ピエよんは穴があったら入りたい
「では、大仏さん。色々ありがとうございました。事件が終わってからも度々秀知院の方々と繋いでくださって感謝しています。」
「いえいえ。私もようやくアイさんへの恩返しが出来たと思っているから。
フリルちゃんとは仲良くしてるの?喧嘩してない?」
「はい。まだ包帯取れませんからかなり手を借してもらってますよ」
ひとまず大学入試が終わり、協力いただいた方達に御礼行脚中。
探偵として力を貸してくれた風祭さんからは探偵業にも誘われているが、臨床心理士の道も捨てがたい旨を伝えると答えは四年後、と回答を先延ばしにさせてもらった。
裏社会を通じて護衛していただいた龍珠さん、実践的な剣道や護身術を教えていただいた小島さんには果物を送りお礼を述べた。
今日は龍珠さん、小島さんを繋いでくれた石上さんと大仏さん、伊井野さんにお礼を言うべく、時間をいただいて都内のカフェに向かうと既に大仏さんだけ来られていたので先にお礼を述べていた。
「そっか。いつまでも仲良くね?
ころもちゃんから義弟自慢聞かされてるから改めて色々普通な話をしてみたくて」
「ころもさん、何話してるのか怖いなー…」
「基本褒めてるよ?『よく気が付く子だから義弟になるなら嬉しい』てよく言ってる」
「まだご両親には挨拶出来てないんですけどねー…怪我治ってからで良い、て言われたので」
「ミイラ男みたいだものね?斉藤くん」
コロコロと笑う大仏さん。かなり容姿が整っているが、面倒を避けるためにかなり地味な装い。
それでも眼鏡から覗く目の形や通った鼻筋はやはり芸能一家の出というのを感じさせる。
(有馬先輩の昔の知り合いでもあるんだよなー大仏さん。有馬先輩について色々聞いてみようかな?)
「斉藤くん?私の顔をじっと見てどうしたの?」
「いえ、やはり綺麗な方だな、と。
あ、フリルやころもさんには言わないでくださいね?客観的事実を述べただけなので」
「えー?彼女いるのにそう言うこと言ったらダメだよ?まあ私は分かっている女だから秘密にしてあげる」
「ははは…ありがとうございます」
大仏さんと取り止めない話をしているが、石上さんと伊井野さんは中々来ない。LINEで聞くと運悪く線路に異常があり、遅れているのだとか。現在はタクシーで来ているとのこと。
「あちゃー…ミコちゃん達運が無いなぁ…硝太くん、ケーキ奢ってあげる。何食べたい?」
「いやいや、悪いですよ!むしろ僕がお礼しないと!!」
「ここはお姉さんにやらせて欲しいのだけれど…」
僕達が奢る奢らないで押し問答している時だった。
聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「やぁ硝太君、こんなところで会うなんて奇、遇……」
何故か尻すぼみになっていく声。
思わず振り返りながら僕はあの名前で言ってしまった。
「あっ、ぴえヨンさんこんにちは」
…しまった。素顔だ。素顔時は芸名で呼ばない。これは視聴者の夢と幻想を守るための約束なのだ。
だが、僕は破ってしまった。
「か、風野さん…⁈ピエよん…てどういう…⁉︎」
「こ、小鉢…⁉︎」
大仏さんの鞄から溢れるピエヨングッズ。
中にはファンクラブ限定品の筋トレ指南手帳が入っていた。
(ま、まさか…ガチファン⁈しかもなんか複雑な関係…?)
とんでもない事態を引き起こしてしまった…
「ごめんごめん!遅れてしまって…て風野先輩!!どうしてここに?もしや大仏と⁉︎」
「よよよヨリを戻しに来たってこと⁉︎」きゃー!
遅れてきた二人にとんでもないことを聞かされた僕。
元カノ、元カレ⁈
マジで⁉︎
こうして地獄みたいな御礼行脚1日目が幕を開けた