ビッチホリデイ(2)

ビッチホリデイ(2)



アキの前に、下着姿の女が突如姿を現した。ブラに包まれた乳房は、溢れそうなほど豊か。たっぷりと肉の詰まった尻にパンティが頼りなくしがみつく。

目鼻立ちも見事なものだ。濡れた椎の実のように艶のある瞳とすっきりとした鼻梁、ふっくらとした唇。そして白い肌に纏わりつく長い黒髪。

端的に言うと、とても魅力的な女だ。

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女は微笑を浮かべたまま、ゆっくりと腕を持ち上げ、アキに手のひらを差し出す。


もし、ここが何処かの寝室なら。

もし、誘われたのが女日照りのもてない男なら。誘惑には抗えないかも知れない。それほどの魔力を秘めた肢体がアキの目の前にある。

「…出てきちゃったけど、どうするの?」

アキは刀を構えたまま唸る。長考する事はできない。早い時は十数秒で消えてしまうらしいからだ。

「俺は本部に連絡を入れる…お前は時間を稼げ!」

「いいけど、消えてても怒らないでよ」

アキは天使の悪魔をその場に残し、本部に連絡を入れるべく走り去った。

「えーと…君、公安でビッチの悪魔って名前つけられてるけど、本当は何の悪魔?」

東京都、20歳、女子。❤️

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「弱ったな…会話できないの?」

連絡を入れたアキが戻ってくると、女の姿は既になかった。本部にいるマキマに改めて報告をあげるが、この展開を予想していたらしく、声色から失望や怒気は感じられなかった。

本部に戻った後、別の地点に出現したビッチの悪魔が撃退されたとアキは知らされる。「対魔2課のハンターが交戦したんだよ」とマキマはアキに伝える。契約悪魔で攻撃を加えたところ、あっさり倒せたそうだ。

「…なら、これで駆除は完了ですか」

「どうだろう…抵抗されなかったらしいからね」

本体が放った分身や幻影の可能性をマキマは口にする。マキマの懸念が的中した場合、失踪者は今後も増えるだろう。

マキマの懸念は外れなかった。日付の変わった深夜、ビッチの悪魔が都内で目撃されたのだ。


翌朝。

デンジ、アキ、コベニはマキマの執務室に集まっていた。

「現れる美女を倒しても無意味となると…対策を考えないとね」

「契約悪魔の攻撃は通るとして、刀などの武器はどうでしょう?」

マキマが口火を切る。まず、アキが意見を口にした。攻撃しても反撃はされないなら、追い払うのは容易だ。

「身体に触られるのは危険だと思うよ」

触れるだけで失踪してしまうなら、相手の間合いに入るのは極力避けたい。

「あ…あの、失踪した男の人達は…?」

「まだ発見できてないね」

コベニの問いに、マキマは顔色を変えずに答えた。

「ホテルに出現した永遠の悪魔のように、外の世界から切り離された空間を持っているのかも知れないね」

「誘いに乗りますか?」

「それが1番効果を見込めるかな…デンジ君、お願いできる?」

「えぇっ!?…早川先輩でいいんじゃないですかぁ〜…」

マキマにお願いされたデンジは狼狽える。ただの業務命令なのだが、マキマ以外の女の誘いに乗るようで、デンジは気が進まない。

「攫われた先が同じ場所なら、向こうで合流できそうですね」

「そう仮定していいと思う。本来の名前をいくつか予想してるけど、隠し場所を複数用意できるような力を持つとは思えない」

アキが推測を口にすると、マキマは肯いた。

巡回中に接触した4課職員は、あえて誘いに乗って相手の本丸に乗り込む。ビッチの悪魔に攫われた先で合流し次第、悪魔の討伐と失踪者の捜索を同時に進めるよう、マキマは3名に指示した。

パトロールはつつがなく終わり、やがて退勤時刻になった。デンジはビッチの悪魔と遭遇する事なく、夕飯時を迎える。

「なぁ、ビッチの悪魔ってどんなヤツだった?」

「下着姿の女」

「!?…へぇ〜」

デンジは夕食を食べながらアキに尋ねた。パワーはまだ帰らない。


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