プレゼント
休みの日は、たいていリツカお兄ちゃんの部屋に転がり込む。
体を重ねる事も多いけれど、そうでない時もある。どちらにしろ、彼と過ごす時間はわたしに得難い幸福感を与えてくれた。
いつでもその姿を見ていたいし、その逞しい体に触れていたい。
彼と共にいると、沈黙すら苦にならずドキドキした。もちろん、その大きな腕で抱きしめられる瞬間だって。
リツカお兄ちゃんが好きだ。声も、キスも、身体も、心臓の拍動も。宝石のような存在が、こんな小さな身体に夢中になってくれるのが嬉しい。
そんなリツカお兄ちゃんに、何か形の残るものをプレゼントしようと思うのはある種当然のことだった。
とはいえわたしは、ゼロから何かを生み出す能力というものに欠けている。だからこの前、イリヤとミユに相談したのだ。どうすれば喜んでもらえるか、と。
人型ボディのルビーとサファイアも混ざってきて、5人でうんうん唸って考えた。途中からはイリヤ達もプレゼントを贈る気になっていたけれど、まあ別々のものを贈れば埋もれたりはしないだろう。
イリヤ達は花束(花言葉も調べて選ぶらしい)、食べ物、あやしい薬(!?)などを考案したが、その中でわたしは「実用的なものが良いだろう」と思った。
折好く現代に近い年代の微小特異点が発生し、そこで買い物をする機会を得たのは僥倖だった。
───
休日(特異点で平日休日という概念を出すのもおかしな話だけど)のショッピングモールは混んでいた。…そういえば、わたしがこんな人混みを直に経験したことって何度あっただろう? …まあ良いか。各自で別れ、各々のプレゼントを買いに行く。
しかし、具体案が決まっていたイリヤ達と違い、わたしは『実用的なもの』から先のビジョンがなかった。なので、迷いなく歩き出したイリヤ達と違い、わたしは独り寂しくモール内を彷徨う羽目になった。
何件目かに立ち寄った北欧風雑貨店は中々気に入る商品が多かったが、それでも決めきれず。ああでもないこうでもないと唸ること数十分、別の店で買い物を済ませたイリヤ達がこちらを探して合流してきた辺りで、ようやくお眼鏡に適うものを見つけた。
「なんだろう、これ」
『ペーパーウェイトですね。そこそこの実用性と、インテリアとしてのビジュアルの良さが両立できるアイテムですよ』
イリヤとルビーが銀と赤の髪を揺らしながら会話する横で、それを手にとってみる。
掌に収まるくらいの、ずしりとしたハート型。構造把握で調べてみると、強化ガラス製のしっかりとした造りだった。色は自分が手にとった蒼以外にも、紅、透明、緑、紫など。それらが店の証明に照らされて、宝石のように輝いている。
「…かわいい」
そんなミユの呟きで、心が決まった。値段は高かったが構うものか。
「…これにしよっかな。ねえ、色はどれが良いと思う?」
『では、紅がよろしいかと。クロ様から贈られれば、その色を見る度にクロ様を思い出していただけるでしょう』
「ありがと、サファイア」
『いえ。旦那様を愛する同志として当然のことをしたまでです』
「お堅いわね。まあそこがサファイアらしいんだけど」
サファイアに礼を言いながら、紅いペーパーウェイトと、ついでに自分用の蒼いペーパーウェイトを手にとってレジに向かった。紅い方はちゃんとラッピングもしてもらって、イリヤ達に劣らないプレゼントが用意できた。…いや、インパクトだけならあやしい薬が一番だけど、あれはジョークグッズ的な側面があるから、うん。
───リツカお兄ちゃんに色々な色彩を与えてもらって、それでも成長しきれないわたしが隣にいて良いのかと悩んだことが、ない訳ではない。それでも、手放すなんてことは出来そうになかった。
…これは、ある意味では新しい一歩だ。リツカの力を借りれば、わたしでも本物を生み出せるという証明、過去の自分の超克。今はまだ市販品だけど、いつかは…。
「ほえー、クロのああいう笑顔って珍しいね」
「イリヤと同じ顔で、イリヤとは違うタイプの笑顔……写真に収めるべきかな?」
『ご安心を美遊様。姉さんが既に記録済みです』
『ふふふ、わたしの秘蔵アルバムにまた1ページ…』
「人がしんみりしてるのに茶々入れるんじゃないわよ全く…」