ビルの谷間、紫煙を燻らせ。決
#守月スズミ #鷲見セリナ #スズセリ「んぅ……っ!?んっ、んん……!ぷぁっ。はぁ、はぁっ……。な、なにをするんですか……!?」
思いもよらない行為にスズミは捲し立てる。対してセリナはとろんと蕩けた表情で、唇についたスズミの唾液を舐め取り、ゆったりと口を開いた。
「……えっと?ああ、そうです。タッチケアって、ご存知ですか?人に触れ、コミュニケーションを取ることで、痛みや恐れ、孤独などを癒すアプローチです。今の私にはそれが必要で、これはケアの一つですので……どうか、ご協力お願いします♡」
薄ら笑いを浮かべながら嘘を並べるセリナは、そうすることが当然であるかのように、スズミの回答を待たず口を寄せる。
「い、医師は!自身に診断を下してはいけないのではありませっ……んむっ!んんっ、ん……」
それに対しスズミは否定や拒絶こそしないものの、困惑した様子でなすがままにされる。それをいいことに、セリナは、今までの不満やストレスをスズミにぶつけるように、しつこくしつこくキスを繰り返す。
もう数えるのすら億劫になったころ、唇の間に人差し指が置かれる。疑問符を浮かべたセリナがスズミを見やると、なにやら決心めいた面持ちをしていた。
「本当に、本当に必要なことなんですね?」
「はい……♡今の私にはどうしても必要なことでして……」
「わかりました……」
──腰を抜かさせてあげましょう。
そういうと、スズミさんは両手を伸ばし、私の左右の耳がそっと塞いでくる。手のひらをぎゅっと押し付けられ、耳朶が歪み、隙間なく密着して外の音が遮断される。程よい圧力が頭蓋にかけられ、私より背の高いスズミさんがキスをしやすい角度に、くっ、と頭を傾けられて顔が近づく。凛々しい顔つきに胸が高鳴った。
(あれ?どうしてこんなに緊張しているのでしょうか。自分からした時にはなんともなかったのに……)
その疑問が解けない内に口を吸われる。
ちゅ、ちゅ、とほんの少し唇が触れるだけキスから、肉欲を満たすための貪るようなキスへと徐々に激しくなっていく。
舌が差し込まれ、口内を蹂躙される。
人体の弱点であるはずの頭を掴まれて、なんの抵抗も示させないままに舌を擦り合わせる。人の身体は興奮すると、粘性の体液を分泌するようになっている。混じって泡立った、酷く粘つく唾液は、スズミさんもまた興奮していることを示していた。
覆い被さるようにキスをするスズミさんの口から、甘い唾液が流れ込む。息継ぎの合間に喉を鳴らしてそれを飲み下す。変な話だけれども、とても、美味しい……。
くちゅりくちゅりと舌が絡まる音が頭蓋の内で反響する。耳が塞がれ外の音が聞こえない分、否応なしにキスの音に意識が向いてしまう。
舌を喰まれ、口蓋を舐られ、唇を甘噛みされる。
唾液で濡れた粘膜が擦れるたびに、下腹部に熱いものが溜まっていく。
「あっ……!」
スズミさんの膝が足の間に差し込まれる。
「まって、スズミさん……だめ、ここ外ですから……」
「なにが、だめなんですか?セリナさんが言ったんですよ?『ご協力お願いします』って。ですから、こうやって“触れ合って”いるんです」
少し前まで凛々しかったはずのスズミさんの顔は、色事を求めて熱に浮かされるような表情をしていた。そしてきっと今の私も、同じような顔をしているのだろう。