ビーマとバターケーキ

ビーマとバターケーキ


 ビーマは悩んでいた。エミヤから初心者向けのお菓子作りの指導をしてもらえないかと言われたのだ。引き受けたものの、すでに人理修復がなされた今、ネタは出され尽くしていたのだ。同じものでもいいと言われたが、それはビーマのプライドが許さない。だがインドの菓子は甘いか甘いか甘すぎるかである故に、万人受けしない、そもそも料理工程が初心者向けではないため無理である。どうすればいいのか夜も寝ずに5日考えた。考え抜いた末、ビーマセーナのブレーキが壊れた。壊れたブレーキはふと、生前のある記憶を思い出す。そう、生前、一度のみ口にすることのできた珍味のことだ。

「ドゥフシャーサナ。」

思わず口に出た単語に笑みが溢れる。それを食材に使うことはカルデアでは問題があるが、それに関与するものであれば問題ない。そう、ここにはユユツオルタがいる。彼はカルデアにいる神性サーヴァントに手出しをしない代わりにドゥリーヨダナ属をギー漬けにすることで欲望を満たしていた。カリ化したドゥフシャーサナと最近やってきた魔性成分のないドゥフシャーサナがいた。解決策は、こんなに簡単なところに転がっていたのだ。そうだ、バターケーキを作ろう。

 

ユユツオルタのギー倉庫は食糧庫の端に無断で設置されている。食堂にも上級のギーを賄賂することで勝ち取られたその場所はキッチンメンバーであれば容易に入ることができた。

「なんだ、今日は全員いるじゃねぇか。」

行幸である。幸運Cにしては上出来である。ガラス瓶に上澄を種類に分けて収穫する。そう、ビーマの企画はお気に入りのギーでバターケーキを作ろうである。できたものは味比べをすれば過去との差別化になっていいだろうと、この時のビーマは本当にそう思っていた。

 

バターケーキは小麦粉、バター、砂糖、卵を同量使い作るパウンドケーキのことである。泡立てる、混ぜるなどの簡単な工程でできるため失敗が少なく初心者も手が出しやすいお菓子の一つである。大型のオーブンでそれぞれのギーを使って試作品を作る。味見にアルジュナを呼んでおいた。

「兄ちゃん。精が出ますね。これが試作品ですか?」

「ああ、一切れずつ食べ比べてくれ。おすすめはこれとこれだな。」

「全部同じに見えますが、何が違うんですか?」

「パウンドケーキは過去にもやってたんだが、やっぱり食材によって味が変わるってことも知ってもらうべきだろう?だからな、ギーを変えて作ってみたぜ。」

「・・・ギー?」

「ああ!!」

ビーマはいい笑顔である。アルジュナの顔は何かを察したのか段々と顔色が悪くなっていく。

「兄ちゃん、このギーどこから調達しました?」

「食糧庫だぜ。」

残念なことにビーマは嘘をついていないのである。

「質問を変えます。何が浸かってたんですか?」

「ギーにつけるものなんてここではあいつらしかいないだろ。」

アルジュナの顔がさらにしわしわになった。食べなくてよかったと心の底から思っている顔である。食べたら人権がなかった。スヨーダナの分を食べたらと思うと気が気ではなかった。だが、アルジュナにも好奇心はある。

「ちなみにこれは誰のですか?」

「こっちがカリ化ドゥフシャーサナ、これがこの間来た人のドゥフシャーサナだ。」

ビーマはとてもいい笑顔である。

「浸かったギーも一つ一つ違うんだぜ。カリ化した奴ほどちょっとギーの色が濃くなるんだ。一番薄いのは人のドゥフシャーサナとヴィカルナが一番普通のギーに近いな。次はアーユス、偽王、トンチキ王子の順だな。一番濃いのはオルタだな。流石の俺もドゥフシャラーのギーは使ってないぜ。コンプラは大事だよな。」

「もっとそもそものところに気を使って欲しかった!!」

好奇心は猫を殺すのだ。

「そうか、アーユスはそこにいるか。」

「カルナ、あの、これには、ああ。」

「アーチャーのカルナか。食べてくか?アーユスのはこれだな。ギーの中では花の香りが一番いいな。」

カルナが無言で弓を引く。

「兄ちゃん、お願いですからアーユスを連れてきてください。壺が割れてもまた職人が作るので大丈夫です。勿体無いって顔をするんじゃない!!カルナァ、食堂を壊すな!お前の弟も食事楽しみにしてるだろうが!弟のために我慢しろ!!このケーキ(アーユス分)はお前が食っていい!!」

「・・・二度はない。」

カルナが弓を消す。食糧庫の奥にビーマを追いかけて消えていった。ケーキは一つ消えている。アルジュナの心労ゲージだけが上がっていく。そういえばビーマの目は充血していた。早く片付けて殴ってでも寝かせよう。そうアルジュナは考えていたが、そうは問屋が卸さない。

「なぁ、アルジュナ。壺のギーの量が減っているのだが、心当たりは、あるか?」

そこには瞳孔の開いたユユツオルタがいた。

 


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