ポケパロ7
昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴るまであと5分。ペイルクラスの午後の授業は座学だ。生徒達は各々の席に座って待機していた。窓の外から実技バトルを行っているジェターククラスの生徒達の歓声が聞こえてくる。どうやらグエル・ジェタークが連勝中のようだ。しかし、エランにとっては興味の惹かれる事象ではなかった。今日もまた、窓際の席で1人優雅に読書をしていた。現在最も煩わしい対象を挙げるとするなら、ジェターククラスの生徒達ではなく、隣の席で猥談をしている2名の男子生徒だろう。
「征服欲が満たされるのがたまんないっていうかさぁ。」
「惚気うぜー!」
「んだよ、じゃあこの話やめるか?」
「いいや、続けてください!」
周囲の軽蔑の眼差しには気づいていないのか、恋人との性事情を赤裸々に語る2人の男子生徒の勢いが止まることはなかった。どうせ授業が始まればその口を閉じるだろうとエランは気に留めないようにしていたのだが、それを許さない者達がいた。
「ちょっとあんた達!氷の君の前で下品な話してんじゃないわよ!」
「出たな親衛隊。こいつだって男だぜ?イケメンなんだから寄ってきた女の1人や2人食ってるだろ。」
「このお方はあんた達みたいに女なら誰でも良い非モテとは違うのよ!」
「氷の君が個人の所有物になるなんてありえないの!みんなの王子様なんだから!」
「でも恋人に一途な氷の君は見てみたいかも〜…。」
「「「きゃー!」」」
「静かにしてくれる?」
一瞥もくれずに呟いた彼の一言で、クラスは静寂に包まれた。騒いでいた生徒達が気まずそうな顔で一斉に自分の席へと戻っていく。
けして威圧的な暴君として恐れられているわけではないのだが、首席生徒の影響力はそれほどまでに大きいのだ。ましてや彼は端正な顔立ちだけでなく、その優美な立ち居振る舞いから一般生徒にとっては雲の上の存在だった。
そして彼は恋人がいるどころか既に二児の父親なのだが、学園の生徒は誰1人として知ることはない。
校内に鐘の音が響き渡った。
スレッタとエランの約束の日。
朝立ちを利用した運動の後も、食事中も、読書中も、入浴中も、就寝前も…排泄時などを除けば2人は文字通り終日繋がっていた。まるで1日で子供を孕んでしまったかのように彼の精で膨れた腹部を愛おしそうに撫でるスレッタの手に、エランが自分のものを重ねて微笑み合う。
果てると同時に全身の疲労によって瞼を閉じた2人の夢の中には、沢山の子供に囲まれる幸せな夫婦の姿があった。
『週に2度は身体で愛し合う』
2人が交わした新たな約束は、ある意味果然として毎日の交わりによって叶えられていた。互いへの執着が強い2人が両想いとなり、毎日同じベッドの上で密着をしているのだから、そういう雰囲気になってしまうのも致し方ない。箍が外れた彼らを止める存在はいなかった。むしろ、誰よりも2人の“なかよし”を望み、夜はモンスターボールに入ってお膳立てをする第1子の存在が拍車をかけていた。
流石のエランも1日交尾の翌日はぐったりと脱力してしまい、自分の上に跨る体力おばけのポケモンにされるがままであったが。博士によって妊娠を告げられるまでは避妊具を装着しながら、それ以降は健康的なタマゴを産む為だというスレッタの説得により隔たりなく身体を繋いでいたのだ。
つい奥に入りすぎてしまい、我が子の入ったタマゴをペニスでノックする度エランは内心冷や冷やしていたが、ポケモンのタマゴは頑丈だった。
「あぁっ、エランさん、そこっ–––––」
その日もペイル寮のとある一室では、ポケモンの嬌声やベッドの軋む音、粘着質な水音が響いていた。仰向けになり、立てた膝を開脚して夫を歓迎する妻の姿は日常と化していた。だが、どうやらいつもと様子が違うようだ。その視界に、彼女に覆い被さる夫の姿が映っていないせいだろう。彼の頭部は、ちょうど妻の大きく膨らんだ腹部によって隠れていた。
「少し苦いね。」
エランが口淫するのは幼い身体にお仕置をしたあの日以来だった。洗浄剤の匂いに混じった成長した雌の匂いが鼻腔に広がり雄の興奮を煽る。身体を清めた後なので彼女自身の匂いが薄れているのは残念だが、触れられただけで溢れる愛液を味わっていた。仄かな苦味がスレッタの性的興奮を表している。
「エラン、さんっ……やぁ………。」
スレッタは股に顔を埋めているエランの頭を掴み、灰黄色の髪をくしゃくしゃにした。既に2度の絶頂を迎えているというのに、腟内の柔らかな襞や大きくなった肉芽を撫で回す彼の舌の動きは止まることがなかった。エランの唾液か、スレッタの愛液か、最早どちらで濡れているのか分からない。下にバスタオルを敷いていても、零すことは許さないと蜜口から垂れ落ちる液体を1滴残らず唇で吸いとる。
彼の身体で潰されているわけではないのだが、この体勢では尻尾で訴えることもできない。
ならばと大腿で頭を挟み拘束すれば、しばらくすると酸素を求めたエランが内股に手を添えて隙間をこじ開け、顔を上げた。暗闇の中でギラギラと輝く瞳を、媚びるように潤んだ瞳で見つめ返す。
「もぉ、いれて……。」
「っ……。」
下穿きの下から存在を主張していたモノが、ますます固く張り詰めた。しかし、どれだけ互いを求めていてもエランにはそれ以上進むことはできない理由があった。視線を避けるように、再び秘所に顔を埋めながら口を開く。
「言ったはずだよ。前日くらい繋がるのはやめておこう。」
日付を超えれば、待望の2匹目の産卵日なのだ。妊娠中の行為は健康的だというスレッタの特性を疑っているわけではなかったのだが、若しものことがあっては夫兼父親として一生ものの後悔に苛まれるだろう。
そもそも妊婦に手を出すなという常識は、就寝前のいちゃいちゃが習慣化していた彼らには通用しないのだ。
「そこで話しちゃだめ、です……。」
生暖かい息が秘所に当たって擽ったい。
いくら性欲の強いスレッタとて、雄の子を胎内に宿すという生物の本能が満たされている今、どうしても結合しなくてはいけないというわけではなかった。なのでそれ以上は求めずにされるがまま身を任せていたのだが、自分だけが快楽に夢中になっているのは性に合わない。これが終わったらお返しをしなくては。ぼんやりとした頭で考えていると、肉壁を犯していた舌が抜かれた。ようやく終わったみたいだ……。
腹部には触れないように気をつけながら這い上がってきたエランが、スレッタの前髪を払い覗いた額に唇を落とした。中性的で綺麗な顔をしているが、腹部に当たる昂りが彼は間違いなく雄であることを教えてくれる。興奮した彼の姿をスレッタだけが知っていることに優越感を抱く。
獣耳に、瞼に、頬に、顎に、顔面中に濡れた口付けの雨を降らされて焦らされたスレッタは、唇を尖らせてエランのシャツをぐいぐいと引っ張った。すると、待ち望んでいた感触が唇にやってきた。
「んっ……。」
中をこじ開けようとエランの唇を舌で擦っても、首を振って迎え入れてくれない。口淫の後は駄目、ということだろう。自分は別に気にしないのに。深い口付けをするためには順番を気にしなくてはいけないと学んだスレッタは、今はただ愛しい人から与えられる優しい口付けに集中することにした。身体の興奮は覚めなくても、緊張が解れていくのを感じていた。離れていく唇を残念に思いながらも幸福に満たされたまま産卵日を迎えられる喜びを胸に瞼を閉じたスレッタだったが、腹部を彼のモノで擦られた感触でその存在を思い出し、目を開く。まだお返しができていなかったのだ。慌てて起き上がり、いつの間にかまた内股に手を置いて秘所を凝視していたエランと目が合った。
「エランさん…?」
「君の潮の味が知りたい。」
「しお…?はっ……だ、だめです!!」
相変わらず真顔で突飛なことを言い出す我が夫の願いをきっぱり断る。一瞬分からなかったが、潮というのは薄い尿のようなもののことだろう。好きな人にお漏らしを見られた羞恥で泣き叫ぶスレッタに「これは尿じゃなくて、女性が気持ちいい時に排出される生理現象だよ。」と解説された事があったが、そんなもの本人からしたらどちらも同じだ。
「君の分泌液は全て摂取したいんだ。だめ?」
「駄目ったら駄目です!ぐるるるる……。」
邪な目的があるならそれ以上触るなと威嚇するスレッタの姿にエランは渋々諦めた。産卵前の身体に余計なストレスを与えるわけにはいかない。好奇心を満たすのは次に交わった時でいいだろう。それはすぐにやってくるはずだ。機嫌を直してほしいとスレッタに口付けを送り、昂った熱を覚ましに向かうため膝を立てたエランだったが、ズボンのウエストを掴まれ阻まれてしまう。慣れた手つきで下穿きごとずり下げられ、閉じ込められていた欲望がぶるんと飛び出した。
結局こうなるのか……。
「はむっ!」
「はぁっ……。」
間を置かずに根元を両手で掴まれ、大きく開いた口に喰べられてしまった。何度されても、この一方的に快楽の主導権を握られているような感覚には慣れない。
「征服欲が満たされてたまらない」クラスメイトの噂話が耳に入ってきた時も全く共感できなかった。確かにやられている本人としては快楽を否定できない。だが感じている恋人の顔が見れない、喘ぐ声も聞こえないというのに何が楽しいというのか。美味しそうに頬張っているスレッタの表情は愛らしいが、どうせ咥えられるなら下の口がいい。
彼女はただ産卵前に体調を整える為エランの精子が欲しいだけなんだ。早く出してしまおう。
「僕が動くから、じっとしてて。」
「んん………!」
両手でスレッタの頭部を掴み、抽挿を始める。
いつもされるがままだったエランの予想外の動きに動揺したスレッタは、うっかり喉奥まで飲み込んでしまった。
「んぐっ。」
「ごめ………!」
「んー、んー!」
エランは急いで腰を引こうとしたが、苦しさから生理的な涙を浮かべているスレッタの姿に視線が釘付けになってしまう。嗜虐心をそそられたのだ。頬に集まる熱を夏の暑さのせいにすることはできない。
彼を煽るのは視界に映る誘惑だけではない。先端が暖かくて、締め付けられて、気持ちいい。
「動いても…いい?」
「ん!」
スレッタは大きく首を振った。歓迎しているというより、この状態で静止されては苦しいだけなので早く抜いてほしかったのだ。「ありがとう」と頭を撫でる手つきは優しいのに、彼の腰の動きは容赦がなかった。
「んっ、んんぅっ…」
「はぁっ、は…その顔、すごく可愛いよ、スレッタ。」
エランは息を荒くして興奮を隠そうともしない。これでは雪解けの君どころか、情炎の君だ。今の彼なら例のクラスメイトに共感できるだろう。
僕にそんな趣味はなかったはずなのに。
これではスレッタに愛する夫は変態だと誤解されてしまう。
エランさん、また私の事虐めて喜んでる…。
スレッタは愛する夫は変態だと理解していた。
「出るっ、僕の全部、君にあげるから…!」
絶頂の瞬間、エランはスレッタの後頭部を押さえつけて喉奥にドクドクと精を注ぎ込んだ。ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだのを視認してエランはようやく正気を取り戻した。
「んっ……けほっけほっ…。」
「苦しい思いをさせて、ごめん。」
息苦しさから解放されたと同時にケホケホと咳き込むスレッタの頬に手を添え、目を合わせて謝罪の言葉をかける。下がった眉が、申し訳なさを伝えていた。ノリノリで意地悪をしてきた人と同一人物とは思えないほど少し情けない彼の姿にくすりと微笑み、スレッタは頬の温もりに手のひらを重ねた。
「ミルク、ちょっと薄い、です。」
「君が毎日飲んでるからね。」
確実に妊娠させたいのであれば子種の濃度を上げなくてはいけない。3人目を作る時は禁欲期間を5日…3日間は設けないとな。エランは既に次の計画を立てていた。
「…歯磨きしたら寝ようか」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
食欲を唆るスパイスの香りが手元から漂い、鼻孔をくすぐる。食に興味を持つようになったのは、何でも美味しそうに味わって食べる食いしん坊な彼女と出会ってからだろう。
時計の針は正午を指そうとしている。エランは昼食の準備中だった。
スレッタは窓際のアームチェアに座ってエリィと談笑していた。エランは両親の出会いのエピソードを浮き浮きと聞き出そうとする娘と、はにかみ笑顔で語る妻の姿を時折振り返っては確認し、幸福を噛み締めていた。
惚気とエリィの期待が最高潮に達したときだった。突然、スレッタが膨らんだ腹部を押さえて額から汗をかき始めた。
「きゅー……きゅーっ……。」
「ママ、お腹痛いの?」
手を止めたエランが駆け寄り、肩を抱きながら立ち上がらせる。
「産気づいたんだろうね。おいで、ベッドに行こう。エリィは待っていてほしい。」
「うん…。妹が生まれたら起こしてね?」
自らモンスターボールの中に戻っていったエリィを見送ると、スレッタの身体を支えながらバスタオルが敷かれているベッドの上に座らせた。背後に設置した大きくて柔らかなクッションを抱きしめてうつ伏せになるように促すが、スレッタはふるふると顔を横に振った。彼女にとって楽な体勢が他にあるならそれで構わない。僅かな訴えも見逃さないようにじっと見つめていれば、ベッドをぽんぽんと叩きながら手招きをされる。そこに座れということだろう。何もできない夫が傍にいても苛立たせてしまうだけではないだろうか。少し不安になりながらもエランは指示に従い、気休め程度にスレッタの背中を摩った。
「うー……。」
スレッタの唸り声に反応して膣口を見れば、白い楕円が顔を覗かせていた。分かっていたことだが、やはり彼女は人間ではないのだ。
「タマゴが見えてきたよ。」
少しでも安心感を与えようと声をかける。予想通り苦悶の表情に変化はなかった。己の無力さを実感しながらも、命懸けで出産に挑んでくれているスレッタから視線を逸らそうとはしなかった。
「エランさん…。」
「うん、おいで。」
這うようにしてエランの上半身によじ登るスレッタを優しく抱き留めた。肩に乗せられた重みが愛おしくなり、耳元で深い呼吸音を聴きながら何度も頭を撫でる。
「んぅっ!エラ、さ……。」
「どうしたの?何でも言って。」
「腰。なでなでしてください……。」
「いいよ。」
2人の子供だというのに、男のエランにはその苦しみを理解してあげることができない。だからこそ、彼女の望みは何でも叶えてあげたかった。
「んあぁっ!うぅ~~!!」
「スレッタ。何かしてほしいことはないかな。」
「?」
「産卵を終えたら、君の願いを何でも叶えるよ。」
「はぁっ……なん、でも?」
心なしかスレッタの声に活気が戻ったように聞こえた。
「うん。でも、僕の傍から離れていくのは駄目だよ。」
エランの発言に、スレッタはぐったりしていた頭を勢いよく上げて向かい合う彼の緑の瞳を見つめた。自分の想いをぶつけるように、石頭で彼の額に頭突きをする。
「いてっ。」
「そんなの、ありえません!」
「……うん、知ってる。返事は後でもいいから。」
エランは片手で赤くなった額を押さえながら、これで少しは彼女の痛みを引き取ることができただろうかとズレたことを考えた。
優しく後頭部に添えてくれた彼のもう片方の手の感触に少し安心したスレッタは、再び彼の肩に頭を預けた。
「わ、たし……エランさんに、ずっとしてほしいことがあって……。」
「うん、なに?」
「ぐっ───……。」
「もうすぐだよ。」
この体勢ではタマゴの様子を確認することはできないのだが、そんな予感がしたのだ。
「あ、なた、の………あぁぁぁぁ!」
「僕達の子供だよ。」
「はい、私達の……。嬉しい、です。」
「……君には貰ってばかりだ。友達も、家族も、希望も。」
「わたしの方が、エランさんに、たくさん……。」
「エランさん、お願いしたい、です……。」
「うん。君の願い、聞かせてほしい。」
「わたしを………あなたのポケモンに、してください」
「は………。」
「約束は守る。でも–––––」
「でも?」
「しばらく時間がほしい。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「どういうことだ?」
エランは風呂上がりで濡れた髪をタオルで拭きながら、目の前で浮遊しているハロに表示された文面を読み独り言を呟いた。送信者はベルメリア博士。表題には『依頼されていた件についての報告』と記載されている。
『DNA鑑定の結果、貴方と二匹目のエリィの親子関係が証明されたわ。生まれた子供がポケモンであろうと、人間の遺伝子は受け継がれるようね。おめでとう、スナイパー。
そういえば、興味本位で一匹目のエリィとも比較してみたらこちらも一致したのだけど、どういうことかしら。』
次女だけでなく、他の雄の子だと思っていた長女もエランの実の娘だったという内容だ。
今回DNA鑑定を依頼していたのは浮気を疑っていたからではない。ポケモンと人間の間から生まれた次女は、純血のポケモンであるはずの長女と変わらぬ姿をしていた。であれば人間である自分のDNAの情報が書き換えられているのではないかという可能性が浮かんだのだ。
その結果エランの心配は杞憂に終わったのだが、新たな疑念が生じてしまった。確かにスレッタは何度もエリィはエランの子供だと訴えていた。だが長女が生まれる前のエランとスレッタは交尾など1度も行っていない。夢の中で情熱的な夜を過ごしていた期間はあったのだが、どれも朧げな記憶なのだ。本当にスレッタと初夜を迎えていたのであれば、後で見返す為にカメラを設置していたと思う。
何となく力が抜けてしまい、そのままベッドの縁に腰を落とした。
「エランさん、眠らないんですか?」
一足先に身を清めて夫を待っていたスレッタが、布団の中から声をかけた。
「あぁ…うん、気になることがあって。」
「きゅー?」
「スレッタ、エリィは2人とも僕と君の子供なんだね。」
「がるるる……。まだ疑ってるんですか?」
「だってあの時の僕には君と交尾をした記憶がない。君は何か知ってるの?」
「きゅっ…そ、それは…。」
スレッタが言葉に詰まってしまった。やはり彼女だけが知っている何かがあるようだ。後ろめたいことなのだろうか。それともエランに気を遣っているのか。
ここでエランの中に一つの可能性が生まれた。
そういえば、素股でも妊娠する可能性はあると参考資料に書かれていた。誘惑をしてくるスレッタの魅力に抗えず、何度も挟んでもらったことがあった。まさか、その際飛び散った精子が膣内へと侵入していたのでは。いや、推定受精日を思い出せ。あの日の僕は疲労によって彼女と行為に及ぶ余裕などなかった、きちんと誘惑に抗い…できていたっけ。駄目だ、まるでロックがかかっているかのようにそれ以上思い出すことができない。
「スレッタ、あの日のこと、詳しく———」
「おやすみなさい!ハッピバースデートゥユー♪」
美しい歌声がエランを夢の世界へと導いた。
まただ。昨夜の記憶がすっぽりと抜け落ちている。以前も同様の症状が続いた時期があった。ぼんやりと思い出せるのは、誰かを祝福する歌声と、扇状的なスレッタが登場する夢だけ…。何故か寝癖が取れないのは、昨夜髪を乾かさずに眠ったからだろうか。スレッタやエリィと過ごした記憶が1秒でも失われてしまうのは耐え難い。何とかして原因を突き止めなくてはいけない。
考え事をしながら朝食後の洗い物をしていると、ふと視線を感じ、流れる水を止めて視線の出所へと顔を向けた。そこには先日タマゴから孵ったばかりの次女が立っていた。人差し指を咥えながらエランの下半身をじーっと見つめている。
「どうしたの?」
「パパのおちピ—-って美味しいの?」
脳内規制が間に合ってよかった。生後1日の次女がどこでそんな言葉を覚えてきたんだ。そういえばこの子がまだ胎内にいる時——-考えるのはよそう。
「……美味しくないよ。」
「でもママがね、美味しそうにパクパク食べてるのエリィ見たよ。」
「んんっ…いつの話?」
吹き出しそうになったが何とか平静を保つことができた。我が家の女性陣の爆弾発言には慣れてしまったのだ。
「今日!途中でパパも起きて、腰ふりふりしてたでしょ?覚えてないの?」
点と点が繋がってしまった。つまりはこういうことだろう。
スレッタは就寝前のエランに催眠技をかけた。そして寝込みを襲っただけでなく、半覚醒状態のエランが逆襲したというわけだ。初夜の記憶を失った自分を責める前に、“犯人”に事情聴取をしなくてはいけないようだ。
「駄目ですー!」
部屋中に素っ頓狂な叫び声と大きな足音が響き渡る。
疑惑の渦中にあるポケモンがエランの腰––––いや、股間に飛びついてきた。自首をしにきたのだろうか。記憶がないとはいえ、エランも子供の前で性的接触を行った共犯者だ。それに、彼女が浮気をしたのだいう思い込みを頑なに曲げず、スレッタを傷つけてしまったことへの負い目があった。ズボン越しとはいえ股間に顔を埋めて大袈裟にくんくん嗅いでいる奇行には目を瞑り、ここは喧嘩両成敗ということで手を打とう。
「パパのおちんピーーーは、ママだけのものです!」
撤回しよう。この常習犯には“分からせ”ないといけない。
子供の前で交わることをあんなに恥ずかしがっていた君はどこへいってしまったのか。
「……エリィ、パパとママは今から『なかよし』するから。」
「きゅ?」
「わーい!モンスターボールの中で待ってる!」
「ありがとう。」
長女が話したのか、エリィの間で意思が繋がっているのかは不明だが、意味が通じたようだ。物分りの良すぎる次女は、瞳を輝かせてモンスターボールの中に入っていった。ちなみに長女は何故か起床時から既にモンスターボール入りしていた。流石はエランの娘、先見の明があるようだ。
一方エランのお嫁さんは不穏な空気に気づいていないようで、エリィの入ったモンスターボールとエランの顔を交互に見比べていた。
「それじゃあスレッタ。夫婦喧嘩を始めようか。」
「きゅ?きゅ?」
先程は”なかよし“と言っていたのに”夫婦喧嘩“?
ようやくエランを怒らせてしまったのだと気付いたスレッタは、慌てて絡みつけていた腕を離すがすぐに捕まえられてしまう。抵抗する暇もなく、そのままベッドの前まで連れて行かれた。
「四つん這いになって。」
「1日交尾の日はまだ早いんじゃ…?」
「僕にお尻、突き出して。」
有無を言わせない淡々とした声を訝しげに思いつつ、スレッタは従った。従順な妻の姿を確認したエランは、無言で勉強机の方に歩いていき。引き出しから何かを取り出すと再びスレッタの元へと戻ってきた。スレッタはそこに避妊具が隠されていることを知っている。夫婦喧嘩というワードにビクビクしていたが、つまりそういうことをするのだろう。正直普段は優しいのにえっちのときはお仕置きと称して意地悪になる夫の姿は嫌いではない。むしろゾクゾクする。
せっかくの休日なのだから家族でお出かけをしたかったのだが、1日中エランと一緒に過ごすことができるならそれ以上求めることはない。この後の行為を想像して期待に弾む胸のように、スレッタの尻尾は踊っていた。
一方、スレッタのワンピースをたくし上げたエランは、目の前に現れた剥き出しの桃尻を見て固まっていた。
「下着は着けた方がいいと思うよ。」
「善処します…。」
下着なんて元々野生のスレッタには無縁のものであった。それに、どうせ毎日シているのだから余計に必要性がわからなかったのだ。
「多分冷たいから。」
「ひゃうっ、え、エランさん…?何ですか、これ。」
突然尻に冷たい体液のような何かが垂らされ、スレッタの身体はびくりと震えた。
「潤滑ゼリーだよ。人工的な水分を与えることによって性交時の痛みを軽減してくれるみたい。」
「で、でも…。」
スレッタが淫乱な雌ポケモンであることはエランもよく知っているはずだ。なにせ、少し彼に触れられただけで愛液でぐっしょりと濡れてしまうのだから。そう、今みたいに。しかし不要だと断るのは憚られた。彼の気遣いを嬉しく思い、口を噤んで身を任せることにしたのだが、液状のゼリーを掬った彼の指の行き先は固く閉じた門だった。
「きゃんっ!え、エランさん!?そこはお尻の穴です!」
スレッタが驚愕の声をあげても、菊門を撫で回すエランの親指の動きは止まらない。
「そうだね。ちゃんと解してから入れるから、安心して。」
「い、入れるって、何を……。」
「君がさっき、大きな声で叫んでいたもの。」
「きゅ!?」
「君だけのものだよ。こっちでも僕を受け入れてほしい。」
「できませ……あ、んっ。」
高く持ち上げられた尻尾は、肉芽を摘まれ抵抗する力を失った。流石夫は妻の身体をよく理解している。スレッタはそこを弄られると何もできないか弱い娘になってしまうのだ。
額をベッドに擦り付けてぷるぷると身体を震わせて快楽に耐えているうちに、筋肉の緊張は和らいでいったようだ。肉陰唇を愛撫する手はそのままに、「いれるよ」という声が聞こえたと同時に菊門の中に指が侵入した。
「ひゃっ!そんなとこ、汚い、です…!」
「指サックつけてるから感染の心配はないよ。それに、君の身体に汚いところなんてないから。」
それは夢を見すぎではないだろうか。突っ込みを入れる余裕など今のスレッタにはなかった。
「どうして!どうしてですかぁ!」
「君の大切なものをいただいたはずなのに、覚えていないことが悔しいんだ。だから、後ろの初めてを僕が奪う瞬間をこの目に焼き付けたい。」
「あっ………。」
痛いところを突かれてしまい、スレッタは口を噤んでしまっった。催眠技をかけて子種を貰っていたという真実を知られたくなかったのは、後ろめたい気持ちがあったからだ。エランは自分が初めてを捧げた相手であると同時に、初めてを奪ってしまった相手でもある。スレッタの処女を大切なものだと評する彼にとっては、自身の童貞も守りたいものだったのではないかと考えたのだ。彼に経験がないというのはスレッタの憶測だったが、他の雌の匂いがしたら嗅ぎ分けている自信はあるので、ほとんど確信している。
悶々としながら中を擦る指に身を任せていると、ベッドについていた片手を掴まれ、自身の下腹部に押し当てられた。何をしようとしているのか。
「スレッタ、自分のお腹の中に『おそうじ』できる?」
「できます、けど…?」
『おそうじ』はスレッタの技だ。超能力を用いて対象物を綺麗に掃除する。使い所によっては恐ろしい効果をもたらすとされているが、使用する機会はなかなか巡ってこなかったので、スレッタ自身存在を忘れていた。
訝しげに思いながらも、視線に促されるままに、スレッタは自身の腸内を洗浄した。
「ありがとう。これで君も恥ずかしがらなくて済むんじゃないかな。」
「きゅー?」
「いやぁ…♡いやですぅ…♡」
「気持ちよさそうだね。」
最初の愛撫からどれだけ時間が経過したのだろうか。スレッタの固く閉じられていたはずの菊門は入念に解され、今はエランの屹立したペニスを根本まで咥え込んでいる。
処女を喪失するスレッタの表情を観察したいという彼に組み敷かれて正常位で繋がっていた。お尻の下に枕を置かれているせいで、奥深くまで飲み込んでしまう。エランが形を刻みつけるように、傷つけないように、ゆっくりと抽送する度に、彼の胸板に胸の蕾が擦れて刺激となった。
「エランさんの、ばかぁ……。そこは、入れる穴じゃ、ないです…♡」
「そうかな。もう僕専用の入り口になってしまったようだけど。」
挿入された当初は圧迫感が気持ち悪かったが、エランとの身体の相性が良すぎるせいなのか、膣内や胸も愛撫されているうちに肛門からも快感を拾い始めていた。エランの言う通り、後ろの穴まで彼のものに作り変えられてしまったみたいだ。しかし、スレッタは素直に頷くことができない。肛門性交という概念がポケモンには–––少なくともスレッタの中には存在していなかったのだ。夫の期待に応えられた喜びはあっても、スレッタはアブノーマルプレイをすぐに受け入れることができない潔癖なところがあった。もっとも、その矜持もあと1、2回繰り返せば崩れ落ちる程度のものであったが。
「やぁっ…エランさん、抜いてくださ…。悪いことしてごめんなさい、ごめんなさ…。」
『悪いこと』–––その言葉を聞いた瞬間、それまで満足気だったエランの表情が凍りつく。何時迄も曖昧な表現で濁し、身体は蕩けているくせに言葉で自分を拒絶するスレッタに苛立ったのか、勢いよく最奥を貫いた。
「きゃんっ♡」
「眠っている間にぼくのモノを勝手に使って1人で気持ち良くなっていたんだね。それって自慰行為じゃないかな。」
「あっ……ち、違……!」
「違わないよ。初めてを奪われた時の君の反応も、この胸の高揚感も、快楽も、ぼくは覚えていないんだから。」
普段は凪いだ心を持つエランでも、スレッタが絡むと少し面倒くさいことになる。しかし、彼の屈折しているようで真っ直ぐな訴えは、スレッタによく響くのだ。
「ごめんなさい…。エランさんのおちんちんで1人えっちして、ごめんなさい!許して、ください……。」
「なら、もう僕に催眠技はかけないって約束してくれる?」
「約束、します!もう、エランさんに技は使いません!」
「うん、約束。僕の方こそ、言い訳ばかり並べて、たくさん待たせてしまってごめんね。」
「あぅ、いえ……私が、待てなかったから……。」
「エリィを浮気相手の子だなんて疑ったことも、ごめん。」
「それは私が本当のことを言えなかったせいなんです…。ごめんなさい!」
「いいんだ。2人とも僕の子だと証明されただけで、すごく嬉しかったから。」
「良かった、です……。」
2人は微笑みながら見つめ合った。互いの蟠りが解消されたのだ、それ以上の言葉は必要ない。目を細めて降りてくる端正な顔を、スレッタは瞼を閉じて受け入れた。唇の隙間をこじ開けようとする熱い舌に迎え入れようとしたところでとある違和感に気づいたスレッタはエランの胸板に手を置いてストップをかけた。どうしても“ソレ”を受け流すことができなかったのだ。エランの顔には影が走っており、非常に不満そうだ。
「いや?」
「いやじゃ、ないんですけど…。あの、抜いてください……。」
まだ剛直は熱を保っているというのに中断される雄の辛さはなんとなく本能で理解しているのだが、約束を守らなくてはいけないのはエランだって同じだ。後処理の責任は取るので、早くこのアブノーマルプレイから解放してほしい。スレッタが伝えたいことに納得がいったエランは小さく口を開き「あぁ」と呟いた。ぴたりと密着していた腰が離れていき、スレッタが安堵の息を吐いたのも束の間、彼は抜くどころか抽送を再開してしまう。
「エランさん!なんでぇ!」
「もうすぐ達するから、それまで付き合って。」
「いじわる…!」
エランの言葉通り彼が薄い膜の中に精を吐き出すまで、スレッタの腰は揺さぶられていた。
ようやく解放されたスレッタだったが、お尻の異物感は払拭することができなかった。本来であれば性交の為に存在している穴ではないのだから当然だ。ただ、その背徳感に自分も彼も夢中になっていたことは否定できなかった。性に無頓着な顔をして変態的な趣味を持っている夫に対し不満を訴えるような目を向けた。するとそこには、引き出しから新しい避妊具を取り出す彼の姿があった。咄嗟に両手を後ろに伸ばし尻を庇ったスレッタは、壁まで後退りをしてから震える声で抗議をした。
「お、お尻もう駄目、です!」
「そっちには入れないよ。」
「なら……どして、また、避妊具…。」
怯えるスレッタに一瞬眉を顰めたエランは、音も無く静かに歩み寄ってきた。壁に片手をついて、スレッタの表情をじっと見つめる姿はいつもの彼だ。
初夏でも汗一つかいていない涼しげで綺麗な顔からは、先程までスレッタを襲っていた人物と結び付けるのが困難だった。
スレッタが落ち着いたのを確認してから、エランは口を開いた。
「“夫婦喧嘩“の後は、“仲直り”をしないとね。」
「あ……それって……。」
乾いていた膣口に、一瞬で蜜が溢れていく。やはりスレッタには人工的な潤いなんて不要だった。
「涙を流して拒絶しているのに、快楽には抗えない君が可愛かったから。」
「いじわる……。」