パンデモニウム

パンデモニウム


早朝の街の上空を、怪人の群れが飛び交っている。屋根から屋根へ、爆発と共に逃走を続けるのはレゼ。自宅にいたところを、見知らぬ男女に襲撃されたのだ。応戦しながら彼女は、市街の中心部から徐々に外れの方へ。

「デンジ君…」

彼等は悉く自分と同じ力を持っていた。槍、鞭、火炎放射器。服装はバラバラで、所属はわからない。数で劣っている為、戦いを長引かせるほど不利になる。そう判断したレゼはデンジより託された契約に手をつけた。

「デンジ?」

その頃、既に早川家の朝は動き出していた。朝食が済み、出勤の支度に動いていたデンジは目を見開く。スイッチを入れられたように一直線にベランダへ飛び出し、宙に身を投げた。気づいたアキもジャケットに袖を通す腕を止め、ベランダへ駆けていく。

ーーウヴン!

朝靄に沈む街を、チェーンソーの唸り声が切り裂いた。

「やばかったなあ〜!知り合い?」

武器の悪魔と合体した襲撃者達を撃退したデンジがレゼに尋ねる。

「見た事ないよ…多分、ソ連の刺客かも…」

「またかよ!どいつもこいつも!」

爆弾の頭部を持った女を、チェンソーの魔人が抱えて飛翔。デンジは自宅が襲撃されたレゼを早川家に一時匿う事にする。

屋根の上を渡り、帰宅する途中のデンジは岸辺を視界の端に捉えた。人目を忍んでいる様子が気になった為、近付いて声をかける。話したいことがあると言う彼を腸のマフラーで抱えて、デンジは家に戻った。


朝の早川家に風雲急を告げる岸辺。彼以外はことごとく常人ならざる者たちなのだが、彼ら彼女らは岸辺が対策部隊を率いてマキマを襲撃、そして失敗した事を知ると表情を曇らせた。

「マ…マキマさんを…襲撃って…」

「急展開すぎてワシ、ついてけん…」

「私、先生が原因で襲われたの…?」

「面倒くせぇ話になったな…」

レゼ含めた悪魔の心臓を得た者達は全員不死だ。切り刻んでも血液とトリガー動作で生き返る。マキマと敵対した岸辺を家に招き入れた現在、デンジも対策を考える必要があるだろう。

「マキマと睨み合いながら公安でなんて働けねえぞ…」

「じゃあ、倒すか!」

「どうするんだ?マキマさんへの攻撃は契約で別のヤツに移されるんだろ?」

「契約しとる……大統領?そやつをワシらで倒して…」

早川家の面々が意見を出し合う。

「あの…確認させてください。マキマさんへの攻撃は適当な日本国民の病気や事故に変換される…んですよね」

「そうだ。普通の攻撃は通じない。別の誰かを犠牲にして生き返るだけだ」

「日本国民の命が尽きるまで…」

「じゃあ、自殺は?事故とかよお」

「あの女が自殺するタマとは思えん。事故…ってのも、俺達が関わると契約に触れる可能性がある…」

「面倒じゃのう…デンジ、ウヌが食ってしまえ」

「待て待て、俺がマキマさん食ったら人間が終わるぞ」

「別に構わんぞ。ワシ、人間は嫌いじゃからのう…ジジイ以外、ここに人間はおらん」

「レゼがいンだろ」

パワーの発言について、岸辺が説明を求めた。仕方なく、デンジは己の能力の一端を明かす。デンジ…否、チェンソーマンが悪魔を食べると、その名前の存在がこの世から消えてしまう。核兵器、第二次世界大戦など、かつて自分が食って消した悪魔の名前をデンジはあげた。

「だ…第二次…?」

「そいつはまた、スケールのでかい話だが…事実なら確かにまずいな」

「だよな。支配が消えたら世の中めちゃくちゃになるぜ」

デンジの暴露に岸辺達は驚いた様子だ。有効打になるとしても、チェンソーマンによる捕食は代償が大きすぎる。倒す事は可能なメンツが揃っているが、倒し切る方法となると何も思いつかない。

「…視点を、変えてみないか?」

「視点?」

「手段を考えてもアイデアが出ないからな…攻撃する目的から考えを進めるんだ。愛情とか…好きが高じて、殺す…」

「おお…故障したのか!?アキ!!ワシが直してやる!!」

「愛情表現…って事?SMみたいな…」

アキが飛躍した理論を展開し始めた。攻撃をダメージに変換する、その契約の隙間をつくための意見を皆で出し合った結果、攻撃ではなく愛情表現や好意の発露として危害を加えられれば、マキマを倒し切れるのではないか?と言うのだ。

「とんちに近いな…俺にはうまくいくと思えん…」

「そこまでマキマさんを好きな変態、ここにいねえだろ?」

「変態かはともかく、好意を持っていたヤツはいた。俺だ。…パワー、お前、人間の闇を喰えるらしいな」

人間は見たくないものは見ようとしない、と言っていた気がする。もしそれが無意識に干渉できるという意味ならば、アキは契約の隙を突く事ができるかもしれないと考えた。


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