パウリーととある借金取り

パウリーととある借金取り


※扉絵に登場した、パウリーにハート飛ばしてた借金取りの妄想です。

※CP未満の片思いですが腐です。苦手な方はご注意ください。


 夏の太陽は等しく、この街に降り注ぐ。水路を淀みなく流れる海水が、撓むのではないかと心配になる程人を乗せた橋の下を流れている。

むせ返るような香水の匂いと、スーツに染み込んだ汗の臭気に吐き気が込み上げた。きっと皆そうだろう。

なのにそれに耐えてまで、こうして前へ前へ人垣を我先にと推し割っているのかと言うと、ひとえに一人の男の為だった。

ある人は彼のファンなのだろう。ある人は彼に本気で惚れ、求婚をせがむのだろう。自分と同じ色のスーツを身につけた人間は、彼に貸した金を今日こそと追い縋っている。

かく言うおれは、そのどちらでもあった。彼のファンでもあったし、惚れてもいたし、金を貸してもいる。

しかし、何も初めからそうだった訳ではない。

物心ついたばかりの頃、ウォーターセブンは酷い街だった。治安は乱れ、子供の泣き声が夜中響き、そこここにシャッターが降りているような、そんな場所。

おれの家も多分に漏れず船大工だったが、足りない物資を補給しに行った船が転覆し、両親の死と共に営んでいた店は潰れた。

それからの事は、余り覚えていない。人道に反することもしたかも知れなかったし、善人を貶めていたかも知れない。そんな明日すら見えない生き方で、ひたすらに開けない夜を待っていた。そしておれが借金取りという生業を見つけた頃、アイスバーグさんが全てを変えた。しかしその時にはもう遅く、おれの人生は定まってしまっていた。

パウリーと出会ったのは、それから間も無くだった。金を借りているというのに慇懃な態度で、「そんじゃあ、また一緒に走りましょう」と手を振り逃げられたのだから、今でも覚えている。

彼はそれからもひたすら逃げ回った。あるときはルッチさんに耳を引かれてドックの扉の奥へ消え、あるときは空を駆けるカクさんに気を取られ見失った。休日にブルーノの酒場で彼を見つけたとき、財布を掠め取ってやろうかと考えるほど彼への不満は溜まっていた。それに、あの笑顔が目障りだった。 

彼もあの頃のウォーターセブンを知っているだろうに、全て忘れたような振る舞いをしているのが気に入らなかった。きっと能天気に、大した苦労のない人生を送ったに違いないと妬んだものだ。

しかし、そんな生活は突然終わりを告げた。ルッチさんたちが、あのアクアラグナに攫われたように姿を消したのだ。風の噂で里帰りしたとは聞いたが、どうも判然としない。

街の復興を放るような、無責任な人達だとは思えなかった。だが、彼らと親しかったパウリーの様子は至って平然としていて、何かあったのかと探る余地もない。他の船大工たちも、その態度に押されて深くは尋ねていないようだった。

しかし、咎める人間が消え、パウリーの借金が増えていることにも、逃げ回る際、ふと屋根の上を仰ぎ見ていることにも、酒場で飲む頻度が減ったことにも、おれは気づいていた。そして、時折りどこか遠くを見るような目をしていることを偶然見てしまったおれだけが知っていた。

そんなとき、不意に誰かが呼びかけると、彼は決まって笑顔を返す。「どうした?」と、似合わないくらいに朗らかな声で。

その瞬間、おれはようやく理解した。この人は、忘れた訳じゃない。起きてしまった出来事に向き合い、ゆっくりと自分の一部にできる強さを彼は持っていたのだ。

まるで太陽のようだと思った。誰にでも等しく、いつも明るさを与えてくれる夏の日差し。これを恋と呼ぶのかどうかは分からない。それでも、おれはこの光に目を焼かれたって構わないと思ってしまった。

でも、それはそれとして。


「金返せェ!パウリー!!」


借金はしっかり返済して貰わなければ。そう叫びながら、今日もおれは太陽を追いかける。



Report Page