦生活が筒抜けであることに気づき顔から湯気が出そうになった。
「スレッタのことになると僕は少しおかしくなる。今回の件は原点に立ち返る良い機会だ。」
「エランさんはおかしくなんか…。でも、私がお誘いしすぎちゃったせいですよね。」
「君の誘いを受けたこと、後悔してないよ。これは僕の心の問題だから。……あと、これも関係していることだから、伝えておく。」
「?」
私は真剣な眼差しで私を見つめるエランさんに合わせて姿勢を正した。たかが数日の禁欲を死活問題のように重く捉えている夫婦は私達だけだと思う。
「無事禁欲を貫くことができたら、君を僕のポケモンにしたいと思っている。」
「きゅー!本当ですか?……でも、どうして?」
出会ったあの日から願い続けていたことが、数日我慢するだけで叶うなんて。だけどそれとこれに何の関係があるんだろう。
「モンスターボールで捕獲されたポケモンがどうなるか覚えてる?」
「エランさんと1日中一緒にいられます!」
私は頭ではなく、心で覚えていたことを元気に答えた。だけど困ったように眉を下げるエランさんを見て、自分が誤った捉え方をしていたことに気づいた。
『人間に危害を加えないように、特殊な環境下以外では性的興奮を起こさないように制限される』
「えっと…?」
私が首を傾げれば、エランさんは顎に手を当て俯いた。何と言えば私にも通じるのか考えてくれているのだと思う。10秒も経たずに、上手い言い方を閃いた様子のエランさんと再び目が合った。
「僕に触れても、えっちなことしたいって感じなくなるんだ。」
「きゅー!?」
「育て屋に忍び込んだり、ピクニックに行けばその感覚も蘇るかもしれないけど。」
エランさんと一緒にいるのにむらむらしない自分が想像できなくて、頭が真っ白になってしまった。そのせいで彼の説明は半分聞き流してしまったけど、代わりに当時の記憶を少しだけ思い出すことができた。確かに、モンスターボールの中に入ってしまえば私は楽になると思う。ただでさえ年中発情期のようなものなのに、生理が治った頃からしばらくの間は性欲が止まらない。普段が恋人同士の戯れあいとするなら、発情期は雄のタマゴを求める雌としての本能に支配されてしまうのだ。今だって襲い掛かりそうなのを必死に抑えていた。トレーナーである彼の身の安全を優先するならパートナーとして応援するべきなのだと思う。でも…。
「私が感じなくなっても、エランさんは…。」
「そうだね。でも僕は同意のない君に手出ししたくない。僅か数日の禁欲にも耐えられない欲深い人間が、自分の手持ちとなった君を襲わないなんて確証は得られないよ。」
だから、これはスレッタと自分の為の試練なんだ。哀愁を漂わせながらそう呟いたエランさんはすごくえっちだった。もうなんでもいいから交尾したい。妻の為に一肌脱ごうとしている夫がかっこよすぎる。だけど、生まれた子供が2匹だけなんて、元野生ポケモンの私が満足できる数じゃないよ。こんなところで終わりにしたくない。
「あの、私、我慢できます!待つことには慣れてますから。エランさんのお嫁さんとエリィ達のお母さんになることができて今がすごく幸せなんです。欲張りだったのは私なんです。だから––––。」
「ありがとう。でももう決めたことだから。」
夫は今日も頑固だった。
エランさんに話したいことはまだまだたくさんあったけど、もう少し頭の中で整理した方がいい気がする。彼も会話を打ち切りたい様子だし、でも何と言って切り上げればいいんだろう。気まずくてソワソワしていた私とまた思考を始めてしまった彼の間に、思わぬ救世主(?)が登場した。
ぐぅーーーーーー
「お腹、空きました…。」
「夕御飯の時間、とっくに過ぎていたね。今から作るから待っていて。」
来た。このチャンスを逃すわけにはいかないよね!
「え、え、え、エランさん!ご飯の作り方、教えてください!」
「いいけど、怪我しないようにね。」
エランさんに話したいことはまだまだたくさんあったけど、もう少し頭の中で整理した方がいい気がする。彼も会話を打ち切りたい様子だし、でも何と言って切り上げればいいんだろう。気まずくてソワソワしていた私とまた思考を始めてしまった彼の間に、思わぬ救世主(?)が登場した。
ぐぅーーーーーー
「お腹、空きました…。」
「夕御飯の時間、とっくに過ぎていたね。今から作るから待っていて。」
来た。このチャンスを逃すわけにはいかないよね!
「え、え、え、エランさん!ご飯の作り方、教えてください!」
「いいよ。君が怪我しないように気をつけるね。」
その言葉通り、私から目を離さなかったエランさんのおかげで慣れない包丁で手を切ったり、迂闊に熱に触って火傷するような惨事は避けられた。作ったのはほとんどエランさんだったけど、私が上手くできたことはお世辞でもなく褒めてくれたので、すごく気分が良かった。緩んだ顔で御飯を頬張る私をエランさんも優しい瞳で見つめてくれた。エリィも喜んでくれたし、和やかな雰囲気で食卓を囲むことができて良かった。エリィ達もいて幸福で満たされていたおかげなのか、いっときの間だけは自身の性欲を忘れていた。
その後のお風呂は暗黙の了解で別々に入った。やっぱり狭い空間で何も身に纏っていない相手が目の前にいたら、2人とも我慢できないと思う。と、納得していた私に向かって、就寝前にエランさんは衝撃の発言を告げた。
「スレッタ。就寝の際は下着以外脱いでくれる?」
「きゅー!?エランさん、理性はどこに!?」
いけない。エリィ達が隣で眠っているのに、大きな声を出してしまった。しー、と唇に人差し指を当てているエランさんはすごく…えっちです。
「大丈夫、しないよ。着衣で背中を向け合っていても意味ないから。」
確かに、裸で向かい合っているのに手を出さない状況こそが、本当の禁欲と言えるのかも。ただ、これだけは確認しておかないと。
「あ、あの…。ちゅーもだめですか?」
夕飯前の深いキスにハロは反応しなかった。性器が触れ合わなければ肉体接触もセーフなんだと思う。何とか抜け道を探そうとしている私に、彼は首を振った。一瞬視線が勉強机か本棚の方を向いていたのはどうしてだろう。
「……今日はもうお互いに触れてはいけないよ。」
エランさんに促されるまま、私達はベッドの上で向かい合った。彼が言うには、裸の相手が目の前にいても襲わないことに慣れる必要があるらしい。それにしても、こうして彼の全身をまじまじと見つめる機会は今までなかったかもしれない。雄にしては細身だけど、首元はがっしりしているし、腕にも脚にもしっかり筋肉がついている。中性的な顔立ちなのに違和感はなくて、むしろ彼の美しさを引き立てていた。きっと、単純な容姿の造形ではなくて、彼自身の持つ儚さと気品がエランさんを芸術品のように魅せているんじゃないかな。私にとっては同年代のえっちで優しいお婿さんだけどね。
「君のこと、もっと知りたい。」
それまで黙って私の全身を凝視していたエランさんが、ぽつりと呟いた。何となく、私が抱える不安を曝け出してほしいと言われている気がした。
「私、おかしいですか?」
「今日の君は少しおかしいかな。何を考えているのか教えてほしい。」
ガンダムクラスの人達にヤキモチを妬いていたことや、突然料理を手伝うと言い始めたことを指しているんだと捉えた。
「理想のお嫁さんに、なりたくて…。でも私、人間じゃないから…。」
「僕の理想のお嫁さんは君だよ。」
「浮気しちゃ、だめです。」
「僕はスレッタ以外に興味ないよ。」
「だって、エランさんにぎゅーってされるだけで、びしょびしょになっちゃうから…。人間ならもっと我慢できるんですよね…?」
「分からないな。僕が好きなのは君なのに、どうして他の誰かになろうとするの。」
「!」
気のせいでなければ、エランさんの口が少し尖っているように見えた。うじうじしている私を慰めようとしているのではなく、拗ねて不愉快を口にしただけのようだ。そうだった、どんな時も飾らない彼だからこそ、私は惹かれたんだ。
「あと、濡れやすいのは良いことだと思う。」
「ほんとうですか?」
「性器を傷つけるリスクを回避しやすいからね。」
「えっと…。」
「たくさん愛し合えるってことだよ。」
「!そっかぁ…、えへへ……。」
強い眠気が私を襲い、うとうとし始めるまで会話は続いた。明かりを消した後はベッドの中でエランさんに抱きしめられながら眠りにつく。エランさんとたくさんお話できたことが楽しくて、心も繋がっていることが再確認できたことが嬉しくて、私の意識が消えるのは一瞬だった。
ところで、抱きしめ合うのはセーフなんですね?