パーティー

パーティー


助けて……。心の中でいくら助けを呼んでも頼れる同期はこの場にはいない。国際レースのウェルカムパーティーには出走選手とトレーナーに加えてURA幹部やスポンサー代表、各国の報道機関などたくさんの大人たちが出席していた。明るく照らされたステージでの長い式辞が終わり、薄暗いホールでの立食パーティーが始まる。

URAの人と話があるから好きに楽しんでおいでとトレーナーに放り出されたおれはきらびやかな世界に圧倒されて壁の花となっていた。最初に配られたにんじんジュースをちびちびと飲んでため息をつく。

「よ、暇そうだな?」

俯いた視線の先に現れたのは前のレースで走った先輩だった。おれと同じオレンジのポケットチーフを胸に挿し、見上げてきたその人は

「これ持ってて」

サイダーの入ったグラスを押し付けてホールの中央へ向かっていった。呆然と立ち尽くしていると先輩はちょっと止まって振り返り、ついてこいと目線で促す。細身のスーツを着こなした背中が人波に消えていく。

「待って」

急いで後を追う。見失わないように、周りにぶつからないように、左右のグラスからドリンクをこぼさないように。気後れしている場合ではない。

なんとか追いついた先にいたのは海外から来た女性選手だった。英語で何やら盛り上がっているが、ほとんど聞き取れない。したかなく談笑する2人をぼんやり眺める。

女性はシニアも3年目のベテランで落ち着いた立ち居振舞いが確かな経験を感じさせる。それに臆することなく対峙する先輩もまた、遠い存在に感じられた。

普段と違う髪型のせいで後ろから見下ろしていても顔がよく見える。前のレースよりずっと研ぎ澄まされて険があり、少し怖いくらいだ。

ふと自分の名前が聞こえて、腕を叩かれる。たぶん、紹介された。

「は、はろー」

ぺこりと頭を下げる。両手は塞がっているし慣れないスーツに着られているしお世辞にもスマートとは言えない挨拶だったはずだが、女性もにっこりと応えてくれた。

「次行くぞ」

それからあちこち連れ回されて、最後に連れて来られたのは先のレースで競い合ったメンバーが集まった一角だった。

「じゃ、オレは行くから」

「……あの」

「なに?」

「どうしておれを連れ回したんですか」

「人聞きが悪いこと言うなよ。そうだな、その方がおもしろそうだったから?」

にやりと笑って人垣に紛れた。1年後の自分は、どうなっているのだろう。


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