ホシノ完食

ホシノ完食



 ホシノサクサク。それはTwitter上で突如流行した、デフォルメされたホシノがエビフライの衣を纏った姿である(原義的には天ぷらの方が適切か?)

そんなホシノサクサクが今、私の皿の上に居る。


 「ウゴイテナイノニアツイヨー!」と(>Δ<)の顔をするそれは、紛れもないホシノサクサクであった。サイズは13cm程度、今日の夕食である海老天の群れの中で、キャベツの千切りを枕に横たわっている。「ウヘーウヘー」と鳴きながら、何を考えているのかモゾモゾと動いている。

私はそれを箸で摘んでみた。摘まれたホシノサクサクは一瞬キョトンとした表情をした後、ウヘー!ウヘー!と身を捩り始める。体を上下に動かすその抵抗は、しかして箸から逃れられるほどではない。

まずはソースを付けてみよう。天つゆが跳ねないようにぐっと皿に押し付ける。ホシノサクサクより一層強い(>Δ<)ウヘー!の表情になった。ビチビチとした動きを箸越しに感じながら、狐色の衣は薄茶色に染まる。

ソース皿から持ち上げる。未だにウヘウヘと動いているが、箸に摘まれるのに慣れてきたのか動きがゆっくりしている。絶妙にウヘッとした表情で、天つゆに濡れたことは特に気にしていないようだ。いよいよホシノサクサクを口へと運ぶ。ホシノサクサクの下半身がピチピチと舌の上で跳ねる。口の中の生きている感触、

ブツリとそれを噛みちぎった。


 出汁の香りと衣の食感、そしてなぜか感じるエビの味。ぷりぷりとした食感はホシノサクサクの中身であろう。小骨のような硬い感触は無い。事前に処理されたのか、あるいは中身が綿で出来たぬいぐるみだからかもしれない。思っていたよりも肉厚で、飽きない味だと思った。プチリプチリと肉(肉?)繊維が千切れる音がする。もぐもぐと咀嚼しながら、ふと箸の先に目を見やった。ホシノサクサクは無表情であった。体の半分を失い、ピクピクと微動しながらも一言も発さないそれは、ただひたすらに無表情であった。

二口目を口に運ぶ。…味に変化はない、強いて言うなら下半身よりも肉厚か。肉と衣が肉と肉とが剥がれる感触を感じながら、私は二口で食べ切るには少し大きすぎたかもしれないと少し後悔した。噛むたびに感じる確かな旨み、そして千切れる肉のカケラ。歯の裏に舌の下に散らばったそれを私は静かに飲み込んだ。


 箸で摘んだままだった尻尾を皿に置き、口直しにエビフライと間違えて用意してしまっていたキャベツを喰む。その後コップの水を飲み込んで、ようやく一息ついた。

あの鳴き声はもうしない。さあ、残りも早く完食してしまおうと、私は無感動にそう思った。



Report Page