パージ2

パージ2


チェンソーマン教会、その出家信者の生活は祈りと労働をベースにしている。もっとも、フミコはそこに参加しない。

(ここ、娯楽が何にもないのが辛いですよねえ)

フミコは心の中でぼやくが、出家信者達も自由時間は絵を描いたり、読書をしたり、建物裏手の高い塀に囲まれたグラウンドで運動などをして過ごしている。

ただし、漫画本や映画視聴設備、ゲームなどの娯楽性の高いものは置いていない。彼等の居住区画には電話もなかった。

「言ってる場合か。それより、いつ何が起こるとも限らん。その剣は絶対に手放すな。風呂にもトイレにも持って行け」

(うえ〜、臭くなりそう)

フミコが割り当てられた部屋でぼんやりと過ごしている頃、東京都港区にある高級ホテルの前に一台の乗用車が停まった。乗用車は2人のビジネスマン風の男を降ろすと、ホテル前から走り去った。

2人の男はチェックインを済ませると、客室に入っていく。


「チェンソーマン教会の信者共は明日、礼拝の日だ。悪魔が出てもデビルハンター活動はしない」

夕方、バルエムは八王子市内の拠点を出て、武蔵野市の吉祥寺に足を運んでいた。飲食店のテーブルを3名の男女と共に占領しており、その中にはソードマンと名乗った少年の姿もあった。

「だから、ゴキブリみたいに出てくる民間と公安を殺していけば、正義感に溢れ出したチェンソーマンが悪魔を倒しに来る…来てくれればいいな」

バルエムは、チェンソーマンの出現を期待しているようだった。

少年には、仲間達がどうしてチェンソーマンに出てきてもらいたがっているのかわからない。ソードマンは質問するが、少年の問いに答える者は3人の中にはいない。

「俺は人間だ!血だってやった!ちゃんと考えさせろ!」

「そうだ。俺達は人だ。そして武器でもあり…悪魔でもある。この3つの共通点がわかるか?」

バルエムは3人に質問するが、彼が持っている答えを当てた者はいなかった。

「人も武器も悪魔も、人を殺す為に産まれてきたってトコだ。そんな俺達なら、明日何人殺しても、神様は許してくれるさ」


翌日、時刻は5時を回ろうとしている。

ホテルに泊まっている男が携帯電話に出ると、男の声が流れてきた。落下の悪魔降臨の後、フミコを保護した支援団体の代表である。短髪に眼鏡の男だ。

「お疲れ様です。お客様にはできるだけ大きな声を出してもらうという指示ですので、お子様か女性を優先して頂けると、こちらとしては助かります」

眼鏡の男は携帯での連絡を済ませると、喫煙を再開した。彼がいるのは、商業施設内に設けられた喫煙スペースである。

「タバコタイムは終わりましょうか。丁度5時になったら作戦開始ですよ」

「タバコ吸ってたの、アンタだけだろ!」

喫煙スペースから出てきた男に、彼を待っていた小柄な女性が吠える。大きなサングラスで目元を隠しており、人相は窺えない。

ソードマン…須郷ミリは5時に向かう時計を深刻な表情で見つめる。

「俺は武器!少し身体を貸すだけだ…!」

時刻が5時を回る。

眼鏡の男が背中に手を回し、小柄な女は笑いながら指を鳴らす。ミリは右手を引き抜いた。

3人は姿を人間から、武器の悪魔のそれに変えると課せられた務め、商業施設内での殺戮に取り掛かる。

武器の怪人達は施設内にいる客に凶器を振るい、老若男女問わず血祭りに上げていく。地獄絵図を描いていた3人の聴覚が、不意に唸り声の如き駆動音を捉えた。

「ウ"ァ"ァ"ア"ァ"!!」

「来たか!」

咆哮と共に両腕と頭部からチェーンソーを生やした怪物が姿を現し、3人に襲いかかってきたのだ。

「チェンソーマ〜ン!」

槍の怪人が、獲物でデンノコ悪魔の腹部を貫くが、チェーンソーの怪物は相変わらず唸り声を上げなから、両腕の鋸刃で斬りかかるだけ。

「があアっ!?」

「おい、コイツ倒していいのか!?」

両手から剣を生やした怪人が叫ぶ。

「いい!とにかく加減するな!」

鞭の異形は間合いを取りつつ、武器である鞭をデンノコ悪魔目がけて振るう。

時刻が5時を回る。

廊下に姿を見せた2人の男の身体が変形する。ボタンを開いたシャツの中から銃口が突き出し、両腕からは十数枚の小さな刃が連なったような鞭が飛び出す。

彼らはトーリカと名乗るデビルハンターが、契約悪魔の能力を駆使して作り上げた改造人間だ。質量や体積を無視して武器が内蔵され、一度展開したら二度と元には戻らない。

武器を披露した2人組はホテル内にいた人々を出会う端から殺害していき、複数名が視界に入った際は女子供を優先して狙った。

両腕の刃が唸り、腹部からは火炎が投射される。それらの武器は悪魔の心臓を得た人間の血液がベースになっている。

警備員、およびホテル側が雇っている民間ハンターが通報を受けて駆けつける。しかし、人体の限界に近いパフォーマンスを引き出された彼らが繰り出す、火炎と蛇腹剣のコンビネーションに苦戦を強いられてしまう。

「おーい!生きてるか〜!?」

警備員とハンターが倒され、火炎によってスプリンクラーが作動した廊下に間伸びした声が投げられる。廊下の端に、公安の制服に身を包んだ人物が姿を現した。

フードとマスクで顔を隠しており、表情は一切わからない。その手には長槍が握られている。

「そぉい!」

彼は手にしていた長槍を投擲して、2人組の片割れの頭部を射抜く。槍は身体が宙に浮くほどの勢いで男の頭部に刺さった。

頭部に槍が刺さった男は震える足で立ちあがろうとして、廊下に倒れ込んだ。武器を展開した身体には、既に重い負担がかかっていたのだ。

「お〜い…ダメだったか」

フードとマスクの人物、暴力の魔人は廊下に踏み込み、犠牲となった警備員とハンターの亡骸を一瞥すると、残念そうな声を発した。

「おっ、危ね!」

残った改造人間が振るう蛇腹剣を、暴力の魔人は小さく前に跳んで回避。懐に入ると、強烈なフックを改造人間の顎に見舞った。

「お、終わりました〜…」

戦いは暴力の魔人の勝利に終わり、一度退職してから公安に戻ってきた女、東山コベニは、バディである暴力の魔人が事態を収拾させた後、無線で外に連絡を入れた。

すぐに外で待機していた警察官と公安職員達がやってきて、遺体を外に運び出す。コベニはずぶ濡れになった暴力の魔人と共にその作業を眺める。


ーも、戻って…来ちゃいました……

ー久しぶり。また、コベニちゃんと仕事できるようになって嬉しいよ。


数年ぶりに再会した彼女のバディは、以前と変わらず、優しくて頼り甲斐があった。

速報が流れる。

チェンソーマン教会の信者複数人が、東荻窪の商業施設と港区のホテル内で銃を発砲。警察及び国家対魔公安局はチェンソーマン教会によるテロ行為の可能性もあると判断、迅速に対応すると発表した。

また、東荻窪の方にチェンソーマンが現れたという情報が世間に流れたが、これを知ったデンジは困惑した。その時間は別の場所にいたので、騒ぎには関わっていないからだ。

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